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19.アカデミーでの噂話と発明


前回に続き、ジルティアーナの回想です。






そしていつの間にか、わたくしも──⋯⋯




──⋯⋯

────⋯⋯⋯⋯



「ねぇ、ジルティアーナ様とシャーロット様って似てないわよね? シャーロット様はあんなに愛らしいのに、ジルティアーナ様は⋯⋯」

「顔はともかく、あの体型はどうにかならないのかしら。一緒にいると、不快になりますわ」

「上級貴族の方をそんな風に言っては⋯⋯ふふっ失礼ですわよ。何でもお2人は異母姉妹らしいですわ。現当主であられるお二人のお父様のローガン様が、当時の奥様⋯⋯ジルティアーナ様の実母と上手くいっておらず、元々は婚外子としてシャーロット様は御生まれになったらしいですよ?」

「それは⋯⋯。でも仕方ない気もしますわね。元奥様⋯⋯ジルティアーナ様のお母様という方が、ジルティアーナ様のような方だったとしたら⋯⋯外に癒しを求めるのは当然ですわ」

「あんなジルティアーナ様が次期当主なんて、不安ですものね。第二夫人等ではなく、婿の立場で外に女性をつくるのは褒められたものではありませんが⋯⋯結果的には良かったのかもしれませんね?」


アカデミーでの令嬢達がする噂話。

その悪意ある内容とクスクスと笑う声に、死角にしゃがみこみ涙を堪え聞いていると──⋯⋯



「あら、皆様お揃いで。何か、私とお姉様の名前が聴こえたような気がしましたが?」

「シャーロット様!? あっ! ジルティアーナ様も⋯⋯っ」


思わぬわたくし達の登場に、青ざめる彼女達に向かってシャーロットがいう。


「私達の親達がどうであれ、私たち姉妹の関係は上手くいっております。

なのに、そんな風にお姉様に失礼な事をおっしゃるなんて⋯⋯!」


「──ッ!! 失礼いたしました。皆さん、行きましょう」


そう言って、彼女らが去っていった。


「シャーロット⋯⋯」

「お姉様も黙っててはダメです。上級貴族であるお姉様がビシっと言わないと! お姉様は凄い魔術具も作れる素晴らしい方なのですからっ」

「ありがとう、シャーロット。貴女がそう言ってくれるだけで充分よ」

「もーっ! お姉様は優しすぎますわっ」


ジルティアーナ様に対しての誹謗中傷をすると、それをシャーロット様が庇う。

何度かそのような事を繰り返すうちにシャーロットは、いつしかアカデミーで聖女や天使と言われるようになっていった。

わたくし自身も⋯⋯顔は地味で太ってて、人見知りで緊張しやすく、自分の意見にも自信が持てなくて⋯⋯なかなか発言をする事もできない。

そんな情けないわたくしにも、リズ以外で優しく接してくれるシャーロットの事を、いつしか信じきっていた。


シャーロットは本当に聖女様なのかもしれない。

と、シャーロットはいつの間にか、自慢の妹となっていた。




「お姉様、ありがとうございます! これを私の為に?」

「ええ。前にわたくしの髪をリズが、火精霊と風精霊の力を借りて乾かしてるのをみて羨ましいと言ってたでしょ?

だから、髪を乾かす為の魔術具を作ってみたの」


わたくしがシャーロットに渡したのは、ドライヤーと名付けた髪を乾かす為だけの魔術具。

わたくしはいつもリズに乾かして貰っていたが、火と風という二属性の魔法や召喚術を同時に使える術者は稀だ。

現にシャーロットの侍女には、その二属性を使える者が居なかった。


「素晴らしいですわ、さすがはお姉様です!

これ、アカデミーで発表なさらないのですか?」

「わたくしは、魔術具を造るのが好きなだけよ。ドライヤーは自信作だけど⋯⋯わたくしにはそれを上手く伝える、説明力がないもの」


「だったら⋯⋯代わりに私が発表してもよろしいですか? こんな素晴らしい魔術具ですもの。皆さんにも便利に使って欲しいですし、何よりお姉様の凄い発明品を世に広めたいのです!」

「そんな事⋯⋯。頼んでもいいの?」

「もちろんですわ。このドライヤーを私が世の中に広めてみせますわ!」


こうしてわたくしは、ドライヤーをシャーロットに託した。

──その結果。


複雑な二属性の力を、安全かつ少ない魔力量で使える為、下級だろうと貴族ならもちろんの事、魔力が少ない平民でも使えるとは凄い!と称賛された。


シャーロットがアカデミーの発表会で、ドライヤーを発表したところ、最優秀賞を獲得したのはもちろん、まだ未成年の身でありながらとても良い発明をしたと王族にまで表彰された。


