184.ポーション職人、その価値に震える
その後、改めてミランダさんから言い渡された。
今後の兵団へのポーション提供についてである。
私が作成した上級ポーションはもちろん、中級や下級のポーションまでもが☆5ばかりなのは問題だということだった。
そこで、私が作ったポーションはすべてミランダさん──正確にはフェラール商会が回収し、代わりに通常の☆2や☆3のポーションと交換して兵団に渡すことになった。
思わず口をついて出てしまった。
「ここで作ったのに、わざわざウィルソールに運んで交換するなんて、大変ですね」
するとミランダさんに、ジロリと睨まれた。
「……あなた、まだ分かってないのね!?」
そう言いながら、さっきまで使っていたペンで私の腕をぐりぐりと突いてきた。
い、痛い! 本気で刺してるわけじゃないですよね!?
涙目になってミランダさんを見ると、彼女は大きくため息をついた。
「ポーションの品質だけど、☆3を100%とするなら、☆2は80%、☆1は30%の回復量なのよ」
うん、それは【解析】で確認して知っていた。
だからこそ、☆2は「効果が落ちている」と思い込み、失敗作だと判断してしまったのだ。
……ミランダさんには言えないけど。
「☆4なら120%、☆5なら150%の回復力があるのよ!」
「えっ!?」
☆3の5割増し!? 言われて初めて気づいた。
そういえば、☆4や☆5のポーションも【解析】したことはあるけれど、効果の表示は“よく効く”“すごくよく効く”だけで、具体的な数値は出ていなかった……。
「☆3の上級ポーションなら、瀕死の重傷を癒やすことはできるわ。でも、それで完全に治せるとは限らない。
でも☆5なら、切断された腕だって再生できるのよ」
「えっ! じゃあ……っ!」
真っ先に思い浮かんだのは、ロベールさんの姿だった。
☆5の上級ポーションで切断された腕が治るなら、脚だって……! そう希望を抱いたが、ミランダさんにそのことを話すと、彼女の表情が曇った。
「──残念だけど、その人の脚は治せないわ。
☆5の上級ポーションは、たしかに切断や大火傷といった重傷にも効果がある。
でもそれは、あくまで“その怪我に対してのみ”なのよ」
ミランダさんの説明によれば、怪我をした直後であれば、☆5のポーションで治療できた。
しかし、ロベールさんの怪我はすでに2年前のもので、今では傷そのものは癒えてしまっている。
この状態では、たとえ☆5でも効果は及ばないという。
さらに言えば、たとえ怪我をした直後でも、ポーションが治せるのは“傷”だけ。
切断された手足が残っていれば繋げることはできるが、もし魔獣に食べられるなどして完全に失われてしまっていれば、☆5でもどうにもならないそうだ。
傷を瞬時に癒せるだけでも、十分に奇跡的なこと。
だけど、ファンタジーの世界に慣れてしまったせいか、つい万能だと期待してしまっていた。
さすがに、失った手足を生やすところまでは──届かないらしい。
「まあ、それでも……☆5のポーションがこれだけ作れるって、前代未聞なのよ。あなたの作るポーションの価値、分かってる?」
ミランダさんが、少しだけ目を細めた。
怒っているわけではない。けれど、その声には明らかな圧がある。
「もう兵団に渡した分はもうしょうがないけど、本来なら、王都にだって出回らないレベルの代物よ。あなた自身の身を守るためにも、安易にばらまかないこと。分かった?」
「……はい。すみません」
うつむきながら答えると、ミランダさんはようやく満足したようにうなずいた。
「よろしい。じゃあ、さっそく最初の出荷は来週。交換用の☆2、☆3のポーションはローランドとギルベルトに用意させてるわ」
まるで何事もなかったように仕事モードへ戻るミランダさん。
その切り替えの早さに、私は少しだけ笑ってしまった。
「あ、ちゃんと差額分は払うからね?」
「え、別に……はい、分かりました」
別に差額分なんて要らないです。と言おうと思ったが、ミランダさんがペンを片手に睨んできたので、言葉を飲み込んだ。
ミランダさんはペンを置くと、呆れたように口を開く。
「下級、中級ポーションでさえ、通常の☆2の価格に対して、☆4なら1.5倍。☆5なら2倍の価値があるのよ。それでも2倍程度の価格で済んでるのは、その上に中級、上級ポーションがあるからよ」
な、なんですと!?
効果が1.5倍なんだから、価格も1.5倍なのかな? と思っていたがそうではないらしい。
そして、そうなると上級は……うん、嫌な予感しかしない。
ミランダはじとりと私を見据え、続けた。
「そして、最高ランクである上級ポーションの☆5ともなれば、その価値は安くて3倍。……5倍、いえ10倍でも買う、って言う者もいると思うわ」
──じ、10倍!? もともと100万の10倍ってことは1000万の価値があるってこと?
そしてそれを、この前10本渡したってことは……。
今まで、見たこともない桁の話になってきて、震えそうになった。