№5 異世界式政略結婚破棄
もっとモフモフ表現したかった(笑)。
王は神妙な顔をして娘に語っている。
「・・・という訳なのだ。頼むピノ。アカーギ国ガリガリィ3世陛下との結婚引き受けてくれまいか」
ピノはテーブルを叩き、怒りを露わにする。
紅茶の入ったカップがぐらぐらと揺れた。
「お父様、またですか・・・いい加減にしてください。アタシにはせばすてぃあんはという心に決めた運命の人がいます・・・ご存じでしょ」
ため息のち、ピノ表情から憤りがみえる。
そんな娘に王は頭を下げた。
「この通りだピノ。今や新興勢力のアカーギ王国は、我がパルム公国を凌駕しておる。向うから熱烈な縁談を待ちかけられ、断るに断れんのだ・・・ワシはこの国を、民を守りたい・・・な、お前もそうであろう」
「それは・・・」
「それに今回は、あやつらの帯同も許されておる。せばすてぃあんとマリーを連れて行け」
「・・・お父様は残酷ですわね。愛する人にアタシがそんな所業を出来ると思いですか」
「確かに・・・だが、あやつはそうは思わぬのではないか」
「それは一体・・・」
王はにやりと笑い、両掌をあげた。
「そういう事だ」
「分かりましたわ。婚姻破棄・・・それありきでよろしくて」
「よろしい、万事任せる・・・ふん。たかだか新興勢力の圧なぞ。ワシは屈さんぞ」
「わかりましたわ。ピノこの婚儀かたちの上で了承しましたわ」
「おおっ、ピノよ。感謝する」
ピノは一礼をすると、玉座の間から離れた。
王は一人、玉座に座り呟く。
「さて、アカーギのガリガリィよ。我が国のリーサルウェポン(最終兵器)を、自らその腹(国)に抱え如何とするかの」
ピノは早速輿入れとなり、せばすてぃあんたちとマリーも従い国を離れた。
アカーギ国へ到着すると、大臣が慇懃にピノを出迎えた。
「ピノ様、ようこそお越しくださいました」
「はうっ!」
ピノはその大臣の愛らしさに心を奪われた。
実はここアカギー国は獣人種の民が暮らす地で、大臣はマルチーズ獣人であった。
「ささささ、ガリガリィ3世陛下がお待ちでございますぞ。従者のみなさんもささこれへ」
大臣は尻尾をふりふりしながら、赤絨毯を小走りで行く。
皆はその姿にほっこりとする。
「おおおっ、我が妻、ピノよ。遠路はるばるよう来た」
ガリガリィ3世は大仰に両手を広げ、ピノを歓迎した。
その姿はブルドックの如し、顔はいかついが、愛嬌のある感じが滲みでている。
「ピノですわ」
彼女はドレスのスカートを両手で持ち会釈した。
「そして、私、執事のせばすてぃあん」
「従者のマリーだす」
せばすてぃあんとマリーはピノの前面に出張り、ガリガリィ3世の鼻先に立つ。
「おおう。近いな」
ガリガリィ3世は苦笑いをみせる。
「ピノとその従者たちよ。とりあえず、旅の疲れを癒すがよい」
ガリガリィ3世はマントを翻し玉座へと戻った。
そっと左手を差し伸べる。
大臣は頷き、
「では、お部屋へとご案内いたしますじゃ」
尻尾ふりふり、皆は後へ続いた。
豪奢な部屋に3人は案内された。
「悪い所ではなさそうね」
ピノは率直に思ったことを言った。
「んだ」
マリーは頷いた。
「いいえ。ピノ様、騙されてはいけません。いずれあのガリガリィ3世は、あなた様をあんな風にこんな風にと手籠めにすることでしょう」
「あれ~って?」
「?」
「ほら、町娘が悪代官にさらわれて、帯グルグルってやられるやつよ」
「?」
「魔〇陣グルグルってか」
「?」
「剛麺なさーい」
「?」
「おほん」
暴走するピノは、ひとつ咳払いをした。
「結婚は当然破棄するとして、とにかくまずは様子見ね」
数日後、ピノ一行を歓迎する晩餐会が開かれた。
ずらりと王族、貴族が並ぶ中、ガリガリィ3世が立ち上がった。
「皆の者、今日は素晴らしい知らせがある」
おおおっと来席の者達から歓声があがる。
「隣国より我が妃を招いた。プリンセスピノである。これでアカーギ国とパルム公国は強固な結びつきとなり、両国は更なる栄華を極めることとなるだろう」
万雷の拍手の中、一瞬だけガリガリィ3世は憂いの表情を見せる。
ピノは彼の視線を見やる、その先にはゴールデンレトリーバー似のドレス姿の女性がいる。
その彼女とじっと3世は目を合わせていた。
ははあ~ん。
ピノは察し、この結婚破棄への糸口を見いだした。
「よし、わかった」
彼女はポンと手を叩く。
一斉に皆の視線を浴びる。
「ほほほ、失礼」
ピノは笑顔を取り繕い会釈する。
「よい。ピノ一言を」
ガリガリィ3世は手の平を広げ促した。
ギイっと椅子を引く音が会場に響き、せばすてぃあんが立ち上がる。
「私、せばすてぃあんが我が主ピノに変わり、そつじながら申し上げます。姫様は身長155㎝ながら、童女のような顔立ちとくせっ毛が一見、ロリータ心をくすぐりますが、否、でているところはきっちりでて、まるでビーナス・・・いやヴィーナス(発音をよくして)であります。玉のように愛されパルムの宝であるピノ様を断腸の思いで嫁がされた王の気持ち、何卒ご配慮とご覚悟を陛下はお持ちいただきたい」
