179.上級ポーションの作成
「ステータスオープン!」
いつも通り、レシピ選択画面を開き、『錬金術のレシピ(上級)』を選択。その中から『上級ポーション』を見つけて、タップする。
──よし。
いつも通り、落ち着いて。
『つくる』ボタンを押した。
──チャッチャチャッチャ~♪
私の緊張をよそに、『錬金術師になろう』ののんきなBGMが、どこからともなく流れ始める。
ドキドキしながら、鍋の中でお湯が煮え立つアニメーションを見守る。
──チャチャンっ! チャララランっ♪
音楽が終わったと同時に、鍋の中身が変化!
「あっ!」
(やばっ! みんなに見られて緊張したせいで、ちょっとタイミングずれたかも……っ)
そう思った瞬間、
『し、失敗だぁ~。煮込みすぎだよぉ』
どこからともなく高音ボイスが響き、ポンッ! と小さな爆発音とともに、小瓶が目の前に現れる。
ポップアップが表示される。
『上級ポーションを作成しました。──失敗』
私は小瓶を手に取り、ぽつりと呟いた。
「……すみません、失敗しちゃいました」
くやしいーー! タイミングを外すなんて、ほとんどないのに!
よりによって、人に見られてる時に……っ!
いや、見られてたからこそ、失敗したんだけどさぁ。
モヤモヤしていると、ミランダさんがぽつりと呟いた。
「失敗しちゃったって……できてるじゃない」
「……へ?」
意味がわからず、間抜けな声が出る。
ミランダさんは私の手から“上級ポーション(失敗)”を取り上げ、じっと見つめた。
「……アイリス、鑑定を」
「はい。──【鑑定】」
アイリスさんの目が少し光る。
「……品質☆1。ですが、確かに上級ポーションです」
沈黙。
一拍おいて、ミランダさんが吹き出した。
「ほら。品質は☆1だけど、ちゃんと上級ポーションになってるじゃない!」
「やめてください! 普通の失敗ならまだしも、タイミングミスなんて、恥ずかしすぎます……っ」
私はアイリスさんの手から上級ポーションを回収し、しゃがみ込んだ。
そんな私の背中に、ミランダさんの声が飛ぶ。
「……はぁ? 品質が悪くても、ゴミになってないなら成功でしょ?」
「……え?」
なんか、ちょっと引っかかるけど──このままじゃ終われない。
私はすくっと立ち上がり、もう一度ステータス画面を開いて、再び上級ポーションの作成を始めた。
落ち着け、落ち着け。今度こそ、タイミングは──絶対に逃さない!
チャチャチャチャチャンっ! チャララランっ♪
音楽が終わり、アニメーションの鍋の中身が変化!
同時に、指を離す
すると──
『上手にできましたー♪』
今度こそ、求めていた高音ボイスが響いた。
私は小さくガッツポーズを決める。
「できた……!」
ポーションの液体は、ほんのりと輝き、美しく光っていた。
ミランダさんがすぐにそれを手に取り、じっと見つめる。
「アイリス、鑑定を」
「は、はいっ! ──【鑑定】」
アイリスさんの目が光り、次の瞬間、驚愕の表情に染まった。
「……☆5品質の……上級ポーションです。完全な成功です」
再び沈黙。
ミランダさんは無言でアイリスさんの手からポーションを取り、顔の上に掲げてその輝きを確かめる。
「本物の……☆5品質の上級ポーションを、この目で見られるなんて……っ!」
そして、楽しげで、それでいて真剣な眼差しで私を見る。
「あなた……本当にすごいわね……っ!」
私の手をがしっと両手で掴み、そう言ったかと思うと、ハッと何かに気づいたような顔になる。
「上級ポーション……っ! “ほとんど☆5”って言ってたわよね!? 今まで作ったやつ、どうしたの!?」
私もその言葉でハッとする。
「あ、すみません。私、☆1は失敗だと思ってて……実は3~4割くらいは☆1だっんで、“ほとんどが☆5”っていうのは間違いです」
「……え」
再び沈黙。
ミランダさんは私の手を掴んだまま、ふぅーっと長く息を吐いて言った。
「そのへんのこと……詳しく! 説明してちょうだいっ」
“詳しく”が強調されていた。
私は言われたとおり、ちゃんと説明する。
上級ポーションを作ると、大体6~7割が私にとっての成功──つまり☆5になること。
まずこの時点で、「50%の成功率って言ってたじゃないの!?」と、ミランダさんとリズから一斉にツッコミが入る。
なので、改めて説明した。
“成功率”と言ったのはもともとの基本値のことで、そこに熟練度や、ボタンを離すタイミングなどの要素が加わって、確率が上がること。
私の体感では6~7割が☆5、残り3割が☆1。ごくたまに☆2~4になることを伝えた。
そこまで話し終えて顔を上げると──
項垂れた3人が、そこにいた。
「ちょっと、まだ説明の途中ですよ?」