71.獣人の兄妹
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声をかけたリズは、そのまま少女の額や、ウノさんと同じ大きな首輪がはめられた首筋を、診るように確認した。
ほっと息を吐き、微笑む。そして、エルアさんとウノさんに向かって言った。
「……大丈夫そうですね。上級ポーションで病気は治り、回復術で体力も戻ったでしょう。ただ、貧血気味なのと筋力が落ちているせいで、めまいが起きたのだと思います」
「そうですか。本当に、ありがとうございました」
ウノさんは安堵の表情を浮かべ、リズに頭を下げた。
そんなウノさんの腕を、エルアさんが揺すった。
「お兄ちゃん……!」
エルアさんは、驚きに目を見開いた。
「上級ポーションに、回復術って……!?
下級ポーションだって、なかなか手に入らないのに。
それに回復術は、神殿で高いお金を払って、お貴族様が受けるものでしょ? 私たちには、そんなお金は……っ」
青ざめてそう言うと、ハッとしたようにウノさんの顔を見つめる。
「まさか、また……? 治療を受けさせるために、何かしたんでしょ!?」
そう叫ぶように言い放ち、ウノさんを押し退けてリズの前に立つと、体がふらりと揺れた。
「エルアっ!」
ウノさんが支えようとするが、エルアさんはその手を振り払い、そのまま床に座り込んだ。
そして、頭も床につけるように深く下げた。
体調が悪化したのかと私も一歩踏み出しかけたが、次の瞬間、エルアさんが大きな声で言った。
「私のことを治療してくださり、ありがとうございました!!」
床に座り、頭を下げた姿は、まるで土下座のようだ。
顔は伏せられていて見えない。心配していると、先ほどとは打って変わって、絞り出すような弱々しい声が続いた。
「でも……すみません。おにい……この人は関係ないんです。
お兄ちゃんなんて呼んでたけど……。イリーガル商会で一緒に、奴隷として使われていただけで。
同じ獣人だからって、幼かった私にこの人が親切にしてくれただけの……赤の他人なんです!
お願いします。治療してくださったおかげで、私は元気になりました!
私が、ウノさんの分まで働きますので、この人は解放してください!」
やっぱり……。
白いという点以外、耳の形は全く違う。尻尾だって、ウノさんはふさふさした犬やキツネのような尻尾だが、土下座のようにかがんだエルアさんのお尻には、それらしき尻尾は見えなかった。
血のつながりはないのだろう。
そして、エルアさんの言葉は続いた。
「何だって致します! 体力には自信がないけど、頑張って鍛えて、男の人たちと同じ肉体労働だって!
まだ幼い見た目かもしれませんが……私の容姿を良いと思いませんか?
旦那様のためのご奉仕だって……っ」
「エルアッ!!」
それ以上は耐えられなかったのだろう。まくし立てるように話すエルアさんの言葉を、ウノさんの叫びが遮った。
私は、ぎゅっと手を握りしめ、それを胸に当てた。
「旦那様への奉仕」って……。ただ、メイドや下働きのように仕えるって意味じゃない。
エルアさんは、まだ幼い。日本で言えば、小学生か、中学生くらい。
そんな子が「ご奉仕」なんて言葉を口にしなきゃいけないなんて──。
どれほど追い詰められてきたんだろう。そう思うと、胸が締めつけられた。
エルアさんは「赤の他人」なんて言って、ウノさんを突き放そうとしているけど、
本当は、ウノさんのことをすごく大切に思ってる。
ウノさんだって、血のつながりもないエルアさんのために、隷属の証を顔に入れた。
このふたりは、血のつながりがなくても、本当の兄妹なんだ。
──……だから、決めた。
私はエルアさんの前に行き、膝をついた。
それに気づいたウノさんが、ぎょっとしたように声を上げた。
「ジルティアーナ様!?」
ウノさんの声を聞いて顔を上げたエルアさんの赤い瞳が、私をとらえた。
私はにっこりと笑いかけた。
「はじめまして、エルアさん。
私が、あなたとあなたのお兄さんを買い上げたジルティアーナです」
そう言いながら、私はエルアさんの首に手を伸ばした。
──カシャン。
金属の外れる音が、静かな部屋に響く。
そして、カツン!
落ちた物が床を打った。
「──えっ?」
エルアさんがそっと自分の首に触れ、視線を下に落とす。
そこには、さっきまでエルアさんの首にあった金属の首輪が、転がっていた。
「ジルティアーナ様!?」
今度はリズが、驚きの声を上げた。
私は、二つの鍵がついたチェーンを指に引っかけながら言った。
「コレ、私の物なんでしょ。だったら、どうしようと私の勝手よね?
……やっぱり、奴隷なんておかしいよ」
そう言って、今度はウノさんの首輪に手を伸ばした……けど、身長差のせいで、鍵が差しにくい!
「ウノさん、しゃがんでください!」
私が強めに言うと、ウノさんの体がびくりと硬直し、ぎこちない動きで腰を下ろしてくれた。
もしかして今、私が命令したって認識された……?
これが、隷属の証の効果なのかもしれない。
そんなことを思いながら、私はウノさんの首輪に鍵を差し込んだ──。




