6 解読
「何やら難しそうな話ね。ご飯でも食べながら考えたら? ほら優斗、人の姿になって」
母親がダイニングから呼んだ。テーブルには夕食が並んでいる。優斗は、テレビの横に常備されてある葉っぱを取って頭に乗せると、宙返りをして、いつもの大人の姿に戻った。
「まだ宙返りしているのか?」
「この方が楽なんだよ」
父親と優斗は、写真を持ってテーブルに向かった。母親の向かいに並んで座った。
優斗たち3人は、テーブルの中心に写真を置いて、食事を始めた。ご飯に焼き魚、厚揚げのタップリ入った味噌汁。あと、ほうれん草のおひたしとデザートは柿だ。最近コンビニ弁当ばかりだった優斗には有り難い。
母親が優斗に聞いた。
「これって、夕方なの?」
「うん、西日が見えるから、そうだと思う」
「それじゃ、こっちの写真は、その後の夜なの?」
「そうだと思うんだけど、その前の明け方という可能性もあるんだよね」
「何か分かるものは写ってないの? お父さん、仕事柄こういうの得意じゃないの」
「うーん……」
父親が写真を覗き込んだが、特に何も見つからないようだ。
優斗も目をこらして写真を見る。ふと、白いワゴン車の周りで何かが光っていることに気づいた。
「お父さん、これ何だろう。ほら、車の周りの地面で光ってるやつ」
「なんだろう、ガラスの破片かな? 何かの反射板かな……母さん、虫眼鏡ってあったっけ?」
「お父さんの横の棚の引き出しよ。もう、いつも忘れるんだから」
「ごめんごめん」
そういうと、父親が虫眼鏡を引き出しから取り出してきた。写真を覗き込む。どうも、丸い銀色の物のようだ。中心部分は黄色で、いずれも光に反射している。
「なんだろうな。銀色で真ん中が黄色か……」
「あ、もしかして、さんちょこ探偵団バッジかも」
そう言って、優斗がリビングに置いていた鞄の中から、さんちょこ探偵団バッジを取り出してきた。
「あら、可愛いキツネじゃない」
「え、ネコじゃないのか?」
母親と父親で、バッジの動物の絵について解釈が分かれた。優斗はオコジョだと思っていたが、それについては触れずに話を続けた。
「中村巡査だったっけ? 彼女が『さんちょこ』で子どもたちに配ってたんだ」
「でも、それがどうしてこの写真に写ってるんだ? しかも何個も」
白いワゴン車の周りには、3個のバッジと思われるものが落ちていた。
「連れ去られた子どもは1人みたいだし、どうして何個もあるんだろう……」
優斗は、味噌汁を飲みながら考えた。そういえば、中村巡査はバッジの使い方について変なことを言っていたような……
「そ、そうか、子どもたちが投げつけたんだ!」
優斗はお椀をテーブルに置くと、優斗の父親と母親を交互に見ながら言った。
「中村巡査は、いざというときは、このバッジを悪い人に投げつけてもいいって説明していたんだ。だから、子どもたちが白いワゴン車にバッジを投げつけたんだよ。それで、車に何個か貼り付いてたんだ」
「それを車から降りた被疑者が取って捨てたという訳か。車にこんなバッジが何個も付いてたら目立つだろうし、いい目印になるかもな」
父親が焼き魚を食べながら言った。母親が優斗に聞いた。
「白いワゴン車の周りにあるのがそのバッジだとすると、やっぱりその写真は子どもが連れ去られた後の写真ということ?」
「うん、そうなるね。ということは、明日、子どもが連れ去られた後にこの場所を見つければ、子どもを助けることができる」
「後はどうやってこの場所を割り出すかだなあ。見た限り、田園地帯というくらいしか分からんな」
父親が改めて写真を見ながら言った。優斗が父親に尋ねる
「白いワゴン車をタクシーで追いかけるのはどうかな?」
「うーん、白いワゴン車が逃走してすぐにタクシーを見つけられるか分からんし、近くに待機させていても、信号等で見失う可能性が高いだろうな。Nシステムが使えればいいが、流石に使えんしなあ」
父親と優斗が同時に腕組みをして考え込んだ。母親がお皿を片付けながら言った。
「途中で見失う可能性が高いなら、うちの親戚や他の神使の眷属に協力してもらったらいいじゃない。滅多にない御神託なのよ。きっと皆も協力してくれるわよ」
「なるほど!」
父親と優斗が同時に言った。
優斗は、今晩はこの官舎に泊まることにして、父親や母親と明日の作戦を練った。その後、父親は親戚に連絡を行い、優斗は深夜まで明日の授業の準備をした。