№9 仁義なき闘争の果てに~前編~
今回はシリアスだど。
晩秋迫るパルム公国に激震が走った。
この世界における超大国であるローデ大帝国から、一方的な宣戦布告ともいえる要求を小国であるパルム公国は突き付けられたのだった。
大国は姫ピノを国王モナキングに差し出し側室とし属領になるか、それとも降伏するかの二択を要求し迫ったのである。
王であるテラオーは苦悩する。
(ピノを嫁とし同盟ならばワンチャンありだが・・・この条件は・・・)
玉座の間には父ひとり娘ひとり。
ピノはテラオーからひとしきり説明を受け意見を求められた。
「お父様」
「・・・ピノどうする?」
「全面戦争ですわ」
「お前・・・そうか」
「ぼくらの七日間戦争ですわっ!ぶっとびぃ~」
「?」
「失礼っ!」
王は娘の脱線ぶりに溜息をつくと、玉座に深く腰をおろし天井を仰いだ。
「お前とせばすてぃあんそれに従者のマリーは一騎当千・・・いや一騎万千の強者どもだ・・・だが、しかし、今回の相手は大国も大国よ。ローデ大帝国・・・絶対王モナキング、氷姫の通称を持つボーデン正妃、宰相である大賢者スノー=ダイフク、そしてバー=ウォーターメロン、ソウ軍師、クーリッシュの3将軍という恐るべき力を持つ歴戦の勇者達が綺羅星の如くおるのだ・・・今回ばかりは・・・とてもとても」
ピノは瞳を輝かす。
「困難は愛を輝く良薬ですわ」
王は目を伏せ静かに頷いた。
「そうか・・・そうであるな」
2人の会話に忽然と現れる執事せばすてぃあん。
「左様でございます!」
片膝をつき恭しく礼をし、共に戦う決意をみせる。
「突然何?・・・であるか、ならば言うまい。我が国の存亡をかける戦い。神々よ照覧あれっ!」
王は懐剣を抜いて、高々と掲げた。
アイスダイスキー歴888年の晩秋、ローデ大帝国の勧告を突っぱねた小国パルムは無謀とも思える戦いに挑んだのであった。
小国が無下に勧告を断った事に激昂した、モナキングは親征と称し自ら25万の大軍を率い行軍を開始した。
先鋒にはクーリッシュ将軍の3万が、いよいよパルムの領内を侵攻しようとしていた。
そこに両腕を組み仁王立ちするメイド服の女性、マリーはニヤリと笑った。
「ここから先は遠さんど」
自ら先頭に立つクーリッシュは馬から降り、慇懃に頭を垂れた。
「これは破壊詩人マリー殿、お噂はかねがね聞いておりますぞ」
「その通り名は捨てたど」
「あなたほどの人が小国の使用人の真似事などとは・・・今からでも遅くはない我が国に降ってその力を大帝国の為に・・・」
「わだずには使命があるだ」
「ふむ。ならば実力行使あるのみですな」
「いくど」
マリーがクーリッシュに向かい駆けだすと、たちまち兵士達が将軍を覆い隠す。
彼女は懐剣を抜き放ち、鮮やかに軍勢を斬り倒す。
「いくら、あなたが強くても、これだけの大軍を相手にする事など皆無に等しい」
クーリッシュは兵士達に守られながら言い放った。
「それはどうだど」
マリーはそう言うと、近くにそびえたつ大木を指さし、素早い速さで飛び乗った。
「馬鹿め!木の上に逃亡だと・・・弓兵っ、矢で射るのだ」
「はっ!」
次々と矢が放たれる、その中には火矢も混じっており、木が真赤に燃えあがる。
「貴様は終わりだ!マリーっ!」
クーリッシュは勝利を確信し、絶叫する。
マリーは木のてっぺんに立つと、両手を胸の前に組んで高らかに歌い始めた。
響き渡るマリーの魔唱に、兵士達は涙を流し戦意を喪失して、その場に崩れ落ち、やがてその場を離れ逃げまどった。
「おいっ!お前たち!親征だぞ、失敗など許されんのだ!」
クーリッシュは耳を抑えしゃがみ込みながら叫ぶ。
「んだば、サヨナラだ」
マリーは将軍の耳元で優しく囁いた。
クーリッシュ将軍はゆっくりと崩れ落ちた。
ぱんぱんとマリーはスカートの裾を払って先を見やる。
「次がきたど。ぼっちゃ・・・せばす様、姫様」
間髪入れずクーリッシュの軍を囮に、中央の本隊が二手へと分かれる。
左翼右翼ともに五万の軍が側面から、そして、本軍12万の軍勢が中央突破でパルムへと牙を剥いた。
後編へ続く。