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20.【聖霊の卵】




────⋯⋯⋯⋯

──⋯⋯



エリザベスさんが、どうにか泣き止んだ時の事だった。


「ミランダ奥様──!!」


叫ぶように呼ぶ声がし、視線をやるとオレンジ色の髪の女性がこちらに走って来るのが見えた。その女性(ひと)が近くに来ると、ミランダさんが苦言を言った。


「そんなに大声をあげて、走るなんて……はしたないですよ。アイリス?」

「も、申し訳……ございません……っ!」


アイリスさんは眉をひそめるミランダさんに謝罪するも、上手く喋れないようだ。

おそらく全力で、ここまで走ってきたのだろう。

必死に呼吸を整えようとしているのが解る。

「ですが……!」と勢い良く顔をあげた。


「大変なんですよ!どうやらイザベル様に……ミランダ様が【聖霊の卵】を持出した事が知られてしまったみたいでして、ヴィリスアーズ家の者達が、ミランダ様を探しております!!」


んげっ! もう、バレたんかいッ!!

どうやら、ココで時間をかけ過ぎてしまったようだ。私が乗る予定の馬車も、出発を止められてるとアイリスさんは言う。


どうしよう……ッ!



『ちょうどいいではないか。シャーロットの為に欲しがっているのであろう?

【聖霊の卵】を渡してしまいなさい』


思わぬ言葉が聞こえ、聖獣様を見た。


「なっ……なに言ってんですか!? 【聖霊の卵】は大切な物なんですよね? それをシャーロット(あんな子)の為に渡すなんて……っ!」


反論する私に対し、『いいから、出せ』と聖獣様。私は渋々、エリザベスさんに先程渡したばかりの袋を返して貰った。

中から出したのは、【聖霊の卵】


──ジルティアーナの宝物。

これはエリザベスさんが持っているべきだ。そう思い彼女に託した【聖霊の卵】

なのに……っ! あんな人達に渡さなきゃいけないの?

そう思いながら、聖獣様の前に差し出す。

聖獣様は鼻先を【聖霊の卵】に付けたと思った時だった。



────パキッ!



と、高い音が響いた。

え!? 【聖霊の卵】が…………割れた!!?


あまりの事に固まる私を嘲笑うかの様に、【聖霊の卵】は音をたて、次々と亀裂を増やしていく。


えっ……ど、どーすればいいの!?


すると突然、亀裂から虹色の光が輝いたーーー!


「っ!!」


あまりの強い光に、反射的に目を閉じた。

もう、大丈夫かな? と、そっと目を開けようとしたその時……


『……みゃー!』


思わぬ声に驚き目を見開きみると、先ほどの光の粒子がキラキラと舞う中、私の手のひらに真っ白な子猫がちょこんと座って居た。


何これ!? か、かわいい……ッ!!


急に現れたモフモフに興奮しながら観察する。

真っ白なフワフワの綿毛のような毛並みに、透き通った海のようなキラキラ光る青い瞳に、薄い縞模様。猫よりも太めな足に、ちょこんと付いた可愛い丸いお耳。


…………。


子猫……じゃなくない? これってまさか、ホワイトタイガー!?

そんな事を考えている私に白いモフモフは、ふわりと浮かび上がり私の頬へスリスリ顔を寄せてきた。

まぁ、可愛いから何でも良いや。可愛いは正義です!!

思わずスリスリをし返していると、聖獣様が声をかけてきた。


『無事産まれたようだな。そいつは聖獣の子供だ。大切に育ててやってくれ』


…………なんですと?

猫でもなく、ホワイトタイガーでもなく……まさかの聖獣!?

私の心情を読み取ったのか、馬の聖獣様がいう。


『だから【聖霊の卵】と呼ばれていたんだ』


え──っ!!

【聖霊の卵】とかダッサイ異名だなぁ。なんて内心思ってたけど……本当に卵だったんかい。


ちび聖獣が退いた私の手の中に残された【聖霊の卵】は先程の事が嘘のように亀裂が消えていた。


元通り。──の様だけど、輝きが……減った?

今も綺麗なんだけど、何かが違う気がした。


「もっと、キラキラしてなかったっけ?」


キラキラというかツヤツヤというか……何がとは言えないが、何かが違う気がするんだよなぁ。と、首を傾げると聖獣様が言った。


『聖獣が産まれたからな。

それはもう、ただの抜殻だ。先程まで持っていた力は、その子供に引き継がれている為、今は効力を失っている。

まぁ、人間にとっては宝飾品等としての価値はあるのかもしれんがな 』


うん。宝飾品としての価値は高いだろう。こんな大きなパール、見たことないもの。

だけど──宝石の価値以上に、ジルティアーナがクリスティーナ(お祖母様)の形見として大切にしてた様に、今やジルティアーナの形見となってしまったものだ。


「あの……大丈夫ですか?」


そっと私の肩に手を起き、エリザベスさんが心配そうに顔を覗き込んでいた。

いけない。また、聖獣様と話し込んでて話を伝えてなかった! と思い、起きた事と聖獣様と話した事を説明した。


エリザベスさんに【聖霊の卵】……だったもの?

