23.マイカのお買い物
「おや、マイカ。おつかいかい?」
「うんん、お母さんへのプレゼント買いに来たんだ。今日は、おかあさんの誕生日なの!」
ふんすっ!と鼻息荒く自慢げに言った。……なんか、ネージュみたい。と思わず見てしまった。
後ろから見ても、プレゼントを買う事にワクワクしてる事がよく分かり、ネージュみたいに尻尾があったらブンブン振っているんだろうな。
と、思ったら左右に揺れるツインテールが、尻尾のように思えてしまった。
じゃらじゃらじゃらじゃら~~!!
「……凄いねぇ」
「いっぱいお手伝いして貯めたの!」
と、凄い音をたててマイカちゃんが小銭を出した。ほとんどが1ペル5ペル10ペル硬貨だ。
頑張ってお手伝いをしたのがよく分かる。
おばさんが、1、11、21ペル……と笑いながら数えていたが、残り少なくなってきて顔が曇る。
(あ……嫌な予感……)
「マイカ……300ペルしかないよ」
「……? 4つで300ペルでしょ?」
「いや……先週から値上がりしちゃってね、オマケしても400ペルなんだよ。300ペルじゃ3個だね」
が────んっ
と、効果音が聞こえそうなほどショックを受けたのが分かる。
「……3個しか……買えない?」
「うん……ごめんよ」
「おかあさんと……おとうさんとマイカとルークで1人1個ずつ食べようと思ったのに……」
ルークというのは弟くんかな? 今度は、しょぼーん。と聞こえてきそうな様子で悲しそう。
袋を受取り、先程の元気が嘘のように、しょぼーんと帰ろうとした。
(うーん……。仕方ないなぁ)
「マイカちゃん」
大きな瞳が私を見上げた。
私はキーウを手にマイカちゃんの前にしゃがむ。
「お姉ちゃん達、今ここでキーウ買ったんだけど、買いすぎちゃったの。食べきれないといけないから1個貰ってくれないかな?」
一瞬、瞳がキラキラ光ったが、またすぐにしょぼーんとなってしまった。
「おかあさんが……知らない人からモノを貰っちゃいけないって言ってた……」
あちゃー。マイカちゃんのおかあさんしっかりしてる。……どうしたもんかなぁ。
と思っていたら、お店のおばさんが声をかけてくれた。
「マイカ! 大丈夫だよ。そのお姉ちゃんはおばさんのお友達だから、知らない人じゃないよ」
「貰っても……大丈夫なの??」
「マイカちゃんが貰ってくれると、お姉ちゃん嬉しいな!」
「……お姉ちゃん、ありがとう!!」
キーウを受け取ると、また瞳をキラキラさせお礼を言ってくれた。
無事、マイカちゃんもキーウを買い「ばいばーい」と手をふるマイカちゃんに手を振り返した。
「マイカにキーウを、ありがとうね」
「いえいえ。こちらこそ、お友達になってくれてありがとうございます」
そう言い返すと、一瞬キョトンとしたおばさんはハッハッハ!と豪快に笑った。
「あんた、良いとこのお嬢様だろ?
もしかして……お貴族様だったりするのかい?」
え、なんでバレたの?と笑顔で固まる。
エリザベスさんが、スッと庇う様に私の前にたった。
おばさんはそれを気にすることなく、私たちが沈黙した事で、自分の考えが当たりだと確信したようだ。
「ひと目見た時から、あんた自身の身のこなしも綺麗だし、何より連れの美人さんがさらに平民とは思えないからね。
で、その後、ジルティ……なんだっけ?すごい、長い名前を美人さんが言ったからお貴族様だな。と思ったわけだ」
推理が当たった事を得意げに、片目を閉じて言う。
でも、嫌な感じはしない。
「……驚いたんだよ。普通のお貴族様なら、平民の子供が果物を買えなくても気にしない。
気まぐれで助けてやるにしても私に、『まけてやれ』と命令するのが普通さ」
え? そうなの? と、エリザベスさんを見ると、苦笑いを浮かべ、頷く。……お貴族様って、横暴なのね。
「本当はマイカにキーウの1個くらいオマケしてやりたかったけど、こっちも商売なんでね。
数年前から……不作のせいか収入は減る一方なのに、物価の値上りが止まらないんだよ。私たちも生活がかかってるし、他の客もいるからあの子だけを特別扱いできなくてさ。
だから、あんたがマイカにキーウをあげてくれて嬉しかったのさ」
少し沈んだ顔をしたおばさんが、最初にみた明るい表情に戻り、ニカッと私を見て笑った。
「しかもあんた、ただ奢ってやるんじゃなくて、子供の目線になって、マイカが受け取りやすいように話してくれただろ? 私は正直……貴族が嫌いだ。でもあんたみたいな子は、好きだよ」
次回、貴族の名前と権力と。