10 教師として神使として
翌日の金曜日、優斗は赤羽の両親の官舎で目を覚ました。隣で寝ていたはずの祖父は、すでに起きているようだ。
母親には毛がつくと文句を言われたが、優斗はキツネの姿で布団に入っていた。これが一番リラックスできるのだ。
昨晩は、疲れていることもあり、祖父と一緒に官舎に泊まることにしたのだった。
昨晩遅くに帰ってきた父親に話を聞くと、なんと、今回の子ども連れ去り事件の犯人は、稲荷神社のお面を盗んだ犯人と同じだったそうだ。
やはり神様は、お面を盗み、近隣の子どもに危害を加える犯人に対して相当お怒りだったということだろうか。
その後は、手分けして親戚へのお礼の電話をするなどバタバタだった。全て終わった後に授業の準備をしたので、寝たのは深夜だった。今朝も寝不足だ。
優斗がダイニングに向かうと、両親と祖父が朝食を取っていた。優斗が隣のリビングで宙返りして大人の姿になると、ダイニングの空いた席に座った。朝食はトーストとリンゴだ。
「おはよう。疲れは出てないか? 昨日の話が新聞に載ってるぞ」
父親が優斗に新聞記事を見せた。子どもの連れ去り事件で犯人逮捕。子どもは無事保護。無戸籍児童を狙った人身売買か。追跡中の警察官2名が軽い打撲。といった内容だった。
想像していたよりも小さな記事だったが、念のため「お使いキツネ」のアカウントは削除した。
優斗が食事をしていると、スマホが鳴った。羽柴君の母親からの電話だった。
昨日、さんちょこで羽柴君が子どもの連れ去り事件を目撃したが、本人は無事だとのことだった。本人は至って元気なので、今日も登校させるということだった。
優斗は羽柴君の母親に、学校でその話をしてもよいか確認したところ、特に問題ないということだった。至急、校長と副校長に連絡して状況を伝えた。緊急の全校集会の実施と、心理専門職等の派遣依頼を行うことになった。
羽柴君の母親から、現場には桂君もいたという話を聞くことが出来たので、こちらから桂君の母親にも連絡した。
桂君の母親によると、桂君も元気で、本日登校させるということだった。桂君の母親も学校で事件の話をしても問題ないということだった。
優斗は急いで食事を食べ終わると、小学校へ向かった。
† † †
朝の教室。優斗はクラスの児童を見渡した。羽柴君と桂君の周りに児童が集まっていた。すでに事件のことが噂になっているようだ。優斗が羽柴君と桂君に声をかけた。
「羽柴さん、桂さん、おはよう。2人とも昨日は大変だったみたいだね。具合は大丈夫?」
「うん、大丈夫! さっき皆に昨日のことを少し話したんだ。先生も聞きたい? 大友君もキイちゃんも助かったんだって!」
羽柴君が笑顔で答えた。すでに本人が事件のことをクラスで少し話したらしい。まあ、これくらい元気なら一安心だ。
ホッとした優斗は、笑顔で羽柴君に言った。
「そうなんだ、良かったなあ! それじゃあ全校集会の後で聞かせてもらおうかな」
全校集会は特に問題なく終わった。犯人が逮捕され、連れ去られた子どもも助かったこともあり、子どもたちは思ったより落ち着いていた。マスコミからの問い合わせもなく、校長以下教員は安堵した表情だった。
優斗は少し悩んだが、全校集会後の1コマを、羽柴君と桂君による報告会に充てた。2人の雰囲気を見ていると、話をした方がストレス発散になると思われたからだ。
話の中で、SNSで犯人の情報を募った子どもの話が出てきた。優斗は少し照れくさかった。
優斗は、羽柴君と桂君を労うとともに、何か事件に巻き込まれそうになったら、必ず近くにいる友達や大人に助けを求めるようクラスの皆に伝えた。
† † †
放課後、職員会議や溜まっていた雑務の処理を終えると、優斗はすっかり暗くなった道を歩いて稲荷神社へ向かった。
稲荷神社の裏の木で休んでいたカラスとハトに改めてお礼を伝えた。何かお礼の品を持って来るよ、と伝えたところ、今回は御神託なので不要、今後カラスやハトの一族が神使を務める神社で御神託があったら助けて欲しいということだった。優斗は快諾した。
優斗は、いつものように狐の像に手をかざした。様々なお願いに混じって、羽柴君の感謝の言葉が入っていた。
「稲荷神社の神様、お使いキツネさん、本当にありがとう!!」
思わず感極まって涙ぐんでしまった。尻尾が出ていないか慌てて確認する。大丈夫だった。
優斗はハンカチで目を拭った後、社殿にお参りした。新たな御神託はなかった。
優斗は王子駅へ向かった。今回のお願いを思い出す。いつものように優斗に何かできることはほとんどなかったが、1件だけ対応できそうなものがあった。週末に頑張ってみよう。
……キツネの両耳が優斗の頭から出ていたことに気づいたのは、優斗が自宅に帰ってからだった。
担任するクラスの親にその姿を見られてしまったようで、週明けの月曜には「先生がアニメに出てくるネコ耳キャラのコスプレをしていた」とクラスで話題になってしまった。
色々違うが訂正もできないし、これくらいで済んで良かったと思うことにして、優斗は授業を始めた。
最後までお読みいただき誠にありがとうございました。少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。




