表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
観光の街、クリスディア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

254/339

253.耳と尻尾の王族たち


シルヴィア・フォレスタ。


この国の王女であり、本来なら王族という頂点に立つ存在──のはずだった。


けれど彼女の立場は、決して単純ではない。


その母は、族長の娘とはいえ獣人族。

つまりシルヴィア王女は、王家の血とともに、差別の対象とされてきた獣人の血を引いている。


人間族と獣人族。

深い隔たりがあるこの二つの種族は、そもそも婚姻自体がきわめて稀だという。さらに、他種族間で子どもが生まれる確率は低く、たとえ生まれても、たいていはどちらか一方の特性が色濃く現れるらしい。


そんな中、王に側室として迎えられた獣人族の妃は、ふたりの子を産んだ。


シルヴィア王女と、その兄。

同母の兄はミランダお姉様と同学年の王子で、差別的なあだ名ではあるけれど……“尻尾の王子”と呼ばれていたと、ジルティアーナの記憶にある。


ふたりとも、父である国王譲りの輝く金髪に、母ゆずりの金色の瞳。

整った容姿は、まさに“王族の器”と称えられるほどだった。


──けれど。


兄には、ふさふさの尻尾。

妹の頭には、獣の耳。


それは獣人族の証。

完全な人間でもなく、完全な獣人でもない。ふたりは“和解の象徴”として生まれたはずなのに、その姿は“中途半端”と見なされた。


フォレスタ王国の歴史は、人間族が支配層とされ、獣人族は長らく抑圧されてきた。

族長の娘が王に迎えられたことで、形式的には「和解」として祝福されたけれど、現実にはそううまくはいかなかった。


人間族の中には、「王族の身で獣の特徴を持つとは……」と冷ややかに見る者もいる。

一方で獣人族からは、「王族の血を引いた裏切り者」として憎しみの目を向けられることもあった。


──それが、ジルティアーナの記憶にある、シルヴィア王女を取り巻く背景。


でも、そこまで覚えているわりに、ひとつだけ引っかかることがある。


「……シルヴィア王女って、私と同い年ですよね? アカデミーでお見かけした記憶がないのですが……」


そう口にした瞬間、ミランダお姉様とヴィオレッタ様、フレイヤ様の三人が、どこか困ったような表情を浮かべた。


私は──というか、ジルティアーナは、社交が苦手で友達も少なかった。

けれど、上級貴族の筆頭・ヴィリスアーズ家の令嬢として、アカデミーではそれなりに存在感があったはず。


それに王女が同年代で在学していたなら、式典や授業で顔を合わせる機会があって当然だ。


なのに、まったく記憶がない。


兄である王子は、私の入学する一年前に卒業したと記憶しているのに──妹のシルヴィア王女の在学記録は、ぽっかり抜け落ちている。


私の問いに、ヴィオレッタ様が代表するように静かに口を開いた。


「それはね……私が原因です」


「えっ!?」


反射的に声が出た。

すぐさま、フレイヤ様とミランダお姉様が反論する。


「ヴィオレッタ様、それは違います! 悪いのは全部、あのアタマカール様ですよっ!」


「ええ、フレイヤの言うとおりですわ。ヴィオレッタ様とフレイヤはむしろ被害者です」


けれどヴィオレッタ様は、ゆっくりと首を横に振った。


「ええ……もちろん、悪いのはアタマカール殿下だと私も思ってるわ。でも、あのとき──いえ、あの卒業パーティーでの事件が起きる前に、私がもっと早く、うまく動いていれば……あんな騒動にはならなかったはずなの」


「それは……っ!」


フレイヤ様は何か言いかけて、視線を落とした。


──っていうか、“アタマカール”ってなにその名前!?

いや、待って。頭、カール……?


それ、キツくない? なんかちょっとズルくない?

殿下なのに……いや、殿下だからこそ?


……って思ってしまうのは、私が元日本人だからだろうか。

そういえば、アメリカ人の友達が「ユウダイ」って名前を聞いて「You die!?」って真顔で二度聞きしてたっけ。

直訳すると「お前は死ぬ」うん、そういうのある。


と、どうでもいいことを考えていた私をよそに、話はまだまだ深刻なまま続いていた。


「確かに……もし、あの騒動がなければ、シルヴィア王女はジルティアーナと同じ時期にアカデミーへ入学していたはずです」


「ミランダ様っ!」


フレイヤ様がぴしりと名前を呼ぶ。

その声音には、「それを言わないで」と言いたげな焦りがにじんでいた。


ヴィオレッタ様は、静かに頷く。


「その通りです。シルヴィア様たちは、その複雑な生まれゆえ、なるべく目立たないように王宮で過ごされています。

でも、シルヴィア様はとても笑顔が素敵で……まるで、ソレーユの花のような方なんです」


ソレーユの花。

日本でいうところの向日葵みたいな、大きな鮮やかな黄色い花。


──ああ、なんとなくわかる気がする。

綺麗な金髪に、太陽みたいな笑顔が素敵な女の子なのだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アタマカール……頭軽→脳ミソ空っぽ?から~の、短慮で粗忽な人物って事でOK?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