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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
観光の街、クリスディア

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296/339

295.残された秒針と決断の一滴


私はそっと瓶を持ち上げた。

掌にはまだ、確かに宿っていた力の余韻が残っていて、指先を通じて微かに伝わってくる気がする。


「……なんか、余ったのが勿体ない気がしてしまいますね」

レーヴェのぽつりとした一言に、思わず顔を向けた。


(……確かに。何かに使えないだろうか?)


考えるより先に、自然と口が動いた。


「──【解析】」



-----------------------------------------------------------------------



【エリクサー】

絆の証から作られた霊薬・万能薬。


(効果)

ポーションで治せぬ病、深い怪我、古傷さえも癒す効力を持つ。


(品質)

対象者へ使用されたため、使用可能時間──残り498秒

※時間停止は不可能



-----------------------------------------------------------------------



「……エリ、ッ!?」

目の前に浮かんだウィンドウを見て、思わず声をあげて口を押さえた。


エリクサー。

その響きに思い出すのは、あの「万能薬」。

私の感覚としては、ゲームや漫画の世界にしか存在しないはずのもの。

ゲームではHPもMPも、状態異常さえ癒せる貴重品──けれど、あまりに貴重すぎて結局最後まで使わず、クリア後まで残ってしまいがちなアイテムだ。


まさかこの世界で目にする日が来るなんて……。


「……ティアナ様? どうされたのですか?」

怪訝そうなリズの声に、慌てて振り返る。


「リズ……これ、見て……!」


「?」

首を傾げる彼女に、もう見せてしまうしかないと思った。


「ステータスオープン!」


私の声と同時にリズの視線もウィンドウへ。次の瞬間、彼女は目を大きく見開いた。


「……っ!」


同時に、私も息を呑む。

そこに表示されていた“品質”の欄──残り時間を示す数字が、確かに刻一刻と減っていることに気がついたから。


最初は五百秒近くあった残り時間が、いまは四百秒あまり。

397──396──395……。

秒ごとに、確実に。


「……ま、待って。これ……時間制限つき……!?」

喉が乾く。心臓が速く打ち始めた。


「……どうしよう……っ!」

声が震えた。


考えている猶予なんてない。

貴重なアイテムだ。本来なら切り札として取っておきたい。だが、このままでは……!


私は息を飲み、瓶の蓋に指をかける。

ポンッ、と軽い音が部屋に響いた。


「ティアナ様!? 何をする気ですか!」

リズの鋭い声が飛ぶ。


「いや……このまま無駄にしちゃうくらいなら……私が飲んじゃった方が──」


口元へ瓶を近づけた瞬間、リズの手が私の手首を掴んだ。

思った以上に強い力。瓶がかすかに揺れ、液体がきらめきを見せた。


「──ティアナ様」

真剣な声。名前を強く呼ばれ、思わず背筋が伸びた。


「は、はい!」


リズの瞳が真っ直ぐに私を射抜く。

「私に考えがあります。試してみたいことがあるのです。どうか──これを、私に託していただけませんか?」


戸惑いながらも、私はその必死さに押されて頷いた。

「……わ、わかったわ。どうぞ」


エリクサーを手渡すと、リズはその小瓶を迷いなくロベールさんの前に差し出した。


「え?」

不意に突き出された瓶に、ロベールさんは目を瞬かせる。


「飲んでください」

リズの声は低く、しかし揺るぎなかった。


「えっ……ちょ、ちょっと待ってください!」

エレーネさんが思わず声を上げる。

ステラも不安そうに首を振り、赤い瞳を大きく見開いた。


けれどリズは振り返らず、きっぱりと言い切った。

「申し訳ありませんが、説明している時間はありません。──早く、飲んで!」


彼女の声には一切の迷いがなく、命令のような迫力さえあった。

その気迫に押され、ロベールさんはごくりと喉を鳴らす。


「……は、はい!」


次の瞬間、ロベールさんは震える手で瓶を受け取り、覚悟を決めたように一息で飲み干した。

黄金の液体が喉を通ると同時に、部屋の空気がぴんと張り詰める。


淡い光がふわりと広がり、ロベールさんの体を包み込んだ。

「……っ!」


椅子に座っていたロベールさんは、そのまま崩れ落ちるように床にしゃがみ込む。

息が荒く、最初は喉元を押さえていたのに、やがて両手で右脚を抱え込むように掴んでいた。


「う……っ、ぐわっ!」


「ロベールっ!」

エレーネさんが心配そうにベッドから降り、夫の横に跪く。


金色の眩い光が収束し、ロベールさんの右脚へと集まっていく。

皆が息を呑み、ただその光景を見守るしかなかった。


「……嘘……」

エレーネさんのかすれ声が響く。


光が静かに収まったとき、そこにあったのは──

欠損していたはずの右脚。


信じがたい奇跡が、確かにその場に刻まれていた。




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― 新着の感想 ―
動揺してるとはいえなぜ自分が飲むって発想になっちゃうのティアナ(笑)
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