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4 変化

 翌日、水曜日の朝。優斗は寝不足の目を擦りながら出勤した。午前中の授業を無事終えると、昼休みに羽柴君に声をかけた。


「羽柴さん、ごめん、ちょっといい?」


「先生、また? 早くボール遊びの場所取りをしないといけないんだけど。この前、いい場所取れなかったんだよ」


「ごめん、ごめん。ちょっとだけだから。昨日の夕方、さんちょこで羽柴さんがお巡りさんと一緒に歩いているのを見たんだけど、何かあったの?」


「うん、神社でお願いをした後、お巡りさんに会ったんだ。色々と話を聞いてくれたんだよ。キイちゃんのこと探してくれてるみたい。あと、今日の夕方、さんちょこに来てくれるんだって」


「そうなんだ。了解、ありがとう。あの辺りは車やバイクが多いし、気をつけるんだよ」


「……はーい!」


 羽柴君は一瞬ドキッとした顔をしたが、そのまま校庭に向かって走って行った。


 今日は、さんちょこに警察官が来るらしい。優斗は、情報収集のため、子どもに化けて紛れ込むことにした。



† † †



 夕方、時間休を取った優斗は、さんちょこ近くの公園に向かった。

 公園に到着し、大きな木の陰に隠れると、近くに生えている葉っぱを一枚取り、頭に乗せた。人に見られていないことを確認して、宙返りする。優斗は羽柴君と同じくらいの年齢の少年の姿に(へん)()した。


 本当は、トイレの個室等で変化したいところだが、優斗の場合、何故か宙返りしないと上手く化けられないので、やむを得ない。持ってきた手鏡で耳やヒゲが出ていないか確認する。大丈夫そうだ。


 少年の姿になった優斗は、不釣り合いな大人の鞄を持って木の陰から出た。よちよち歩きの子どもが優斗を指差して何か言っていたが、無視して走って『さんちょこ』へ向かった。


 『さんちょこ』では、子どもたちが鬼ごっこをしていた。優斗が担任しているクラスの羽柴君や桂君のほか、隣のクラスの篠崎君もいる。優斗は、羽柴君に声をかけた。


「ねえ、僕も一緒に鬼ごっこしていい?」


「うん、いいよ! うわ、大きな鞄だね。お父さんの鞄みたい。あと、そのズボンのフワフワってキーホルダー? 何かの尻尾みたいだね」


 羽柴君に聞かれてズボンを見ると、尻尾が出ていた。優斗は慌てて説明する。


「う、うん、この前動物園に行ったときに、お母さんに買って貰ったんだ。そ、そうだ、汚したら悪いから、鞄に片付けてくるね」


 優斗は、慌てて垣根の裏に駆け込むと、急いで垣根の葉っぱ一枚ちぎって頭に乗せて、宙返りした。尻尾は無事引っ込んだ。危ない危ない。


 優斗が垣根の裏から出てきて、しばらく鬼ごっこをしていると、女性警察官1人とスーツ姿の男性警察官2人が公園にやってきた。男性のうち1人は、びっくりするような美形だ。


「あ、お巡りさん! 本当に来てくれたんだね!」


 羽柴君がそう叫んでお巡りさんの方へ走って行った。他の子どもたちも追いかける。優斗もついて行った。


 子どもたちが一斉にお巡りさんたちに話し始めた。男性警察官2人はタジタジだ。そんな中、女性警察官が子どもたちに声を掛けて、大友君たちのことを聞き始めた。子ども慣れしているようだ。


 女性警察官の求めに応じて、羽柴君、桂君、篠崎君と、あと他校と思われる女の子1人が公園の隅に移動した。美形の男性警察官が、羽柴君たちに質問を始めた。警察官は、皆しゃがんで子どもたちの目線で話していて、好感が持てる。


 優斗は、声が聞こえる距離に移動して、耳をそばだてた。途中で、3年生のヤンチャで有名なシュンペイ君に何故か足を蹴られたが、無視する。明日、シュンペイ君の担任に情報提供しておこう。


 警察官と羽柴君たちの話は、概ねカラスたちに聞いた内容と同じだった。

 話が終わると、女性警察官が鞄から10センチほどの丸い缶バッジを配り始めた。優斗も流れで受け取る。


 表面は白銀の反射シートが貼られていて、横書きで上部の縁に沿って「MPD」、下部の縁に沿って「さんちょこ」とそれぞれオレンジ色の蛍光ペンで手書きされている。

 中央にはネコのような動物の顔のシルエットをかたどった黄色の反射シートが貼られていて、何やら可愛らしい動物の顔の絵が描かれていた。


 缶バッジの裏側は、安全ピンとマグネットが付けられている。


 女性警察官が、得意げに優斗たちへ説明し始めた。


「じゃーん! 警視庁赤羽南警察署交通課交通総務係員公認、さんちょこ探偵団バッジでーす! 服やカバンに付けてもいいし、自転車に引っ付けてもOK! キラキラ輝いて、みんなを守ってくれるわよ。あと、普段はポケットに入れておいて、もし悪い人が来たら、これを投げつけて、悪い人が驚いた隙に逃げることも出来るかも。使い方は無限大よ」


「ありがとう!!」


 優斗は他の子どもたちと一緒にお礼を言った。果たして人に投げつけていいのかという疑問はあったが、警察官の言うことだし、警察ではそういう使用法も想定しているのだろう。優斗は、さんちょこ探偵団バッジを鞄に入れた。

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