21.出発
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「本当に……聖獣の子供が……? 新たな聖獣様が誕生瞬間に立ち会えるなんて……っ! それに、ネージュ様のお声まで聴けるなんて……!」
エリザベスさんが信じられない、という様子で言った。
聖獣様の言った通り名前を付けた瞬間、ちび聖獣──ネージュの姿が皆に見えるようになり、聖獣様とは違い、ネージュの言葉までも皆に聞こえるようになったらしい。
ネージュは楽しそうに、踊るように皆の周りを飛び回っている。
「さて、本当にもうタイムリミットのようね」
ミランダさんが屋敷の方を見て言ったので、目線の先に意識を向けると、まだ距離はあるようだが「ミランダ様──!」と呼ぶ声が聞こえる。
おそらく当主夫妻に命じられミランダさんを探してる使用人の声だろう。
「もっとちゃんと話をしたかったけど……もう行くわ。
クリスディアの手前にあるワインが名産の町ウィルソールで、私が嫁いだフェラール家は商会を営んでるの。だから……また、すぐ会えるわ。
私はこの後行く場所があるからすぐに戻れないけど……ぜひ、クリスディアに行く前にウィルソールに立ち寄ってちょうだい。私も落ち着いたら、クリスディアに行かせてもらうわ」
「ミランダ、気をつけてね」
「ありがとうございます。……ネージュ様もどうかジルティアーナを護り助けてあげてくださいませ」
心配そうに近寄ったネージュをミランダさんが撫でると、気持ちよさそうにゴロゴロとネージュは喉を鳴らした。
そうして今度こそ、ミランダさんはアイリスさんを伴って私たちの前から去っていった──。
「では、私たちも出発しましょうか」
そう言って、私はエリザベスさんとエレーネさんを見た。
因みにエリザベスさんが「一緒に馬車に乗れない 」と言った理由は聖獣様は本来は気難しく、人が近付くのさえ許さない。乗ろうとしようものなら大暴れし、振り落としてしまうらしい。
そんな中、気を許したのが【聖女】クリスティーナだったらしい。
そしてクリスティーナが亡くなる前に、聖獣様の事をエリザベスさんに頼んだとの事で、今やエリザベスさんが聖獣様に騎乗が許される唯一の人となった。
因みに、元々のジルティアーナは近寄る事は許されず、辛うじてクリスティーナの弟子だったミランダさんは乗る事は出来ないものの、近寄ることは出来てたらしい。
そんな聖獣様が、私に自ら近づき、更にクリスティーナでさえ出来なかった会話をしたから、皆はあの様な反応だったらしい。
そりゃ、びっくりするのも無理はない。
聖獣様は本来は気難しい性格らしい。唯一近付けたのがクリスティーナだけ。なのに私には自ら近付き、更には言葉を交わすなんて──。
「でも、大丈夫でしょうか? 先程、アイリス様が「ジルティアーナ様が乗る馬車も止められてる 」と仰ってました。ミランダ様が【聖霊の卵】を渡しただけで、すぐに出発できると良いですが……」
心配そうなエレーネさん。
そうなのよねぇ、どうしたものか……。
と、思っていると
『転生者も私に乗っていけばいい。馬車で10日間の道のりなら3日程でいけるぞ?』
「え、本当に? 私まで乗せてくれるんですか!?」
さっき、エリザベスさんしか乗れないと聞いたのに、まさかの乗せてくれるらしい。
わーい。やったー!
全然、気難しくないじゃん。聖獣様ありがとう!!
と私は聖獣様に近寄ったが、
エリザベスさんとエレーネさんはまた驚いていたが、エリザベスが言う。
「聖獣様が乗せて下さるのなら安心です。ジルティアーナ様がした事が無いだろう長旅が、正直心配でしたので。
ただ……そうなると別の懸念がでてきます。
聖獣様がジルティアーナを背に乗せる事を許す程、受け入れていることを知られるのは得策ではないと思います」
……確かに。
この事を知られたら──イザベルやシャーロットが何をしてくるか……。
──すると
『ネージュ』
『はーい。ネージュに、おまかせ!』
聖獣様に呼ばれたネージュが、ふんすっ!と得意げに鼻息を鳴らしたかと思うと、ネージュが発光した。
そして人のかたちに……と思いきや──私!?
なんと私……というかジルティアーナの姿になった。目が合うと、目の前のジルティアーナはニコリと笑う。
「じゃーん! ちゃんとジルティアーナに見えるでしょ? ネージュ、凄いでしょー!?」
そして得意げにふんすっ!と、目の前のジルティアーナは鼻息鳴らし、胸を張った。
うん。声も私だが……確かにネージュのようだ。
「──ネージュ。本来のジルティアーナは、とても大人しかったの。エレーネさん以外の人がいる時は極力しゃべらないようにね?」
「うん! わかった!!」
しーっ!と、口の前に指を立て言う私に対して、ネージュは眉をキリっとあげ敬礼をした。
「エレーネ。ネージュ様の事……くれぐれも頼みますね」
「精一杯務めさせて頂きます!!」
先程、私が馬車に乗り込む時にしたのと同じ会話をするエリザベスさんとエレーネさん。
だが、エリザベスさんは先程より念押しし、エレーネさんはヤケクソの様に勢いよく返事をしたあと
「上級貴族のジルティアーナ様と直接かかわるだけでも、緊張してたのに……まさか……聖獣様に仕える事になんて……」
と、震えていた。……なんか、ごめん。
聖獣様に促され、エリザベスさんに支えてもらいながら聖獣様の背に乗る。
安定重視でスカートをたくし上げ、跨った。
……頭から全身をすっぽり覆うマントをかけ見えてないからきっとセーフ。
エリザベスさんも、軽やかに私の後ろに飛び乗ったかと思うと
「いきますよ」
「うわぁ!」
聖獣様がバサリと大きな翼を広げ、浮かび上がった。落ちそうな気がして、思わず聖獣様に抱きつく。
ぐんぐんと浮上し、かなりの高さになる。
下後方を見れば小さく見えるネージュが、大きく手を振ってくれてるのが見えたが、その姿も私が
1ヶ月過ごしたヴィリスアーズ家の屋敷も、あっという間に見えなくなったのだった。
空を、駆ける。
相変わらず、ぎゅっと聖獣様に抱き着く私に、エリザベスさんがクスリと笑い「大丈夫ですよ」と教えてくれた。
何でも聖獣様が風精霊の力を使い、私たちの身体を安定させてくれてるので落ちたりはしないらしい。
恐る恐る手を離し、身体を起こすが確かに凄い安定してる。
……魔法の世界、すごすぎるっ!
快適な空の旅を楽しむ。
自然豊かな森を越え、山を越えたその先に街が見えてきたのだった──……。
次回、はじめての市場とお買い物。
サプタイトルそのまんま。
初めて市場に行って、買い物をします。