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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
クリスディアへの道程

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45.リズの提案



またルセルに来れたら、絶対にこの宿に泊まろう。

マリーやマイカちゃんと、もっとたくさん話をしたいし、一緒に料理もまた作りたい。

オリバーさんのご飯も、もっといろいろ食べてみたい。


だけど、次にここへ来たときには――

もしかしたら、もうオリバーさんたちはここにはいないかもしれない。


そう思うと寂しくなるけれど、それでもオリバーさんがやりたいことをできるのが一番だ。

また専属料理人になれるよう、心から願って、応援したい。


……そう思っていたのだけれど──


マリーの話を聞いたリズは、少し考える様子を見せてから顔を上げ、言った。


「マリーさんのおっしゃる通り、平民を人として扱わない横暴な貴族は少なくありません。

前回は運よくトラブルもなかったようですが、コネもなく貴族の専属料理人になるのは、とても危険です。

洗濯などの雑用や、材料の下処理程度であればまだしも、肉や魚を扱う中心的な役割となれば、何か問題が起きたときに責任を押し付けられる可能性もあります。

最悪の場合、オリバーさんだけでなく、家族である貴女やマイカさんたちも処分の対象になることだってあるんです」


その話に、私も思わず息を呑んだ。

マリーは顔から血の気が引き、呆然とする。


「私がどうなってもいい。でも、マイカとルークは……」


震えながらそう呟くマリーの肩に手を置いたが、震えは止まらず、彼女は私の腕にしがみついてきた。


「じゃあ……オリバーの夢……

貴族のもとで肉や魚を扱う【料理人】になるって夢は……もう諦めるしかないの……?」


そう言って、私の腕を強く掴み、顔を伏せる。

私はただ、そんなマリーをそっと抱きしめることしかできなかった──


「──もし私たちを信用してくださるなら、クリスディアへ来ていただけませんか?」


……えっ?


「ね? ティアナさん」


いきなり話を振られて戸惑う。

マリーも困惑した様子で私を見るが……ごめん、私もよく分からない……。


「ジルティアーナ様の専属料理人は、現在、絶賛募集中なんです。オリバーさんなら大歓迎ですよ」


まるでセールストークのように、リズはにっこりと微笑みながら言った。


「えっ? えええっ!?

ちょっと待って! ジルティアーナ様って、ヴィリスアーズ家の上級貴族の、あのジルティアーナ様……で合ってるわよね?」

「はい、そのジルティアーナ様ですね」

「とてもありがたいお話だけど……オリバーが以前働いていたのは、下級貴族の屋敷だったの。

上級貴族に対応できるとは……正直思えないわ……」


マリーがしょんぼりと呟く。

それに対し、リズはやさしく微笑みながら応えた。


「今、ジルティアーナ様が求めていらっしゃるのは“実力”です。

実は、ジルティアーナ様がティアナさんの料理を召し上がってから、ヴィリスアーズ家の専属料理人の料理が合わなくなってしまったようで困っていたのです。

でも、ティアナさんが絶賛したオリバーさんの料理なら、きっとご満足いただけると思いますよ」





「ちょっとリズ! いきなりどういうつもりなの!?」

「あら? ティアナさんがオリバーさんの料理をとても気に入っているようだったので、ああ言ったのですが……違いました?」

「いや、違わないけど……!」


マリーは「オリバーも交えて話をしたい」と言って、彼を呼びに出ていった。

今はリズと二人きりだ。


「私も、異世界の料理を知るティアナさんが納得する【料理人】を見つけられるか不安でしたが、いい方が見つかって本当によかったです」

「オリバーさんが専属になってくれたら、確かに嬉しい。

でも……マリーは私のこと、ジルティアーナの侍女だと思ってるよね?

あとで本当のことを知ったら、幻滅されちゃうんじゃ……」


オリバーさんの料理を、これからずっと食べられるなら、それは本当に嬉しい。

でも、それ以上にマリーと友達のようになれたのが嬉しかった。

それが壊れるのは、すごく寂しい。


そんな私の気持ちを察したのか、リズが優しく言った。


「貴族であること、お忍びでルセルに来ていることはお伝えしましたよね。

ティアナさんがジルティアーナ様だと知られても、驚かれることはあっても幻滅されることはないと思います。

ただ、平民のマリーさんが上級貴族であり雇い主でもあるジルティアーナ様だと知れば、今のように気軽に話すことは難しくなるでしょうね」


「そっか……」


幻滅されないなら、少し安心する。

でも、関係が変わってしまうのはやっぱり悲しい。


「ですから、別にティアナさんがジルティアーナ様だと明かす必要はないと思いますよ」

「えっ!?」

「だって、ヴィリスアーズ家で専属料理人が主人と顔を合わせることなんて普通はありませんよ?

要望があるなら侍女に伝え、それが料理長に伝えられるだけです。

今、ティアナさんは“下級か中級貴族のジルティアーナ様付き侍女”と思われているはずですし、その方が厨房にも自由に出入りできて都合がいいでしょう?」


……なんだか騙してるみたいで、少し気が引ける。

そんな私の様子を見たのか、リズはさらに続けた。


「以前もお伝えした通り、クリスディアでの“主人”はジルティアーナ様です。

ティアナさんが望むなら厨房に出入りするのも自由です。

でも、正体を明かしてしまえば、オリバーさんたちも緊張してしまって、言いたいことも言えなくなるでしょう。

侍女であっても最初は多少の緊張はあるでしょうが、上級貴族の領主である“ジルティアーナ様”より、“侍女のティアナ”のほうが、ずっと話しやすいはずです」


……なるほど。

それなら私は、ティアナとして接するほうがいいのかもしれない。


私は、侍女ティアナとして彼らと関わっていくことを、心に決めた。






次回、46.オリバーさんへのお話

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