5 御神託
さんちょこからの帰り道、大人の姿に戻った優斗は、稲荷神社へ向かった。周りに人がいないことを確認して、狐の像に手をかざす。今日も、優斗に何か出来そうなお願いはなかった。
優斗は、いつものように、社殿にお参りした。優斗がお参りを終えて神社を出ようとすると、突然強い風が吹いた。風が止むと、優斗の手には、写真が2枚握らされていた。
優斗は、一瞬何が起きたか分からなかったが、写真を見て驚愕した。
1枚は、脇に子どもを抱えた大男が白いワゴン車に向かっていて、それを追いかける女性警察官と美形の男性警察官。さっき会った警察官たちのうち2人に間違いない。
そしてもう一枚は、どこかの田園地帯にある倉庫と事務所のような建物。あと、白いワゴン車が写った写真だった。
「ご、御神託?!」
優斗はどうしていいか分からず、慌ててスマホを取り出すと、父親に電話した。
† † †
優斗は、タクシーに飛び乗り、赤羽にある警察の官舎に向かった。優斗の父親は、赤羽南警察署の警備課長だ。本人曰く、仕事上、変化と神通力が大層役に立ったそうだ。
一族の慣習に従い、優斗は社会人になってからこの官舎を離れて一人暮らしをしている。個人的には、赴任先の小学校も近いし、同居して家賃代を浮かせたいところなのだが。
「こりゃ、間違いなく御神託だな。俺のときは、とんでもなく精緻に描かれた1枚の絵だった。この写真もそうだが、こんなに精緻なものは、この世にない」
リビングに座った優斗の父親が、ローテーブルに置かれた写真を見て言った。父親は、最近は人間の姿でいる方が楽らしい。ずっと人間の姿のままだ。
部屋に入ってすぐにキツネの姿に戻った優斗が聞く。
「どうしよう、お父さん。この写真だけで、何もご指示はないんだけど」
「俺のときもそうだったが、我々で考えて行動するしかないな」
「この写真の事態になることを食い止めろってことかな?」
「いや、神様から受け取った写真だ。神様は嘘はつかない。この写真の事態は必ず起きるんだろう。日付を見てみろ」
父親が写真を指差した。優斗は、2枚の写真の右下に印字された日付を見た。
「10月12日……明日だ!」
「そうすると、明日、この事態は必ず起きる。子どもが誘拐され、警察官が追いかける。そして、もう1つの写真は、被疑者のアジトだろうか……ん、待てよ、この警察官どこかで見たような」
「そういえば、赤羽南署の署員らしいよ。この男性警察官は、芸能人みたいな顔立ちだった」
「署で話題の明智警部補じゃないか! ということは、この女性警察官は交通課の中村巡査か。どうして王子北署管内にいるんだろう」
父親が驚いた。優斗が聞く。
「知ってるの?」
「ああ、明智警部補は、新米キャリアで、現場研修でうちの署に来てるんだが、つい先日、大きな事件を解決したんだよ。中村巡査は、独特のキャラで別の意味で署の有名人だな」
「ああ、それは何となく分かるよ」
今日の『さんちょこ』での言動を思い出し、優斗は納得した。
「とにかく、この写真の事態が起こった後、我々で何ができるのかを考えよう」
父親は腕組みをしてソファーにもたれかかった。