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第10話 お前おかしいんじゃないのか?

 微かに輝く赤いクリスタルの光が、薄暗い部屋を仄かに照らす。

 霧生の手が、ゆっくりとその輝く塊に伸びていく。


 小さく明滅する光が、まるで彼女を誘うように揺れている。


 俺は剣を構えたまま、入り口を警戒し。

 ふと気になって口を開いた。


「ちなみに、何のクラスを取得するつもりなんだ?」


 霧生の手が一瞬止まり、振り返ってニコッと笑う。


「学者にしようと思う。普段使いもできるし」


「……なるほどな。悪くない選択だ」


 俺は小さく頷く。

 学者は脳機能をブーストするクラスだ。

 進学時に大学良いところに行けるし、確かに潰しが効く。


 魔法系のクラス──特に魔術師とかは、ぶっちゃけ普段使いが無理だし。

 火球とか撃って何になる? 犯罪以外に使い道無いもんな。


 かくいう俺も、戦士を選んだのは迷宮で戦うためだけじゃない。

 迷宮で食べられない場合にバイトしなきゃならないとき、身体能力が高い方が有利だからだ。

 ……今の俺には、土方のバイトは楽勝なんだわ。

 この有用性……!


 そんなことを考えながら、霧生の手が再びクリスタルに近づくのを横目で見ていると──


 その瞬間だ。

 気づいてしまった。


 ゾッとする。

 マズイ……!


 ……このタイミングかよ! 


「──ホブゴブリン!」


 部屋の入り口から、向こうの方に緑色のモンスターが見えたんだ。

 ゴブリンに似てるけどゴブリンじゃない……


 成人男性サイズのゴブリン──ホブゴブリンだ。


 ナイフや棍棒じゃなく、槍と剣で武装したモンスターたち。

 それが結構いる。7体以上いるんじゃないか?


 感覚的には、凶器を持った頭脳レベルが中学生の成人男性。

 ホブゴブリンはそういうモンスターだ。

 それが7体以上いるんだよ。


 まだ少し遠く、気づいてないふうだけどさ。

 あいつらも鼻は良いんだよな……


「くそ、気づくなよ……?」


 俺は舌打ちする。

 ツイてない……!

 たった1人でアレを撃退するのは無理だ。


「おい、早くしろ!」


 クリスタルに触らせてさっさと逃げる──それを伝えようとした瞬間、信じられないことが起きた。

 霧生が、バッと前に駆け出したんだ。

 ホブゴブリンの集団に向かって、だ。


「お、お前!?」


 驚く俺を放置して


「スリープミスト!」


 言葉と共に霧生の手が前に伸び、薄紫の霧がホブゴブリンたちの周囲に発生。


 ……は!?


 スリープミスト!? 


 魔術師のランク1魔法だ。

 その効果は「睡眠ガスを発生させて対象を眠らせる」というもの。


 お前、学者を取るんじゃなかったのかよ!? 


 困惑する俺をよそに、ホブゴブリンたちがフラフラと揺れ、ドサドサと石畳に倒れていく。

 スリープミストの効果はバッチリだ。


「今だよ、吉常君……!」


 霧生が、倒れたホブゴブリンたちを指差して言う。


 無論、チャンスを逃す俺じゃない。


 迷宮探索者のバイトで鍛えた反応速度が、体を動かす。

 剣を握り、飛び出した俺は、眠ったホブゴブリンの首に次々と刃を突き刺していった。


 そしてほぼ一方的に、全部を仕留める。

 死んだホブゴブリンが塵になって消滅していく……!


 全部処理した後、俺は剣を鞘に納め、霧生を振り返る。


「……学者じゃなくていいのか?」


 霧生は少し顔を紅潮させながら、ドヤ顔な目で俺を見る。


「この場面じゃ、学者の知性より魔法でしょ?」


「……は?」


「自分の都合ばっかり追ってたら、チームプレイできないよね」


 霧生が、ニコッと笑いながら言った。


 ……何!? 

 チームプレイって……?

 まさか、こいつ、俺と組む気か!? 


「お前、何考えてんだよ。急に魔術師って……一生ものなんだぞ?」


 俺は思わず詰め寄る。

 霧生は少し気まずそうに笑って、頭を掻く。


「えっとね、クリスタルに触る直前にこの状況なら、役に立つのは学者より魔術師の方だなって」


「……もう1回言うけど、一生ものなんだぞ?」


 俺は呆れる。クラスの選択はやり直しできない。それを「今必要だから」ってだけで変えるか!? 

 でも、霧生の目は真剣だ。


「魔術師があれば確実にこの状況を切り抜けられる。吉常君が戦ってくれるからって信じてたから」


「信じていた……?」


 俺は一瞬言葉に詰まる。

 信じるって……

 俺には霧生からそんな言葉が出ることが信じられなかったんだ。

 

 ……くそ、なんなんだよ……。


「なんでそれで自分の第一希望を捨てるんだ? あり得ないだろ……」


 特に、女は。


 ……流石にその言葉は飲み込む。

 絶対に怒らせるし。


 そんな俺の言葉に。

 霧生は「えー、別に普通じゃない?」と笑いながら、俺に右手を差し出して来た。


「……そういうわけだからさ、今後私と組んで欲しいんだけど……どう?」


 本当に強引だな……。

 でも、正直……


 助かる。

 魔術師が居ると、戦うのがグッと楽になるから。


 だから……


「霧生がそれでいいなら、俺は助かるし、お願いするよ」


 俺はそう言って、霧生の手を取ったんだ。

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― 新着の感想 ―
うわ〜マジか…やはり思考力がおかしいよ。 主人公を巻き込む気満々だな? 自分の都合が1番、主人公の考えは完全に無視するタイプだね? しかも、寄生する気満々…雌豚と全く同じタイプだった…。 こりゃあこの…
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