7. 今の私
「はぁ、おいしい」
エリザベスさんが入れてくれたお茶を飲み、思わず呟くと向かい合わせに座り、同じようにお茶を飲んでいる彼女と目があった。
最初は同じテーブルに着くことを拒否されてしまった。だけど、私はエリザベスさんの主のジルティアーナでは、もうない。なので私が頼み込んで、座って貰ったのだ。
2人とも泣きすぎて、目が赤く腫れてしまった。でも····とエリザベスさんをじっと見る。
美人さんって本当にいいなー。泣いたってやっぱり美人だもん。私なら、こんなに泣いてしまったらいくらウォータープルーフといえど、アイラインやマスカラが滲んでしまい酷い顔になるだろう。って、今の私はそんな事なかったや。
今の私はジルティアーナ。ピッチピチの······って死語? まぁ、いいや。
ぴっちぴちの15歳! あっちの世界なら高校生だもん! お化粧なんかしてないよ?
って、それでいい訳ない。エリザベスさんみたいに天然美人で化粧いらず。ではないのだ。
側に置いてあった手鏡を手にとり、自分の顔を見てみる。奥二重だけど目は小さくない。鼻筋も通ってるが······ぽっちゃり顔のせいでそれがボヤけてしまってる。頬と鼻にはそばかす。だけど、そんなに濃くもない。
メイクしたらだいぶ印象が変わるんじゃないかな?
いや、それより痩せなきゃ。
あと、お肌! ニキビだらけじゃないのよ!?
そばかすは仕方ない。けどなんなのよ、この肌荒れ!
スキンケアちゃんとしてないでしょ? 若いんだから、そんなに念入りにやらなくても十分なはず······。と、思いジルティアーナの記憶を探ると······
水でバシャバシャっと顔全体を軽く洗い、リズが用意してくれたタオルでゴシゴシっと拭いてー、はい完了。おやすみなさーい。
って、ダメでしょー!! うぉい、こら、ジルティアーナ!!
と記憶の中のジルティアーナに思わず突っ込んでしまった。
エリザベスさんが仕事をしなかった訳ではない。エリザベスさんは、いつも洗顔やスキンケアをちゃんとしてくれようとしてたが「めんどい」と理由で、水をバシャバシャで済ましてたようだ。
最悪だ······。スキンケアどころの問題じゃなかったわ。てか、めんどい。てなんだよ。横になってるだけで、エリザベスさんが全部やってくれるのに!
小娘······、まだ自分が若いと思ってスキンケアをナメてたな?
そりゃあ、ニキビも出来ますよねー。まだ若いからいいけど、こんなんじゃ25歳すぎたら······と、想像したら恐怖に震えた。
あと、問題は体型だな。ちょっと、ぽっちゃりが過ぎない?肌荒れの原因は、食生活にも問題ありな気がする······。私になったからには痩せてみせる! と心の中でダイエットを決意した。
「······明日には、酷い事になりそうね」
目元を触り呟く。たくさん泣いたせいで目は赤く、瞼は腫れていた。くすりと笑う声がし、エリザベスさんが言う。
「たくさん泣きましたからね」
「それは、エリザベスさんだって······!!」
と反論しかけ、思う。確かにエリザベスさんもたくさん涙を流した。でも、静かにハラハラと涙を流し、これまた美人さんって泣いても絵になるわねぇ。なんて考えながら見ていた。
それに対して私は······声をあげ号泣した。
ジルディアーナの最後を思い出し、死にたくなるほど絶望した事。そして、エリザベスさんを置いて勝手に死んでしまった事への後悔。その事で胸がいっぱいになり、嗚咽が止められなかったのだ。
自分の号泣っぷりを思い出し、恥ずかしくなった。恐らく顔は真っ赤になって居るだろう。顔が熱くなるのが分かる。まさに穴があったら入りたい。というような心境だ。穴には入れないので、しかたなくテーブルに顔を伏せた。
「なんで······あんなに泣いちゃったんだろ。しかも号泣するなんて······」
私は泣かない。それこそ本当に幼い頃は泣いたことがあるだろうが、子供の時から泣かない子で、映画や本をみて泣く以外では泣いた記憶が無い。
ーーーあの時だって、悲しいし悔しかったが泣く事はなかった。
·······だから、『 ひとりで大丈夫だろ? 』なんて言われたのかも知れないけど。
あ。思い出したらムカついてきた。イラつきから鏡を持つ手に思わず力が入ってしまう。
「おそらく·····ジルティアーナ様の肉体に、精神が引きずられたのかもしれませんね。姫様は外では泣く事はあまりありませんでしたが、自室では····私の前ではよく泣いてましたから」
思わぬ言葉に思わず顔をあげた。困ったような顔をしながらエリザベスさんは言う。
「先程お話した私が以前会った転生者は、子供も居た成人だったのに5歳くらいの子供に生まれ変わってしまったそうなのです。
嬉しい事や楽しい事。悲しい事に悔しい事。感情が高ぶると感情が制御できなかったと。身体も大人になるまで感情のコントロールが大変だったと仰ってました」
「そうなんだ······。この世界は15歳で成人なのよね?
したてと言えどジルティアーナが成人してくれてて良かったわ」
「あの······貴女は幾つだったんですか? 転生者である貴女自身のことを、少し教えてくれませんか?」
あ。そういえば、2人で泣いたりしてうっかり忘れてた。話し損ねてたわ、ちゃんと話さなければ。
大きく息を吸い、吐き出す。意を決して私は話し始めた。
この世界の成人は15歳ですが、お嬢様のジルティアーナは大人になりきれてませんでした。たぶん平民の15歳の方がしっかりしてると思います。
次回、異世界からきた私。
元の世界での自分の事と、これからの事についての話合いです。
本日中に更新予定です。