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第11話 クラス取得者登録

 迷宮の入り口から外に出ると、冷たい夜風が頬を撫でた。もうすっかり夜だ。

 空には星がチラホラと瞬いてるけど、街の雑踏の光で半分くらい隠れてる。

 俺の隣で、霧生がリュックを背負い直しながら、ちょっと興奮気味に鼻歌を歌っていた。


「……ったく、楽しそうじゃねえか」


 俺は小さく呟く。

 さっきのホブゴブリン戦と、霧生の魔術師選択の衝撃が、まだ頭の中でぐるぐる回ってる。


「次、役所だ。行くぞ」


 俺は顎で指し、歩き出す。霧生が「うん!」と元気よくついてくる。

 クラス取得したら、即役所で登録するのが鉄則だ。

 役所は24時間365日、クラス取得者登録を受け付けてる。

 理由? 「役所の都合で登録できなかった」なんて言い訳を許さないためだ。


 非登録でモグリがバレたら、即逮捕。

 場合によっては懲役確定。


 国は「クラス取得したら直行しろよ」って意思を本気で叩き込んで来てるんだ。


 まあ、超能力持った奴が野放しじゃ、どう考えても社会が乱れるしね。


 役所の夜間受付は、蛍光灯の白い光が無機質に広がる小さな窓口だ。

 霧生がブザーを押すと、受付のドアが開いて眠そうな中年職員がのっそり出てくる。


「すみません。クラスを取得したんですけど」


 霧生が、ちょっと緊張した声で言う。

 職員は無表情で書類を差し出し「こちらに記入を」とだけ呟く。

 霧生はクラス取得届にペンを走らせ、名前や住所を書き込んでいく。

 俺は少し離れたとこで、壁にもたれて待つ。

 やがて、職員がデジカメで霧生の顔写真を撮影。

 データベースに戸籍を照会する音が、カタカタと響く。


「戸籍の確認が取れました。登録は終了です」


 職員が事務的に言う。

 で。


「……魔法使いクラスの場合、クラス能力を使った犯罪は量刑を重くします。自覚ある行動をお願いします」


 手続きの一環なんだけど、最後に警告が入った。


 霧生が「はい、了解しました!」と元気よく返す。

 俺はふと、去年の自分の登録を思い出す。


「あなたの暴行罪は今後全て凶器使用と同等とみなします。空手の有段者と同じ扱いです」


 ……そんな感じで、戦士登録時に職員に釘を刺されたっけ。

 まあ、身体能力ブーストされてるんだから、当然っちゃ当然なんだけどさ。


「よし、終わったな。行くぞ」


 俺は霧生を促し、役所を後にした。

 そして役所の敷地の外に出ると


「ね、吉常君! せっかくコンビ結成したんだし、なんかお祝いしない?」


 霧生が、夜の街を歩きながら急に言い出す。


「コンビ結成……? お前、勝手に決めんなよ」


 俺は呆れつつ返すけど、霧生は「えー、だって記念は要るでしょ」とニコニコしてる。


「……ったく。まあ、俺も腹減ったし、ファミレスでいいか?」


「やった! 行く行く!」


 近場でやってた24時間営業のファミレスに入った。

 店内は結構空いていた。

 夕食どきから少しずれてるしな。


 俺と霧生は窓際の席に座り、メニューを広げた。

 俺はハンバーグ定食、霧生はカルボナーラを注文。


 待ってる間に、ふと気になって訊ねた。


「霧生、お前さ……家で夕食食わなくて大丈夫なの?」


 霧生はフォークを手に、軽く首を振る。


「うん、ウチは両親共働きで、今日は家にいないんだよね。で、金曜の夜から日曜の夜って、迷宮探索者が増えるから安全性高いかなって思って、今日を狙ったの」


「……なるほど。計算高いな」


 俺は少し感心する。

 単なる好奇心で突っ走ってると思ってたけど、こいつ、意外と計算してるな。


「で、吉常君は逆に大丈夫なの?」


 霧生が、運ばれてきたカルボナーラをフォークで巻きながら、ふと訊いてくる。


 その瞬間、頭に牝豚の顔がチラつく。

 あの女が、父さんの養育費を食い潰して、化粧品やデートに使ってる姿。

 胸の奥で、いつものドス黒い憎悪が疼く。


「……ウチは終わってんだ。気にしなくていい」


 俺は無理やり笑顔を貼り付けて、軽く言う。

 霧生は一瞬、俺の顔をじっと見る。

 何かを感じ取ったのか、すぐに目を伏せて、小さく呟く。


「そうなんだ」


 それ以上、追求してこなかった。


 俺はハンバーグを切りながら、俺は少しだけホッとした。

 アイツの話なんて誰にもしたくない。


 食事が終わり、コーヒーを飲みながら、霧生が急に身を乗り出した。


「ね、吉常君! 明日、午前10時くらいからでいい? 迷宮の続き、やりたい!」


「……お前、やる気すごいな」


 俺は苦笑する。

 俺は初陣の次の日は、家でずっと寝てたのに。


「いいけど、勝手に死ぬなよ? そういうの嫌だから」


「うん、約束! 吉常君がいるから大丈夫だよ!」


 霧生の無邪気な笑顔に、なんか、胸の奥がむず痒くなってきた。

 ファミレスを出て、霧生をこの街の駅まで送る。

 改札口で、霧生が振り返って手を振る。


「じゃ、明日ね! おやすみ、吉常君!」


「……ああ、おやすみ」


 俺は軽く手を上げ、霧生の小さな背中が改札に消えるのを見送る。

 

 そして俺は夜の街を一人歩きながら、頭の中で今日のことを反芻した。


 ホブゴブリン戦。

 霧生の魔術師選択。

 チームプレイ。


 そして、10層へ行きたいなんてバカみたいな夢。


 ……俺は、自分の力だけでいっぱしの大人になるためにこの道を選んだけど。

 あいつは別の方向見てんだな……


 何だか少しだけ、それが羨ましかった。

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― 新着の感想 ―
ダメだ、完全に尻に敷かれてしまった…。 主人公には女難の相がハッキリと出ているね? まさか、この先こんな事が続くのかな?
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