№1 異世界プリセスピノ
豊子、異世界転生す。
ここは異世界アイソフシャジェワールド(アイスクリーム、ソフトクリーム、シャーベット、ジェラートの略)である。
バナナの皮で足をすべらせ頭部を強打した藤崎豊子は意識を混沌させ、のち異世界へと転生したのだった。
彼女の転生した器は、この異世界パルム公国第一公女のピノであった。
ピノ・・・まるで童女のような幼い顔に、大きなブラウンの瞳は見る者が吸い込まれる感覚に陥ることがある。頬に小さなソバカスがあるりあどけさがまだまだ残っている。
赤髪のくせっ毛が毛先でくるりとカールして丸まっている。
身長は150㎝でお胸は少々、お尻もでていない典型的なお子様体形をしていた。
ゴスロリ風の真っ黒なドレスを身につけ椅子にもたれ頬杖をついていた。
転生した今日がピノの17歳、すなわちセブンティーンの誕生日だった。
豪奢な部屋に超長いテーブルには、これまた豪華な料理が並んでいる。
王冠をつけた威厳ある王らしき人物とかしづく者たち。
(なんじゃこらホイ?)
豊子・・・ピノは心の中で呟いた。
(落ち着け。落ち着け・・・状況を把握しろ)
ピノはぐちゃぐちゃの頭の中を整理しはじめる。
(私はここを知っている・・・そうだ!ライトノベルの世界)
ピノは思案で眉間に皴を寄せると、王や給仕の者達はなにか不都合があったかとざわつきはじめる。
(「いけない♡せばすてぃあん」だったかしら・・・若干、ここは設定・・・状況が違うようだけど・・・)
ピノは押し黙り重い沈黙が続いている。
食卓には豪華な料理が冷めつつある。
「ふう」
彼女は思わず溜息をついた。
かしづく者たちは、息を飲んでプリンセスの動きを見守っている。
「・・・あのう姫さ」
給仕のマリーが沈黙を破り言った。
マリーはアーデジョと呼ばれる美しき熟女、大柄で優しい瞳をもち、メイド服に身を包み、とんでもない訛り持ちである。
「うん?」
ビノは返事する。
「どないしもした?皆がびびってるど」
マリーはピノの顔を窺いながら強烈な地方訛りで聞いた。
彼女は我にかえる、周りの者達の不安気な顔に気づく。
(そうだった。この子、物語では大層な癇癪もちで常にキレていたわね・・・私はキレテナーイわよ・・・えーと)
「別になにもないですわよ・・・ほほほ」
(っと)
「んだ。そろそろ姫さの誕生日はじめるど」
「よろしくてよ」
ピノは咄嗟に作り笑いを浮かべる。
するとその場は安堵の空気になりお祝いムードに包まれた。
「はっぴばーすでー」
周りから拍手が起こり、ピノは盛大にお祝いされる。
(私、今までこんなに祝われたことなど・・・いけない。いけない・・・ルージュマ〇ックじゃ無かった。落ち着け。私は知っている・・・あの人何でも知っているわ~市原悦子さんの家政婦は見たより・・・って、そうじゃない。違う違う。そうじゃ、そうじゃなーい。落ち着け、落ち着け。この場面知っている。そう、ここから)
「ピノや」
「何?お父様」
「お主が欲しがっていたもの。17の誕生日に用意したぞ」
(そう。あのお方の登場だわ)
「執事の・・・」
「そうそう」
「ロッテン・メイヤーだ」
「違う~そっちじゃなーい」
「?」
「片目眼鏡きらりん☆レボリューションおばさんじゃなくて、イケメンでしょうが、そこはっ!」
「なんと、すまんことをした」
「そこへなおれ。叩き斬ってやる」
「めんごめんご」
王はてへぺろをした。
「お待ちください」
「はっ。その声は」
軍服風のタキシードに身をつつみ、高身長、眉目秀麗すらりとした細マッチョイケメンが颯爽と現れる。
瞬間、ピノには丸い光のエフェクトが彼の周りにかかって見えた。
せばすてぃあんその人だった。
「我が名は執事のせばすていあん。姫様以後お見知りおきを」
「やっぱ、イケメン!それっメガテンのあくまがったい後の台詞ね~いいわ~」
「?はっはう!」
せばすてぃあんは、イミフな言葉を発したピノに疑問を思いつつ、深々と一礼した頭をあげ、彼女を見た。
(なんという・・・幼児体形・・・う、美しい。惚れた。俺は惚れたぞ)
(あああ~物語の通り超イケメンっ!超超超超超超超超超ええ感じですわ)
2人は5分間ほど見つめ合った。
周りからすると、えらい迷惑な気まずい時間である。
「こほん」
王は一つ咳払いをする。
「では、この者をピノの執事とす・・・」
「王様、待ってけろ」
「何?マリー」
ピノは訝しがる。
「か弱い姫さを守るには力が必要だべ。おめさ、姫さ守り切れるだべか」
「笑止。私は万能執事也」
せばすてぃあんは嘲笑し、自らの有能ぶりをアピールした。
「ようす。んだば、オラと勝負だ。絶対に渡さねぇだど。オラと姫さとはいずれむふふ、くんずほぐれつの関係になるだ。百合万歳だべ」
「なんか、きしょい」
ピノは顔をしかめた。
「嫌よ嫌よも好きの内だべ」
せばすてぃあんは、仰々しく王とピノに一礼し、右人差し指をマリーに指し示す。
「そこのレディ受けて立とう。私が最強最高の執事たる力見せてしんぜよう」
「ようし決まっただ。表にでるだ」
「応っ!」
2エーカーほどの広い庭園へでた2人は、少し離れて対峙する。
王は一つ咳払いをして言った。
「本来なら私闘は禁じておるのだが・・・」
「王様、これは私闘ではねぇど」
