2 神通力
「先週金曜に話のあった『さんちょこ』の児童の連れ去りの件なんですが、先生のクラスの子どもたちは何か言ってました?」
放課後の職員室。優斗は向かいのデスクに座る前田先生に聞いた。年齢も近く、担任も隣の4年2組なので、何かと相談している。
優斗が前田先生に引き続き説明する。
「うちのクラスの羽柴君が、友達の妹が連れて行かれたって言ってまして。しかも、それを警察に言いに行ったのは羽柴君だったらしいんですよ」
ちなみに、うちの学校の場合、教室では、児童を呼ぶときは「さん」で統一しているが、職員室では「君・さん・ちゃん」等で話す先生が多い。
前田先生は、テストの採点をしながら答えた。
「あら、そうだったんだ。うちのクラスの篠崎君も同じようなこと言ってたわ。警察に言いに行ったっていうのは初耳だけど。警察がうちの学校に伝えるの忘れたのかな」
前田先生が、テストの採点を中断して顔を上げた。
「さっき副校長先生に聞いてみたんだけど、あれ、やっぱり誤報だったみたいよ。副校長先生が王子北警察署に改めて確認したんだって。強面の親が子どもを連れて帰るのを見て勘違いしたのかなあ」
そう言って少し不思議そうな顔をした後、前田先生はテストの採点に戻った。
先週金曜日の朝の打ち合わせでの話によると、その前日木曜日の夜、3丁目公園、通称「さんちょこ」で児童連れ去りが発生した可能性があるということで、王子北警察署から在校児童の確認があったそうだ。
幸い、うちの学校の児童ではなく、副校長が近隣の学校と情報交換したところ、どうも誤報の可能性が高いということだったので、各担任がクラスで「知らない大人について行ってはいけない」ことなどを注意喚起することで対応していた。
前田先生の話だと、やはり誤報のようだ。だが、羽柴君は、学年の中でもしっかりした方で、勘違いで警察にまで言いに行くようには思えない。
気になった優斗は、街の情報通であるカラスに話を聞くことにした。
† † †
「おーい、ちょっと下りて来てくれないか。神使の関係でお願いがあるんだ」
優斗は、校舎の裏手に出て、カラスがいないか探した。幸い、非常階段に1羽止まっていたので、周りに誰もいないことを確認すると、そのカラスに声をかけた。
狐の一族は、変化が得意だが、それ以外にこれといった能力はない。ただ、神使として特定の神社を担当している間は、他の神使やその眷属と話ができる。
これが神様から授かる唯一の神通力だ。もう少し色々な能力を授けて欲しいところだが、さすがに神様に文句は言えない。
カラスが面倒くさそうに近くまで下りてきた。優斗がカラスに聞く。
「稲荷神社へのお願いで、連れ去られた子どもを助けて欲しいっていうのがあったんだよ。5日前に『さんちょこ』であったらしいんだけど、何か情報があったら教えてくれないか」
「アー、アー、アー」
カラスによると、自分は知らないが、他の仲間に聞いてみるから、今晩稲荷神社に来てくれということだった。また、お礼の品は牛脂が良いということだった。
「ありがとう。いくつか持って行くよ。よろしく」
カラスは飛び去った。ふと優斗が裏門の方を見ると、担任しているクラスの桂君が裏門の外からこっちを見ていた。偶然通りかかったようだ。
「先生、何してるの?」
桂君が不思議そうな顔をして聞いてきた。まずい、見られたか? 優斗は慌てて取り繕う。
「あ、ああ、カラスが怪我してるのかなと思ってね。大丈夫だったみたいだ」
「ふーん、そうなんだ……」
「これから遊びに行くの?」
「うん、今日はカッパ公園に行ってくる」
「車に気をつけるんだよ」
「はーい」
桂君は、そのまま走っていった。良かった。危ないところだった。
神使の活動については、他人にバレても特にバチは当たらない。とはいえ、人間社会に溶け込んで生活している優斗が表立って神使の活動をすれば、すぐに不審者扱いだろう。気をつけなければ。
優斗は職員室へ戻り、明日の授業の準備に取りかかった。




