第110話 フライング女子高生
その後、夏海のお母さんとは普通に会話で来た気がする。
夏海のお父さんは現在だいぶ離れたところの基地に単身赴任状態だそうで。
ここにはお母さんと夏海だけで引っ越して来たそうだ。
そして前に夏海の話に出て来たお兄さんは……
また別の勤め先……
どこかの基地かな?
そこで勤務してるそうな。
「ウチは家族が揃うのは盆と正月だけなのよ」
そんなことを言いつつ明るく笑うお母さん。
……それに少し羨ましさを感じる。
しかし……
夏海のお母さん、転勤ってことなのか?
職業教師なんだよな……?
先生でも転勤ってある……んだよな?
そしてよくよく考えると。
夏海と迷宮1階で遭遇したあの晩。
確か夏海は両親ともに家に居ないって言ってて……
先生って夜勤あるの……?
分からん……。
あくる月曜日。
俺は少し家を出る時間が遅くなった。
朝食の準備でトチって、味噌汁の鍋をひっくり返してしまったんだ。
脳機能が強化されてても、うっかり腕を振るった先に片手鍋の持ち手があるなんて不運は回避できないんだな。
こぼれた味噌汁で絨毯がえらいことになって、その後始末で時間を取られた。
床が絨毯で無ければこうはならなかったんだけど。
今更言ってもしょうがない。
最低限の掃除をして家を飛び出すと、いつもより10分近く遅くなっていた。
クソ、片手鍋で味噌汁を作るのはもうやめよう!
片手鍋は持ち手が不自然に飛び出していて危険だ!
……10分近いロス。
これは走らないと間に合わないかもしれない。
クラス戦士を取得した後。
ずっと、俺は基本的に自転車は使わないことにしていた。
俺の力で自転車に乗ると、通行人が危険だろと思ったからだ。
ただでさえ自転車は通行人に危険な乗り物である場合が多いのに。
俺の力で乗るとスピードが本当に洒落にならない。
特に急ぐときは暴走しかねないから厳禁だ。
戦士のクラス能力で拡大された俺の身体能力は、無論持久力にも及んでいて。
それは家から学校までダッシュを維持することをかなり容易にしてくれる。
特に息も上がらず俺は交差点に辿り着く。
目の前の道路では車がひっきりなしに行き交っていて、朝の忙しさを目で伝えて来る。
……ここの交差点は、体感だけど信号がなかなか変わらない。
普段はスマホを見ながら待つのがデフォなんだけど
急いでいるときは、すっげえイライラするな。
待ってる間は移動できないし、焦りが募る……
(くそ、早く変わってくれ)
内心なかなか色の変わらない信号に苛立ちを覚えている。
でもこればっかりは、クラス能力ではどうしようも……
そう思ったとき
「天麻くんおっはよー」
そんな焦りを伴い信号待ちをしている俺に。
後ろから……
夏海が声を掛けて来た。
……余裕の声で。
「夏海!?」
俺が振り返ると、俺の後ろ上空から
夏海が制服のセーラー服の上にリュックを背負った状態で。
ゼット戦士よろしく飛行状態で俺に向かって来ていたんだ。