「同じくこれは愛ゆえの愛による愛の戦い」
「んだ」
「ま・・・よかろう。この王であるテラオーⅢ世が戦いを見届けよう。よいなピノ」
「よくてよ。父上」
ピノはこくりと頷き、
「だけどマリー、せばすてぃあん、私の為に戦うなんて・・・」
「んだども、姫様にふさわしい者か、オラが見定めるべ」
マリーは正義感と欲望を剥き出しに、
「動きだした汽車(私)は止まらない」
せばすてぃあんは、淡い恋心と使命感をいだき言った。
「ギャランドゥーっ!」
思わず、きゅんとなったピノは叫んでしまう。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
変な空気が流れる。
「ごめんあそばせ」
「うおっほん!」
王は戦いの開始を告げる。
「ならば、はじめいっ!」
すらり。
と、マリーはスカートのポケットからヴァイオリンの弓を取り出した。
彼女は宮廷音楽師兼給仕なのである。
せばすてぃあんは徒手空拳で身構える。
「得物は出さないでいいだか?」
「来たまえ」
せばすてぃあんは優雅な仕草でクイックイッと手招きをする。
「きゃあ~♡イケメンっ!」
ピノはスクールメイツばりのつたない踊りと黄色い声援をおくる。
せばすてぃあんは、それを受け、額に2本指をあてて歯を光らせて笑う。
「いけすかねぇべ」
マリーは口元を歪めると、地を踏み駆けだした。
素早い動きで弓を突く。
せばすてぃあんはバックステップで後ろに下がり回避する。
「甘いだ!」
「何ィ!」
「キャプ翼ね」
ピノの合いの手。
「ファイヤートップ(炎の〇マ)っ!」
マリーが駿足で3回転すると、弓からは炎が噴き出し彼を襲う。
「ちっ」
せばすてぃあんは右手をかざすと炎の攻撃をはじいた。
「やるだべ」
「どうも」
「んだば、これならどうだ!電子稲妻(エレクトリック・サ〇ダー)っ!」
弓を掲げると雷雲が発生し、せばすてぃあん目掛けて落雷する。
「致し方ない」
彼は胸ポケットから愛用のダガーを取り出し真上に掲げた。
直撃。
誰もがそう思った刹那、ダガーの刀身に雷がとどまっている。
「それ」
せばすてぃあんの声とともに、突き上げると雷は自然摂理を無視し空へと戻って行った。
「むむむ」
「マドモアゼルお分かりいただけたかな」
「まだだ。まだ終わらんよだべ」
「クワトロ・バ〇ーナ」
素早いピノの返し。
「バキューム竜巻っ(真空ハリケ〇ーン)!」
マリーが地面に弓を突き刺した途端、真空と化したハリケーンが彼を巻き込んだ。
「ん?」
ピノはついになにかに気づいた。
それは懐かしいものだった。
「これで終わりだべ」
「ふふふ。果たしてそうかな」
「ダニィっ!」
「野菜(ベ〇ータ)兄さんっ!」
竜巻の中から不敵な笑い声が響くと、
「ふん!」
かけ声とともに竜巻の効力が消え、イケメンが仁王立ちしている。
「おめえやるな」
マリーは破顔する。
「わくわくすっぞ」
ピノは呟く。
「マドモアゼルあなたも」
「んだば、オラの超必殺技をお見舞いするだ」
「よかろう。受けたてたとう」
マリーの身体が金色に発光する。
「超新・・・せ」
技発動の刹那、ピノは間に割り込み、両手を広げる。
「待った」
「姫さ」
「姫様」
「マリー・・・その技は2回に1度は命を失うという禁断の必殺技スーパーノヴァでなくて」
「どしてそれを」
「知らないでかっ!ゲームセンターあ〇しのやべー技じゃん」
「あらし?」
マリーは意味不明な言葉でぽかーんとなる。
「とっ、とにかく死人がでるなんて御免よ。こうなった以上、技なしで拳と拳の決着をつけなさい」
ピノは赤面しながら言った。
「・・・わかっただ」
「異存なし」
再び2人は間合いをとり対峙する。
ダガーを持ちゆっくりと腰をおろす、せばすてぃあん。
弓を斜めに持ち幾度もしならせ機会を伺うマリー。
「では今度は私から行こう。マドモアゼル覚悟はよいか」
「ふん。おめさのそんな華奢な体ではオラには勝てんど」
「そうかな」
「なにぃ!」
「また来た。これは若林君がPエリアからゴールを奪われた時ね」
ピノはしたり顔が頷く。
「古より伝わる。伝説の剣技ナロウデキンキンっ!」
「ダニィっ!」
「キタキタキタ~!野菜王子再びっ」
両者激突。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンっ!
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンっ!
マリーは間断許さぬ激しい攻撃に舌を巻きつつ確信した。
(このお方は、あの人の・・・)
彼女は薄らと笑うと、弓でダガーを受け止め力まかせに押し出した。
彼はよろめき後ろへとさがり、次の攻撃へと身を屈めようとした。
「はははははははははだべ」
マリーは大笑いをすると、どっかりその場へ腰をおろした。
「・・・・・・?」
「オラの負けだ。おめさこそ、姫さの執事にふさわしいど・・・そういうことにするど」
「恐縮です。マドモアゼル」
せばすてぃあんは大仰に片膝をついて例を言う。
「やったー」
ピノは飛びあがりせばすてぃあんに抱きつく。
めでたしめでたし・・・。
そんな中、王だけは嘆息した。
「この破壊され尽くした庭どうしよう」
と呟いた。
では、また来月。