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終電を一緒に逃したおっさんが、実は特殊メイクをした女子だった件について  作者: 丹羽坂飛鳥


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9/9

おまけ2(後半)

 一週間後。

 鈴華さんと会う約束をしていたが、ゲームセンター行脚は相変わらず楽しかった。

 猛者である鈴華さんと二人でああでもない、こうでもない、と悩みながら新作を取るのは燃える。

 最近二人で見始めたアニメのキャラクターがフィギュア化されていて、お互いにいくらで取れるのかを勝負したが、百円だけ俺が勝った。


「負けました……金太郎さん箱に刺すの上手ですよね。私、手堅く逃げちゃった。悔しいです」


「勝負は時の運。でも俺の勝ちだからジュース奢らせて。喉乾いちゃった」


「普通は負けた方が払うと思います。……もう、次は負けませんからね」


 一緒に休憩コーナーに移動するのに指を恋人繋ぎにしたが、もはや慣れてきて恥ずかしくはない。

 ジュースを飲みながら「次は何を取ろうか」と話し合うだけでも楽しくて、趣味が共通する鈴華さんと青春出来ることが改めて幸せに感じる。


 つい鈴華さんをじっと見つめたが、サラサラの黒髪をデート用に可愛らしくまとめ上げている彼女は相変わらず自分の彼女とは思えないくらい素敵だった。少し肌寒くなってきたが、秋服も良く似合っている。


