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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
観光の街、クリスディア

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222/338

221.やさしい味と確かな時間


日が傾きはじめ、街はやわらかな橙色に染まっていた。

通りには、長く伸びた影がゆらゆらと揺れている。


約束の時間までは、まだ少し余裕があった。

私たちは少し遠回りをしながら、のんびりと街の風景を楽しんでいた。


そんなとき──


「……この匂い」


レーヴェがぽつりと呟く。

その視線の先をたどると、角を曲がった先にステラの姿が見えた。


「あら、ステラ?」


「……あっ、ティアナ様!」


彼女もこちらに気づき、足を止める。


「お疲れさま。今日は早上がりだったの?」


「いえ、たまたま少し早く終わりまして……ティアナ様たちはエレーネさんの家に行かれたんですよね、エレーネさんはどうでした?」


「ええ。とても元気そうだったわよ。

お腹の赤ちゃんも、びっくりするくらいよく動いていて」


そう話すと、ステラの頬がふわりとゆるみ、やさしい微笑みが浮かんだ。


「……そうですか。よかった……」


その笑顔には、どこか懐かしさを帯びたあたたかな色がにじんでいた。


ちょうどそのとき、風がそっと吹き抜ける。

ステラの長いピンク色の髪が光をまとい、やわらかく揺れた。


私は、思わず息をのむ。


──ステラと出会ってから、もう四年。


その間で一番変わったのは、きっと彼女だ。


かつてのあどけなさを残した少女の面影は、もうほとんど見えなくなっていた。

今、そこに立っているのは──凛とした強さを秘めた、ひとりの“女性”。


外見の美しさだけではない。

話す言葉、立ち居振る舞い、誰かを想うまなざし──

そのどれもが、あの頃とは少しずつ違っていて。


でもそれは“変わった”のではなく、

“積み重ねてきた日々が育てた変化”なのだと思う。


私は、少しだけ誇らしい気持ちで、そっと彼女を見つめた。


「私も……エレーネさんに会いたかったな」


ふとこぼれたステラの言葉には、どこか名残惜しさがにじんでいた。


「次に行くときは、ステラも一緒に行きましょ」


「同じ街に住んでるんだ。またすぐ会えるさ」


リズとレーヴェが笑いながらそう言うと、ステラも嬉しそうに頷いた。



 ◆



「いらっしゃいませー! ……って、ティアナ様!? どうされたんですか?」


「もちろん、食事をしに来たのよ。

美味しい牡蠣が入ったって聞いて、それは逃せないと思って」


海辺のダンさんの食堂に足を運ぶと、出迎えたアンナが目を見開いた。

奥のカウンターから、ダンさんが顔を出す。


「おう、いらっしゃい! ティアナちゃん。

すぐ牡蠣を捌くから、ちょっと待っててくれ!」


「やったー! ありがとうございます!」


そんな会話を交わしたあと、カウンター近くの予約席に腰を下ろすと、

アンナが小皿を運んできた。


「今日はナスの煮びたしです。よかったらどうぞ!」


「わあ、ナスの煮びたし! いい香り……これは食欲そそられるわね」


リズもレーヴェも笑顔になって、「いただきます」とみんなで手を合わせる。


ステラも隣に座りながら、「こうして皆で外食って、久しぶりな気がします」と嬉しそうに言った。


木の香りが漂う店内に、あたたかな湯気と、笑い声が満ちていく。

外はすっかり日が暮れていたけれど、食堂の灯りはまるで、心そのものを照らすように感じられた。


──この食卓もまた、積み重ねてきた日々の証なのだと。

湯気の向こうに揺れるささやかな幸せを、私はそっと見つめていた。


「それにしても、ダンさんのナスの煮びたし……久しぶりですね」


ステラが嬉しそうに笑いながら、箸を動かす。

私はつい、頬が緩んだ。


「最初は、ちょっと苦手だったのにね」


そう言うと、ステラは目を丸くして、すぐに恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「うぅ……ティアナ様、気付いてらしたんですね……」


「ふふ、もちろん。初めて出したとき、すごく微妙な顔してたもの」


「ナスの味が……ちょっと苦手だったんです。でも、ティアナ様とオリバーさんもそうですけど、ダンさんの料理って本当に美味しくてっ!

あのとき、ちょっと衝撃でした。煮びたしって馴染みがなかったんですけど、あのナスがあんなにやさしい味になるなんて」


「料理って不思議だよな。作る人によって、苦手だったものまで印象が変わるんだからさ」


レーヴェが感心したように言いながら、箸を進める。

あの頃より、ずっと食べる表情がやわらかい。


「ダンさんの料理って、食べた人の心までほぐれていく気がしますよね」


そう微笑むリズの言葉に、タイミングを合わせるように、厨房からダンさんが牡蠣の皿を手に現れた。



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