3 情報収集
明日の準備が全然終わりそうになかったので、残りは家に持ち帰ることにして、優斗は普段より早めに学校を出た。足早に近くのスーパーへ向かう。
スーパーで安い牛肉を買い、牛脂を何個かもらった。来た道を少し戻り『さんちょこ』経由で稲荷神社へ向かうことにした。
さんちょこへ向かう途中、さんちょこから羽柴君と3人の大人が出てくるのが遠目に見えた。大人のうち1人は服装からして女性警察官のようだ。残る2人のスーツ姿の男性も警察官だろうか。
羽柴君と大人3人は、優斗に気づかないまま、大通りへ抜ける細道に入っていった。方向からすると、羽柴君の自宅へ向かっているようだ。
優斗が「さんちょこ」へ着いたときは、誰も遊んでいなかった。薄暗くなってきた道を急ぎ稲荷神社へ向かった。
稲荷神社へ着いた優斗は、神社の裏手の木に止まって待ってくれていた3羽のカラスに声をかけた。
「お待たせ。ここじゃ目立つんで、そこの先の駐車場でいいかな」
カラスたちは、一声鳴いて神社前の駐車場まで飛んでいった。
† † †
「人の目があるから、静かに食べてね」
優斗は人通りの多い道から見えないよう、車の陰にしゃがむと、鞄から牛肉と牛脂を出した。カラスたちが喜んで食べる。
カラスたちの食事が一段落したところで、優斗は周りを気にしながら小声で聞いた。
「『さんちょこ』の子どもの連れ去りの件だけど、何か情報あったかな?」
「アー、アー、アー」
「ご、ごめん、もう少し小声で話せる?」
「ウ……アァ、ァァ、ァァ」
カラスたちは小さな鳴き声で話してくれた。3羽のカラスのうち、若いカラスが見たそうだ。
5日前の夕方、さんちょこで、白いワゴンから出てきた大男と女が、女の子を連れて行ったらしい。女の子は特に嫌がっていなかったそうだ。おそらくその女の子がキイちゃんなのだろう。
そして、車が去った後、女の子と一緒に『さんちょこ』に来ていて、しばらく別の所へ行っていた男の子が、女の子が連れて行かれたのを知って、慌てた様子で周りを探していたということだった。おそらくその子が大友君だろうか。
状況を踏まえると、単に親が迎えに来た訳ではなさそうだ。連れ去りは誤報ではなく本当だったのか。優斗は息をのんだ。
優斗はカラスたちにお礼を言った。すると、若いカラスの母親だというカラスが優斗に話かけた。関係ないかもしれないがと前置きした上で、今日神社であったことを教えてくれた。
母親カラスによると、今日の夕方、稲荷神社の裏手の木に止まって休んでいると、神社の前でちょっとした騒ぎがあったそうだ。
神社から飛び出した男の子が原付に轢かれそうになって、警察官に怒られていたらしい。男の子がカラスの神使である八咫烏のマークの入っている服を着ていたので気になったということだ。
そして、母親カラスが後から合流した息子の若いカラスに聞くと、同じような格好した男の子が、連れ去りの当日に『さんちょこ』にいたらしい。
もしかすると、羽柴君だろうか。確か今日はサッカー日本代表のユニフォームを着ていたような気がする。
優斗は、改めてカラスたちにお礼を言った。
カラスたちと別れた優斗は、神社に戻った。周りに人がいないことを確認して、狐の像の額に手をかざす。参拝者の様々なお願いや思いが優斗に伝わった。連休中は神社に来ていなかったので、結構な量だ。
先ほどのカラスたちの情報どおり、羽柴君は今日もお願いに来ていた。
『今日、大友君に聞いたら、まだキイちゃんは見つかってないって。どうして助けてくれないの? 狐の神様のバカー!』
羽柴君の悲痛な思いが優斗に伝わった。ごめんね羽柴君。僕にできることは限られているんだ。あと、僕は神様じゃなくて、神使なんだけどね……
その他、今日は警察官が3人もお参りに来ていた。男性警察官2人は、狐のお面が月曜日にまた盗まれたこと、盗んだ犯人の捜査をする旨の報告を、女性警察官はプライベートなお願いをしていた。
もしかすると、この3人が原付に轢かれそうになった羽柴君を注意し、さんちょこ近くで羽柴君と一緒に歩いていたのだろうか。明日、学校で羽柴君に聞いてみることにしよう。
優斗は、社殿にお参りしたが、いつもどおり御神託はなかった。