誇らしかった。

わたくしが発明しただけなら、世の中に出ることは無かったであろう、ドライヤー。それがシャーロットのおかげで、多くの人に知ってもらい、使って貰う事ができる。

そう思い、私は心の底からシャーロットに感謝をした。



──⋯⋯

────⋯⋯⋯⋯




──⋯⋯駄目だ。

客観的にジルティアーナの過去をみて、シャーロットに良いように使われたのがよく分かる。


そして、改めて思う。

最初は──シャーロットと出会った頃までは、ジルティアーナも貴族として、ヴィリスアーズ家の次期当主としてプライドを持っていた。


本当に家族なの? と疑いたくなるような酷い対応のローガンや勝手な振舞いをするイザベルに対して、激怒し反抗していた。

でも─その、後ろ盾となってくれるはずだった祖母を失い、新しい家族という名の自分の不倫相手だった女やその子供達を優先する父親と義母となったイザベル。

そんな両親に対して、たった9歳の少女に抗う術は⋯⋯なかったんだ。


ローガンが当てにならず、ちゃんとした血の繋がった家族。そう言える者が居なくなっても、長年ヴィリスアーズ家に仕えていてくれ、産まれた時から共に過ごしてきた執事長や侍女長たちがジルティアーナにとって家族だった。祖母が居なくなっても、父親が頼りにならなくても、彼らが守って支えてくれるはずだった。

なのに、そんな彼らを遠ざけられたり、おそらく【魅了】でやられたのか、シャーロットたちの味方をする仲良かった使用人たち。


家族の様に思ってた人達が、会って間もないのシャーロットの肩を持ちどんなにショックだったか⋯⋯。

義母やそんな使用人たちは、何かとジルティアーナを同い歳のシャーロットと比べた。



『シャーロット様は本当に可愛らしいですわ。それに比べて──⋯⋯姉は、どうしてそんな地味でそばかすだらけの顔なのかしら?』


『シャーロット様は優秀ね。それに比べて──⋯⋯頭は悪くないのでしょうけど、それを生かせなきゃ。ねぇ?』


妹のシャーロットはあんな事が出来るのに、姉であるジルティアーナはこんな事も出来ないのか。


といった言葉を、事ある毎に言われ続けたのだ。


異様に自己評価が低い。

それは、ジルティアーナが育ってきた環境で、彼女の価値を否定されて育ったから⋯⋯

シャーロット達が、名ばかりの家族になってから半年程たってから、何度か祖母のお客様として接した事があったエリザベスがジルティアーナの侍女になってくれたのは唯一の救いだった。


だが⋯⋯ジルティアーナの自尊心は、すでに手遅れだったんだ。


──⋯⋯今回の、成人の儀での事に少し似ている。


祖母を亡くして傷ついているジルティアーナへ追討ちをかけるように、父親が他所に女を作っていた事や、その人と再婚をするという事。


更には──執事長や侍女長を辞めさせられた直後に発覚した事実。

最初は上の兄姉の様に、イザベルの連れ子で自分とは血の繋がらない義理の妹だと思っていたシャーロット。

それが実は⋯⋯ローガン(お父様)の実の娘だと言う事を知った。同い歳の妹。

普通の9歳の少女なら、ただ歳の近い妹がいた。というだけで、その意味を理解出来なかったかもしれない。


でも、ジルティアーナは違った。

祖母クリスティーナが自分の命が長くは無い事を知り、早めの次期当主教育をジルティアーナにしていたのだ。

当主として、跡取りに関すること。子供や結婚観に関する事は重要な事だ。

子供がどうすれば出来るか。そういった事を既にジルティアーナは教えられていた為に⋯⋯


同い歳の妹がいた。

──⋯⋯それが、意味する事をジルティアーナは、ちゃんと理解してしまったんだ。





アカデミーではジルティアーナよりシャーロットの方が優秀と思われてましたが、こうして功績を譲っていたり、課題を手伝ってあげたりしてました。勉強での頭の良さはジルティアーナの方がいいのに、テストでは緊張や緊張のあまり体調不良を起こしたりし、実力を発揮できていませんでした。授業中の発言も緊張でミスるので、ジルティアーナの頭の良さを知っているのは、いつもそばに居たエリザベスと、ジルティアーナを上手く利用するシャーロットくらいだったという・・・。


回想はこれで終わり。次回、【聖霊の卵】



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[一言] 驚愕の事実!!( ゜□゜)
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