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191.みんなで食べる朝ごはん


オリバーさんの前に、ドンッと特大おにぎりが置かれた。


「お、おお……これはすごいな……!」


オリバーさんは目を丸くし、まるで山を前にした登山者のような顔をした。


マリーが得意げに胸を張る。


「あ、あれ? さっき俺に渡してくれたおにぎり、こんなに大きくなかったよな?」


「あれは自分用よ。オリバーにはたくさん食べてほしくて、特別なおにぎりを作ったの!」


(大丈夫かな……? ルークくんのも普通の二個分くらいありそうだったのに。マイカちゃんのと合わせて、全部で六個分?)


私は少し心配になって、オリバーさんの様子をそっとうかがった。


そのとき、「はぁ……」というため息が耳に届く。


視線を向けると、ミーナだった。


私の不安げな目線に気づいたアンナが、そっと声をかけてくる。


「朝食作り、“自分も参加したかった”って、落ち込んでるんです」


あらまあ……。


「ミーナ。これ、ミーナたちのために作ったのよ」


そう言って、私はミーナの前に“しじみの味噌汁”をそっと置いた。


ミーナは、湯気の立つ味噌汁をじっと見つめた。


ふわりと立ち上る出汁の香りに、思わずまぶたを少し閉じる。


「……しじみ?」


「うん。昨日、オリバーさんといっぱい飲んでたでしょ?」


そう笑いかけると、ミーナは小さく頷き、スプーンを手に取った。そっとすくって、口元へ運ぶ。


ひとくち。


その瞬間、彼女の目がわずかに見開かれた。


「……すごい、やさしい……」


もう一口。今度は、ふうっと息を吐いてから、ゆっくりと味わうように飲み込む。


「塩気がきつすぎなくて……でもちゃんと、しじみの出汁がきいてる……。胃の奥が、じんわりあったかくなる感じ」


ミーナは、ぼんやりと湯気を見つめながら呟いた。


「ほっとするでしょ?」


「うん。あたたかくて……とても美味しいよ」


そう言って、ようやく笑みを浮かべた。その笑顔につられて、私も自然とほほえむ。


「おにぎりなら、昨日一緒に作ったじゃない。おにぎりじゃないけど……今日の昼食は一緒に作りましょ?」


ミーナは、こくんと頷いたあと、少し唇を尖らせて言った。


「昼食作りは楽しみだけど……自分が作りたかっただけじゃなくて、みんなが料理してるのを見たかったんだよ」


「そっか」


私が笑いながら返すと、ミーナは照れくさそうにうつむいた。


「……でも、朝起きられなかった私が悪いんだけどね」


そう言って、また味噌汁をひと口飲んだ。


「このしじみの味噌汁、本当に美味しいね。それにこの卵焼きっていう、オムレツみたいなのも……はじめて食べたけど、すごくおにぎりに合ってるよ」


「でしょ? お米が主食の国では、定番の朝食メニューなのよ」


そう言うと、ミーナは「へえ……」と感心したように目を細めて、フォークで卵焼きをそっと持ち上げた。


「ふわふわしてて、ちょっと甘い。でもそれが、おにぎりのしょっぱさと合うんだね」


「そうなの。だし巻きっていうのもあるけど、今日は甘めにしてみたの」


「これ、わたしも作ってみたいな」


ミーナがぽつりと言ったとき、その目がちょっとだけ輝いて見えた。


「うん。今度、一緒に作ろう」


私がそう言うと、ミーナはちょっと照れくさそうに笑って、コクンとうなずいた。


そのとき、オリバーさんが「ふう〜」と満足そうに息を吐き、味噌汁の入ったカップから口を離した。


「はぁ……ミーナさんが言ったとおり、どれも本当に美味しいです。このしじみの味噌汁、たくさん食べるおにぎりをすごく食べやすくしてくれますね」


……あれ? 二日酔いのために用意したはずだったんだけど……まあ、気に入ってもらえたならよしとしよう。


「おにぎり……ごはん自体、食べるのはこれがはじめてなんですが」


オリバーさんが、少し照れくさそうに笑った。


「最初はあまり味がしないかと思ったのですが……噛めば噛むほど甘みが出て、とても美味しいです」


少し言葉を探してから、彼は言った。


「しじみの味噌汁や卵焼きを食べると、またおにぎりが食べたくなる。でも、おにぎりだけ食べても、中に入っている具材とよく合ってます」


そう言ってぱくりと、おにぎりをひと口食べた。

ゆっくりとその味を噛み締め、飲み込むとまた口を開いた。


「……これは、魚ですか? マヨネーズともよく合ってますが」


「ああ、ツナマヨですね」


「ツナマヨっ! すっごく美味しかった! マイカはこれが一番好き!」


マイカちゃんが身を乗り出すように言って、にこにこ笑う。


(そういえばマイカちゃん、はじめてマヨネーズを食べた時、すごく気に入ってたんだっけ)


そんなことを思い出して、私は思わずくすっと笑った。


オリバーさんは、マイカちゃんの言葉に「ほう」と感心したように目を細め、うんうんと頷いた。


「さっき食べたときは、“梅干し”というものが入っていました。最初はあまりの酸っぱさに驚きましたが……」


そう言いながら、彼は手を軽く胸に当てる。


「でも、あの刺激がクセになりますね。食べ終わっても、口の中に余韻が残っていて……なにより、“ごはん”ととても合っています」


「梅干しは好き嫌い分かれるけど、ハマる人にはすごく美味しいわよね。ちなみに梅干しも卵焼きみたいに、とにかくすっぱい系と、はちみつなんかに漬けた甘い系があるのよ」


そう教えると、【料理人】たちを中心に「へぇ~」と関心の声が上がった。



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