「? どうかしましたか?」


「いや、俺の彼女いいなって改めて思ってただけ」


 素直に伝えたのに、真っ赤になった彼女には「からかわないでください」と恥ずかしがられてしまった。




 遊んで帰り、夕食は俺の部屋で食べながらお気に入りの動画を一緒に見ようと誘っていた。

 部屋に来るのもこの三年で慣れていて、清いお付き合いの効果か、自分の部屋で安心してくれている彼女を見ると同棲も楽しいのかもしれないと思うようになった。


 動画を見ているとチャイムが鳴ったので対応したが、宅配業者だ。

 受け取って部屋に戻ると、段ボールを抱えて上機嫌な俺を見た鈴華さんが興味を持ってくれた。


「何か来たんですか?」


「一昨日頼んでたパソコンのパーツ。

 篤樹が詳しいんだけど、相談したらパーツだけ取り寄せたら新しいもの組んでやるよって言ってくれてさ。

 これが最後だから、明日置いてこようかな」


「すごいですね、篤樹さん。パソコンなんて作れるんですか?」


 友人を褒めてくれる鈴華さんと破損がないか一応開けて確認しようとしたが、パーツは綺麗な巾着袋に包まれていた。プレゼント包装に間違えてチェックでも入れたのだろうか。

 不思議に思いながら開けると、さらに四角く白い箱に包まれている。高いパーツとはいえ随分厳重だった。


 鈴華さんがなぜか身を固くしているが、箱を開けると、さらに布張りの箱が入っていた。

 マトリョーシカのようだと内心で面白くなったのも一瞬だけで、布張りされた箱はドラマで見たことのあるような箱だとすぐにわかった。


 指輪だ。

 膝をついた状態で「結婚してください」と開けるアレだ。


 配送日時の指定をした覚えはなかったが、刻印に時間がかかると聞いていたから、まさか今日届くとは思ってもいなかった。

 しっかり固まってしまった鈴華さんが真っ赤になっていくのを見ながら、俺まで顔が熱くなる。


「えーと……パーツじゃなかったみたい?」


 手に収まった物を隠すことは出来ない。今更別のものだと誤魔化しても、結局彼女に同じものを渡すのだ。

 もはや考えていたプレゼントの方法は不可能だと、頷いている彼女とむず痒いような心臓の鼓動で感じる。


「鈴華さん」


「はっ、はいっ」


「ペアリングなんだけど、よければ一緒に付けてもらえる?」


 新しいプランなど考える余裕もない。

 心臓が爆音で、顔が熱くて、正直頭は真っ白だ。

 彼女がうるうるした瞳で俺を見上げているのと目が合うだけで、手が震える。


「ペアリング……」


「付き合って三年以上経ったし、アクセサリーは贈ったことなかったから、そろそろお揃いもいいかと思って」


 箱を開けると、指輪が上下に並んで輝いている。

 小さい方を手に取ると、彼女に空いている手を差し出した。


「もちろん、嫌なら無理強いはしないけど。休日に一緒に付けるくらいは出来るかなって。

 ……格好はつかないけど、受け取ってもらえると嬉しい」


 三十を越えようが、慣れていないことはスマートに出来ない。

 もはや三十一を越えた魔法使いが彼女の右手を見ていると、震えながら指を持ち上げてくれた。手を握ったが、お互いに汗だくだ。


「い、いやじゃ、ないです。

 でも、あの、私とお揃いで、いいんですか」


「付き合い始めた時から鈴華さんがいいと思ってるから、それは今更」


 少し笑ったことで余裕が出来たので、彼女の右手を見つめると、薬指に銀色の輪をはめた。

 九号であってくれと願っていたが、彼女の指には引っかかることもなく、緩いこともなく、ちゃんと収まった。


 改めてリングを見つめている鈴華さんが、大事そうに手を握っている。

 何度も輝きを見つめて口元を緩ませているのを見ると、用意した甲斐もあった。


「金太郎さん、知ってたんですか、私の指のサイズ」


「いや、ネットで『平均的なサイズ』って書いてあった九号にしておいて、はまらなかったら交換してもらおうかなって思ってた。ピッタリで良かった」


「素敵……ありがとうございます、大切にしますね」


 嬉しそうにはにかみ、笑ってくれる彼女がいることに、何よりも安心した。

 小さなダイヤが散りばめられて可愛らしい指輪は、思った通り鈴華さんに似合っている。


「お揃いに、私も金太郎さんの右手につけさせてもらってもいいですか?

 私も金太郎さんに一緒に付けて欲しいですし、付けたいです」


 指輪の交換とは、なんだか玉城と凛子さんの結婚式みたいだと恥ずかしくはなった。

 けれど鈴華さんに指輪を渡すと、俺にも付けてくれた。

 自分の号数間違いが一番恥ずかしいかと紙を巻いて調べておいて良かった、ちゃんと収まった。


「プロポーズリングかと思いました」


 突然現れた指輪に色々考えたらしい。お互いに顔を見合って笑ってしまう。


「その案もあったんだけど、プロポーズは卒業して就職してからにしようと思ってたから。あと二年はこれを付けて遊びに行こう」


 向かい合っている彼女と指を繋いでみたが、知らない感触があるのが新鮮だった。

 利き手だけれど、付けているのも悪くはない。

 結婚指輪を付けている男性社員も多いし、俺もこれくらいなら付けて過ごそうと思える感触だ。

 魔法使いも指輪くらいなら装備できるのを改めて実感していると、鈴華さんが視線を指輪に落とした。


「修士課程もそろそろ修了で、お父さんも結婚していいって言ってたから、そろそろかなって思ってたんです」


「結婚すると女性は色々大変だって聞くと、鈴華さんの『研究職に就きたい』って夢が叶ってからの方がいいかと思ってる。

 名前が変わるのは俺でもいいし、おいおい決めて行こうかなって」


 日々懸命に勉強している鈴華さんと改めて指を絡めると、彼女が握り返してくれた。


「修士課程を終えても結婚しないんですか?」


「お父さんが役所に婚姻届出してくれるなら、そのまま結婚してもいいと思ってるよ。

 ……って言うのはいくらなんでも尻込みしすぎかな。じゃあ、改めて」


 彼女の指に光る指輪には、ダイヤモンドも一応入っている。

 蛍光灯の明かりに輝くのを眺めて、鈴華さんが俺をまっすぐに見ているのを見て、俺も覚悟を決めた。


「鈴華さん、俺と結婚してください」


 聞き漏らさないように見つめてくれる彼女を相手に、将来を誓った。

 魔法使いの言葉に泣き始めてしまった鈴華さんに、俺は今日も、幸せの魔法をかけてもらっている。

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