第103話 今は俺も
門を潜ると、そこは森では無かった。
砂漠のような場所。
いや、砂丘かもしれない。
別に灼熱の太陽と呼べる、えげつない直射日光は存在しなかったし。
空には雲が全く無い。
清々しい青空だった。
ここが番人の居る空間であることを忘れてしまいそうなほど。
そしてその、俺たちが討伐を目指す対象……第6階層の番人は
上空に居た。
前情報通り、飛行能力を持っている。
サファイアドラゴン。
前情報で大まかな外見は聞いていたけど……
実物は、体長5メートルほど。
全体的な生物としての印象は、外骨格生物かもしれない。
甲殻類を、西洋のドラゴンの形に整形した、そんな感じだ。
鱗が無いんだ。
サファイア製に見える外骨格で出来た身体。
目は複眼になってる。
だったら羽根も昆虫っぽくすればいいのに、そこはちゃんと翼だった。
まあ、羽ばたけそうになくて、ただ在るだけの実用性の無い飾りにしか見えなかったが。
ピィィィッ!
そしてサファイアドラゴンが、笛のような声で吠える。
甲高くて、耳が痛くなる。
「来るわよッ! 準備して!」
榎本さんの言葉。
俺はニヒムと長剣を引き抜く。
そして榎本さんが槍を構え。
サクラが弓に矢を番える。
夏海は……
「ファイアーボール!」
開幕の合図のように。
ファイアーボールを発動させて、爆裂する火炎球をサファイアドラゴン目掛けて叩き込んだ。
「爆発!」
そして夏海はファイアーボールを着弾ではなく、任意の方で爆発させた。
ファイアーボールを避けようと動いたサファイアドラゴンが前に居た位置でだ。
ピィィィッ!?
……相手モンスターだけど、見て分かった。
任意による爆発にサファイアドラゴンは驚愕している。
何で当たってないのに爆発したんだ!? って。
こういうファイアーボールの使い方、サファイアドラゴンは見たことが無かったのか……?
……。
いや、多分違うな。
おそらくだけど……
サファイアドラゴンは倒されても復活するけどさ、その記憶に連続性が無いのかもしれないな。
倒されると基礎知識以上の記憶はリセットされて無くなるのかも……?
いくらなんでもさ、いくら夏海が魔法の使い方が上手くても、彼女が前人未到の領域に到達していると考えるのは無理がある気がする。
だからサファイアドラゴン、というか番人たちは過去にこういうのを見たことがあっても、いつまでもその記憶を引き継ぐことが出来ないんじゃないかな。
でないと初期のサファイアドラゴンと年月を経たサファイアドラゴンに、恐ろしいほどの強さの差が出るだろ。
経験、馬鹿になんないし。
そうなると、後になるほど深層に行きにくくなって……
最終的に8階層クラスに潜れる迷宮探索者がいなくなるみたいな。
そういう事態が起こりかねない。
そしてそれは多分、迷宮の意志ではないんじゃないか?
その結論に達したとき、俺は迷宮の謎に大きな興味が湧いた。
……夏海はそもそも、この迷宮の最下層に何があるのかを知りたくてこの世界に来たんだ。
俺は……
今は俺もそれを一緒に見てみたいと思っていた。
それは大切な彼女の夢だから、というのもあるけど……
迷宮の意志がどこから来ているのか、それを知ってみたい。
俺自身の望みも共にある。
そういう風に、思えるようになってきたんだ。