第105話 信頼の力
ミェンイーファンイェンシャンハイ。
日本の漢字で書くと「免疫火炎損害」となるらしい。
意味は「火炎ダメージ無効化」
ようはこっちで言うところのヒートプロテクション。
……こっちの言い方をしても良かったけど、念のため向こうの言い方にした。
そっちの方が俺のやって欲しいことが伝わりやすいと思うし。
……あと
サファイアドラゴンが人語を解する場合、日本語を使うのは良くないのではないかと思ったからだ。
ここは日本だしね。
「分かりましタ!」
サクラはそう返した。
魔法を使えということですか?
誰に使うんですか?
そう訊き返してこなかった。
こっちとしても詳しく説明する余裕が無かったから、ホッとした。
サクラも学者持ちだから、今の言葉で俺の意図を察してくれたのか。
助かる。
そして続けて
「夏海、俺にファイアーボールで援護」
うっかり霧生と呼ばず普段通りの名前呼び。
ミスだが訂正してる余裕が無いので
そのまま
「ドカンと押し上げて」
続けて、言い切った。
彼女にだけ聞こえるように。
夏海なら伝わるんじゃないか?
そう、願いながら。
そして最後に
「榎本さん! アイツにジャンプ斬りを決めたいので協力して下さい!」
これが伝わるか……?
自信が無かった。
榎本さんは学者持ちでも無いし、夏海のような俺の恋人でも無い。
俺の師匠みたいな人で
俺が指示を出す存在じゃ無いんだ。
伝わって欲しい。
伝わってくれ……!
榎本さんは突然の俺の指示に、明らかに困惑と迷いの表情を見せた。
意図が読めないのかもしれない。
いや、どうやっても無理だろと。
……今、サファイアドラゴンは高さ5メートル前後の位置を飛行している。
放電の射程に即入れるギリギリの距離だ。
この高さを、ちょっとやそっとサポートしても到達するのは無理だろう。
そう思うのは自然だ。
だから
どうしろっていうの!?
説明して!
こういう返しが来る可能性はある。
だけど
それをすると時間が経過し、結果サファイアドラゴンが俺のアイディアに勘付いて、俺の一撃が決まらない可能性が高くなる。
それはまずい。
……どうだ……?
お願いだ……!
俺のそんな不安は
「……来なさい!」
進み出て、両手を組んで俺のジャンプ台になるべく、踏ん張って中腰の姿勢をとった榎本さんを見たとき。
氷解した。
「ありがとうございます!」
俺は駆け出す。
武装をニヒム一刀に切り替えて。
榎本さんは、俺がジャンプするとちょうどいい場所に動いてくれてて
俺はその組んだ手の上を踏み台にして、跳躍した。
同時に榎本さんは渾身の力で俺を上に投げ上げるように力を込めてくれる。
跳躍に榎本さんの力が加わり、結果俺は単独では辿り着けない高さに辿り着く。
……おおよそ、4メートル。
1メートルくらい足りない。
その足りなさは
「ミェンイーファンイェンシャンハイ!」
「ファイアーボール!」
サクラと夏海の魔法が同時に掛かる。
俺に対して。
サクラの耐火魔法が掛かり、俺は炎のダメージを受けなくなった。
そこに
夏海が放ったファイアーボールが飛んで来て
俺の足元で
「爆発!」
その衝撃で、残り1メートルを詰めた。
……俺の剣が届く!
間近に迫る、サファイアドラゴンの首。
サファイアドラゴンは俺が届くはずがないと思っていたのか、無防備で。
空中に居る俺を撃ち落とすためか、放電の構えを取っていた。
そこに俺が到達し
「どらああああああ!」
気合と共にニヒムの刃を真横に振り抜き
俺はサファイアドラゴンの首を刎ねた。
ニヒムの刃の切れ味は、簡単にそれを成し遂げる。
そして
ピィィィィィ!
その首が胴体から離れる瞬間。
最期にそう悲鳴のような鳴き声を残して
サファイアドラゴンは塵になって消滅した。