を渡すとエリザベスさんは、じっと【聖霊の卵】を見つめ呟いた。


「まさか、本当に……卵だったなんて……」


やはりエリザベスさん達にも予想外だったらしい。うん。本当にビックリだよね。


どうやら、皆には強い光は見えたけど、【聖霊の卵】が割れたのも、今、私の横にちび聖獣が居るのも見えないらしい。

エリザベスは瞳を閉じて、ぎゅっと【聖霊の卵】を抱きしめた後、ミランダさんに差し出した。


「イザベル奥様に……お渡し下さい。」

「【聖霊の卵】はジルティアーナ様にとって宝物だった物です。エリザベス様にとっても大切な物ですよね!?」


思わずといった様子で、エレーネさんがエリザベスさんに問う。私も同じ気持ちだ。

やはり【聖霊の卵】は、居なくなってしまったジルティアーナの為にもエリザベスさんに持ってて欲しい。

だがミランダさんは、真っ直ぐにエリザベスさんを見つめ、それを受け取った。


「わかったわ。お母様に渡しします。本当に、いいのね?」


「はい、大丈夫です。【聖霊の卵】がなくとも私の中には姫様との思い出がたくさんあります。

正直少し……別れがたいですが、このままではイザベル様が黙ってないでしょう。そうなるくらいならば、渡してしまいましょう」


おそらくエリザベスさんはミランダさんを心配しているんだろうな。と思った。

あの人達のところから【聖霊の卵】を持ち出したのはミランダさんだ。このままだと絶対……面倒な事になる。

ミランダさんもそれが解っているんだろう。悔しそうな顔をしたあと「じゃあ、私はこれを返してくるわ」と、【聖霊の卵】を箱にしまい、アイリスさんを伴って、この場を後にしようとした。


『──待ちなさい』


聖獣様の言葉は聞こえないはずだが、ミランダさんは足を止めた。

何故なら聖獣様がバサッ!っと大きな音をたてて大きな翼を広げたのだ。


聖獣様って…………ペガサスだったの!?


その翼から、羽根が5枚抜け落ち宙を舞う。キラキラと光を伴ってその羽根は、それぞれその場に居た私以外の4人の目の前で止まった。


彼女達が手を出すと、羽根が纏っていた光が消え手の中に落ちた。

もう1枚の羽根はミランダさんが持っている【聖霊の卵】の箱へ吸い込まれるように消えた。


「これは……?」

『我が羽には……【聖霊の卵】が持っていたような邪気を祓う力がある。肌身離さず持っておくがいい。【魅了】等に、かから無いようにな』


そのまま、聖獣様に言われた事を伝えると「聖獣様の加護を頂けるなんて……っ」と感極まる様子だった。よく分からないが、物凄く貴重で良い物らしい。


ただエレーネさんは「平民の私が、こんな高価な物を頂けませんっ」と狼狽え返そうとしたが、魔力が少なく抵抗力があまりない者にこそ必要よ。というエリザベスさんの説明を受け、そのまま震えながら受け取った。


「あのー……、私には貰えないんですか?」


『必要なかろう。転生者には、既に守護獣となる者がいるだろう』


守護獣って……モフモフの、この子のこと?

これからずっと私の側にいてくれるの?

隣にいた、ちび聖獣を見つめると透き通った丸い青い瞳で見返してきた。


うん。羽根より、このモフモフの方がいいっ!と、頭を撫でると気持ち良さそうに目を閉じた。

(……か、かわいい!)

だが、そんな様子を周りの皆は怪訝な顔で見てくる。決して、私が変な訳じゃない。


ちび聖獣が皆に見えないのがいけないのだ。その事に不満を言うと聖獣様が教えてくれた。


『其れはまだ幼なく、マナの使い方が下手だからな。そいつに名前を与えてやれ。そうすれば転生者の魔力の影響で実体化できるはずだ』


名前?うーん、じゃあ……


「白くてホワホワしてるから──ネージュはどう?

ネージュっていうのは、私の世界では雪って意味なんだけど、どうかしら?」


「……ネージュ! 素敵な名前ね。ありがとう!」


嬉しそうな小さな女の子の声が聞こえた。

聖獣様によると私に名前を貰った事で、主である私と同じ言語を話すようになるらしい。


良かった。名前を、気に入って貰えたようだ。


聖霊の卵、が本当に卵でした。


次回、出発。

サブタイトルの通り、やっとこヴィリスアーズ家を出ます。まさかの20話もかかるとは……

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