34.ナポルケーキ
「マイカ、誰にも言わないよ! お父さんにも内緒ね?」
私たちの、やらかしを見ていたマイカちゃんは、「秘密にする」と約束してくれた。
本当にいい子……!
そんな様子をみて、オブシディアンはマイカちゃんの頭をポンポンと優しく撫でる。
「君の魂は、とても美しい色をしている」
そう微笑むオブシディアン。
マイカちゃんはきょとんとしながら、じっと彼を見上げ──やがて、頬を赤らめた。
「たましい……?」 と、小さな声がもれる。
「ディアン様……?」
また、後ろには笑顔が怖いリズさんが立っていた。
はい、自重しろってことですね。
……聖獣様の声を聞けて感動していたリズさんは、どこへ行ってしまったんだろうか?
そんな様子を横目で見つつ、私はそっと砂糖を触り、小声で呟く。
「グラニュー糖になーれ」
見えないように【生産】で砂糖をグラニュー糖に変えておいた。
ちなみに、オブシディアンが私のことを「面白い魂」、マイカちゃんのことを「美しい魂」と言った理由。
あとで聞いたところによると、聖獣や精霊は私たちの見た目ではなく、魂や魔力の色を見て個人を特定するらしい。
「君たちにとって動物の見分けがつきにくいのと同じだ」と、オブシディアンは説明してくれた。
確かに、愛犬なら見た目で区別がつくけど、他の犬はみんな似て見えることもある。
種族の違いについても同じことが言える。
人間にとっては、人間・エルフ・獣人は見た目ですぐに区別できるが、聖獣にとっては「どれも似た形の存在」らしい。
まるで、人間がオオカミやキツネの顔を見分けにくいのと同じなのかも?
飼い犬なら違いがわかるけど、野生の狼はどれも似た顔に見える……みたいな感じ?
「とりあえず、時間が限られてるからナポルケーキ作りますよー!」
そう声をかけ、ケーキ作りを再開。
さっき食用に変えた重曹とクエン酸を混ぜると──
「ジャジャーン! これでベーキングパウダーの完成!」
オブシディアンが不思議そうに首をかしげる。
「それを入れるとどうなるのだ?」
「膨張剤だよ。これを入れると生地がふんわり膨らむの」
「ふーん……?」
……絶対わかってないな、この顔。
これで材料は揃ったので、そのベーキングパウダーと薄力粉を合わせてボウルにふるう。
そこにこっそり作ったグラニュー糖を加えてまぜる。
ボウルに卵を……と思い、マイカちゃんに頼むことにした。
「マイカちゃん卵、割ってくれる?」
「まかせて!」と、得意げな顔で卵を手に取るマイカちゃん。
彼女は小さな手で慎重にふたつの卵をぶつけ、パカッと割る。黄身と白身がきれいにボウルに落ちた。
「すごいね! もうすっかり上手になったね」と声をかけると、マイカちゃんは嬉しそうに胸を張った。
その卵にバターと牛乳を少しづつ加えて白っぽくなるまでかき混ぜる。
フライパンにバターを溶かし、グラニュー糖を加え炒め、それが少し焦げ目が付いたら一度火を止める。そこにリンゴ……ならぬ昼前に作ったナポルのコンポートを薄く切ったものを並べる。のだが、ココでポイント。
ナポルを薔薇の花のような形に並べる。
綺麗に並べたらその上から作っておいた生地を、そっと形を崩さないように流し込み、蓋をして弱火で10分~15分位して、串をさしても生地が串に付かず、こんがり焼き目がついたら出来上がり!
「うわ~! いい匂い。それに凄い綺麗! お花みたい!!」
また、お目目キラキラで喜ぶマイカちゃん。
ツインテールを揺らしてぴょんぴょん跳ねてる。
……なんかウサギみたいに見てきた。
◆
完成したナポルケーキに包丁をいれ、4ピースを小皿に載せる。
リズがお茶を入れてくれ、4人でテーブルに着いた。
では──
「「いただきます」」
手を合わせリズと言うと、マイカちゃんが不思議そうに「いただきます?」と聞いてきた。
「『いただきます』っていうのはね、違う……国の食事の挨拶なんだ。
料理を作った人、食材を育てた人、そして食べ物そのものへの『ありがとう』って、感謝の気持ちを込めて言うんだよ」
──違う国、というか本当は……違う世界なんだけどね。
日本では当たり前に「いただきます」って言ってたけど、その意味を深く考えたことはなかった。
でも、この世界に来て気づいた。
コンビニやスーパーに行けば何でも手に入ることが、どれほどすごいことか。
野菜や肉を育ててくれる人、それを運ぶ人、売る人……。
誰かの手を経て食べ物が食卓に並ぶことを、私は今まで当たり前に思っていたんだ。
マイカちゃんが少し考えたあと、元気よく言った。
「じゃ、マイカも!」
「「「いただきます」」」
みんなで手を合わせ、ナポルケーキにフォークを刺した。
次回、…ほぼほぼ書けてるけどサブタイトル考え中w
どんどん聖獣様がおかしなキャラに…なんで、こうなった??