181.責任と、ゆで卵?
ミランダさんの微笑みを見て、胸がじんわりと温かくなった。
でも同時に、ほんの少しだけ怖くもあった。
自分でもよく分からないまま、そんなすごいことを──やってしまっていたなんて。
「え、えっと……」
何か言おうとしたけど、言葉が見つからない。
そんな私を、ミランダさんは優しい目で見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「……あなたの作ったポーションで、誰かの命が救われるかもしれない。
でも逆に、品質を知らずに使われて、混乱を招く可能性だってあるのよ」
私は息をのんだ。
当たり前にできるものだと思っていた、品質☆5。
それが、そんな重みを持っていたなんて──想像もしていなかった。
「でもね」
と、ミランダさんは続ける。
「怖がる必要はないわ。あなたには、見守ってくれる人がいる。そして、あなた自身も学ぼうとしている。
だからこそ、私は教えるし、支えるつもりよ」
その言葉は、胸の奥深くまで染み込んできた。
兵団のために──という大義名分はあったけれど、今まではただ楽しくて、面白くてやっていた【錬金術】。
でもこれからは、ちゃんと責任を持って向き合わなきゃいけないんだ。
私はしっかりとうなずいた。
「……はい。ちゃんと学びます。だから、これからも教えてください」
ミランダさんは満足そうにうなずき、穏やかな笑みを浮かべてくれた。
その笑顔を見た瞬間、ふと──リズの言葉が頭に浮かんだ。
──「ご安心を。ミランダ様なら、きっとあなたの能力を正しく評価し、アドバイスをくださいます。
ただ……少し、騒がしくなるかもしれませんけどね?」
……ほんと、その通りだった。
私は、恵まれている。
異世界に突然転生して、最初は戸惑いしかなかったけど──
リズがいる。エレーネさんがいる。
レーヴェにステラ。人ではないけど、オブシディアンとネージュも。
クリスディアに来るまでに、助けてくれたルセルの町やウィルソールの人たち、クリスディアで出会った人たち、今日来てくれたオリバーさん一家。
そして今ここにいる、ミランダさんにアイリスさん。
思い返せば、この世界で出会ったたくさんの人たちが、私を支えてくれた。
だから私も──自分にできることを精一杯やって、このクリスディアの街と、大切な人たちを幸せにしたい。
そう強く決意し、ミランダさんをまっすぐ見つめた。
そのあと、私はミランダさんから、あらためて教えてもらった。
普通の【錬金術】での、下級ポーションの作り方。
①鍋にたっぷりの井戸水を入れ、沸騰させる。
②セージとアルカ草を入れ、煮込む。
③ゆっくり魔力を込める。
④井戸水が水色に変化したタイミングで魔力を止めれば完成。
先ほど私が感じた通り、品質を左右するのは素材の良さだけじゃない。
水の温度、素材を入れたあとの火力、魔力の注ぎ方、鍋のかき混ぜ方、魔力と火を止めるタイミング──
細かい調整のすべてが、品質に影響を与える。
一方で、私のやり方は……
レシピを選んで、「つくる」ボタンを長押しし、タイミングよく指を離すだけ。
私が気をつけるのは、素材の品質と、ボタンを離すタイミング──たったそれだけ。
比べてみると、ミランダさんのやり方も“ゆで卵”のレシピみたいに感じるくらいには簡単そうだと思ってたけど、
私の方法はさらに単純化された、ちょっとズルいようなやり方だ。
そんなふうに思ったことをそのまま口にした。
「……なんか、ゆで卵みたいですよね」
ミランダさんが、きょとんと目を瞬かせる。
「……ゆで卵?」
あ、そっか。この世界の人たちって、基本的に【料理人】じゃないと料理できないんだっけ。
しかもミランダさんは貴族だし、ゆで卵の作り方なんて……知らないよね。
私が慌てて補足しようとしたそのとき、下を向いて考え込んでいたミランダさんが顔を上げた。
「ティアナは【調理】もできるのよね?
その“ゆで卵”の作り方──見せてくれない?」
まさかの提案に、私の口がポカンと開く。
こうして私は、ミランダさんにゆで卵の作り方を教えることになった。
……【錬金術】の話、どこいった?