「せばすてぃあん、はずかCぃわ」
「んだ」
「あい、わかった」
ガリガリィ3世は頷いた。
「今宵、ピノを所望する」
「へ」
驚くピノに、
「は、かしこりました」
畏まって慇懃に頷く大臣。
「な」
せばすてぃあんは、思わぬことになったと煽り台詞を吐いてしまったことを後悔する。
「両国の末永い、恒久の平和には夫婦仲が一番である」
ガリガリィ3世はぴしゃりと言った。
3人は晩餐会が終わり部屋に戻って来る。
「とんでもないことになった」
せばすてぃあんは両腕を組み、口中で苦虫を潰ししたかのような渋い顔をする。
「どうするべ。こうなれば強行突破だど」
マリーはシュッシュッとシャドーボクシングのように宙に拳を放つ。
「いいえ。このまま行きましょう」
ピノは言った。
「ばばばばばばばばばばばばばば馬鹿なっ!姫様はあいつの物になろうというのですか?」
「せばすてぃあん、落ち着いて」
「認めない・・・認めなーい。じぇったーいに認めないー」
せばすてぃあんは視点が定まらず、サイコパスの一面が現れる。
「冬彦さんみたいね。でも嫌いじゃない」
「ぼーくの、ぼーくのピノだもん」
「分かった。分かった。はいしーどうどう」
ピノはせばすてぃあんの頭を撫で、優しい口調でゆっくりと話した。
「アタシには勝算があるわ。もしもの時は突入アリで」
「はーい。今から突入しまーす」
せばすてぃあんは目がギンギンで言う。
「林葉〇子さんネタね。ますばアタシを信じてね・・・ね」
「・・・分かりました」
せばすてぃあんは渋々、了承した。
夜中。
コンコンとピノ部屋のドアがノックされる。
ガリガリィ3世がやって来る。
屋根裏にはせばすてぃあんとマリーが事の成り行きを見守っている。
月夜の照らす薄ら灯りの中、ピノはベットから半身を起こした。
「さあ、ピノ私の物になるがいい」
「あなたはそれでいいのですか?」
ピノは3世に問いかけた。
「?どういうことだ」
「あなたは王だけど、たまには自分の心に正直になるのもよくて?」
「そなたは謎めいたことばかり言うのう」
「そうかしら」
ガリガリィ3世は自分の唇に人差し指をあてる。
「問答はそれまでだ。両国の為、そなたと私は結ばれる。それでいいのだ」
「それでいいのだ(バカ〇ン〇パ風に)・・・ね。でてきなさいっ!」
ピノはパンパンと大げさに手を叩く。
「アタシたちだすか?」
屋根裏のマリーはせばすてぃあんに呟いた。
彼は首を傾げ、もうしばらく様子をみようと目配せをした。
「一体?」
「あら気づかなかったの?私の耳はよく効くの。あなたの足音に続いて小さな足音がした」
「・・・・・・」
「可愛いお嬢さんでてらっしゃい」
ピノは立ち上がるとシャンデリアの明かりを灯す。
ドアの向こうから申し訳なさそうな顔をしたゴールデンレトリーバーの女性が入って来る。
「しぐれっ!」
ガリガリィ3世は咎めるような声で彼女の名を呼んだ。
「ごめんなさい。ガリィ様」
彼女は深々と頭を下げた。
「さて、どうします」
ピノは王を見た。
「どうするもなにも・・・王と女王の大切な場へ隠れ来るなど言語道断、罰を・・・」
「違うでしょ!」
ピノはぴしゃりと言い放った。
「何故、しぐれさんはここに来たのか・・・分かって?」
「それは・・・」
「あなたを愛しているから・・・いや、あなたが好きだからっ!でしょ」
ピノはトラックの前に突然飛び出しハイテンションで物言うT.Tが憑依した。
「ガリィ様」
しぐれは崩れ落ちさめざめと泣く。
「だか、仕方ないのだ!」
ガリガリィ3世は自分に言い聞かせるかの如く叫んだ。
「無理ではないわ」
「・・・なんだと」
「私たちと新たに契約を結びましょう」
「・・・・・・」
「アタシの生きている限り、パルム公国はアカギー国に侵攻しない、勿論逆もまた然り。そして、いずれの国が攻められている時は助ける・・・どう?細かい所は、せばすてぃあんと詰めてもらって、これで解決、手打ちってのは」
「しかし!お前たちがよくてもパルムは?」
「はん」
王の言葉にピノは鼻で笑った。
屋根裏より2人が降りて来る。
「アタシたちがいる限り、絶対にシナイサセナイ」
(あーこれって昔のポリスメンの警鐘ポスターみたいだわ)
その時、扉が開いて大臣が入って来る。
「陛下」
「どうした!みかんまで」
「はい。ガツン=ト=ミカンですじゃ。この者達・・・ピノ様たちは各々が一国を滅ぼす力を持たれている方々にございます」
「それは・・・真か」
「3人の経緯を精査すれば瞭然ですじゃ」
「おわかりいただけて」
ピノは言った。
「ふむ・・・それで、お前たちの望む報酬は」
ガリガリィ3世は言う。
「いいえ。なにもいりません。あなたたちの2人が幸せに結ばれるならドーンっ!」
ピノの人差し指がガリガリィ3世としぐれの心に突き刺さった。
「ああ」
「はい」
3世としぐれの顔が和らぎ破顔した。
ふたりは手を取り合い、パルムの勇者たちに感謝する。
次回、水着だ、バカンスっ!