第102話 番人に挑む朝
第6階層の番人・サファイアドラゴンに挑む朝。
起きて、昨日夏海と一緒に作ったトンカツと、サッと作った味噌汁をおかずに朝食にする。
ローテーブルに並べた朝食。
一礼した後、食事開始。
そこでトンカツを食べながら俺は
(絶対に勝って帰る。全員で、生きて)
その思いを強くした。
……サファイアドラゴンに挑んだ人間はどのくらいいるんだろうか……?
多分、そんなにいないと思うんだけど……
でも、この上があるんだよな……
第7階層にも番人が居て、そして第8階層にハイクラスクリスタルがある。
それが簡単に行くはずない。
第8階層でのトップランカーは年収10億。
簡単なはずが無いんだ。
舐めてかかってはいけないけど……
勝った自分は想像しなきゃな。
「7階層に行ったら、父さんにこのマンションのお金を返す」
マンションは本体価格と維持費ってものがある。
維持費の方は管理費って名前だけど。
父さんは現在その両方を出してくれてる。
父さんは俺が学生してるうちはお金を出してくれるって言ってくれたけど……
このマンションの本体価格……購入価格って言えば良いのか?
それは返したいんだ。
そこまで負担して貰うのは違うだろ。
だからまあ、それを目標にする。
目先の目標は大事だ。
それはここに来るまでに学んで来たことだし。
大きな目標に辿り着くまでに、それより小さい目標を少しづつクリアする。
例えば日常的に左手を使うことを習慣化するとか。
習った技を文字に起こして、それを左手で手書きするとか。
そういう小さいことを積み重ねることが大事なんだよ。
「よし、行くぞ」
そして俺は準備を整え、約束通りの時間にアドベンチャラーズに到着するために家を出た。
アドベンチャラーズ前で夏海と待ち合わせ。
第2階層のエレベーター前で榎本さんと合流し。
第5階層でサクラを拾い。
第6階層。
番人の部屋。
そこに転移するための門の前に俺たちは居た。
ここへのルートを確立させることも、事前にやったことで。
だいぶ苦労はしたかな。
この辺の階層になると、地図なんて無いから。
来る人間が厳選されてくるせいで。
出回らないんだ。
自分で作るしかない。
「皆、覚悟は良い?」
榎本さんの言葉に、俺たちは全員頷いた。
「絶対に勝ちマショウ」
サクラが神妙な顔でそう呼びかけて来る。
防御力を重視してるのか、今日のサクラはジャージを上下、キッチリ着込んでいる。
俺は彼女の弓と、僧侶の回復魔法には期待しているから
「サクラさん、サポートよろしく」
俺はそう一言言う。
彼女に関しては、特に歴史が浅いしさ。
言っておかないと。
「任せて下サイ!」
俺の言葉に彼女は元気よく返してきて
「吉常くん、1000万円貯まったら一緒に銀行口座をもう1つ開こうね。地方銀行でやろうね」
その後、夏海が勝利した後にすること、前に約束したことを口にする。
1000万円貯まったら、地方都市に旅行がてら足を運んで、そこで口座を開こうって。
彼女が「吉常くん」って呼び方をしたときに声が少し震えている気がしたのは、公私の区別をつけるためとはいえ、ここで名前呼びが出来ないことへのもどかしさかな?
そして俺たちは、番人の部屋に転移する門を潜った。
そこを潜れば番人の部屋に行けるのは、これまでの実績があるから間違いない。
それはアーチの門で。
石のような材質。
そして門の潜る部分……つまり通路に、空間の揺らぎがある。
水面のような、きらめきのような……
中は当然見えないが、これまでの経験でここだろうというのは分かるんだ。
これまで2つがそうだったし、3つ目の番人の部屋にフェイクがあるという話は聞いたこと無いし。
よし
「行きましょう」
俺は皆に呼び掛けて。
全員が頷くのを見て、真っ先にその門を潜った。