17.本当の原因
私には、ジルティアーナの記憶があるから、2人の後悔を否定したかった。
でも私が否定した所で私は⋯⋯本物のジルティアーナではないのだ。私が何か言ったところで余計に傷つけてしまうだけかもしれない──。
そう思うと何も言えなくなってしまった。
『──転生者、ジルティアーナの最後の時を思い浮かべ、我に額に触れてみてくれないか?』
「⋯⋯え?」
『我が、ジルティアーナが死んだ時の事を視れば──何か解るかもしれん』
触ると思い浮かべた事が解るの!? と驚きつつ、ジルティアーナが死んだ時の事をみて何になるの?
とも思ったが、視せる事で少しでも私が力になれる事があれば──と願い、瞳をとじる聖獣様の額に手を当てた。
『──やはり、な』
閉じていた黒曜石のような黒みがかかった深緑の瞳を開き、聖獣様が呟く。
「何か、解ったんですか?」
『ジルティアーナが死んだのは、シャーロットのせいだ。自死したのは、エリザベスとミランダのせいではないし、ジルティアーナの心が弱かった訳でもない。シャーロットの【魅了】のスキルのせいだな』
「【魅了】!?
皆がメロメロになる様に引き付けたり、惑わせたり⋯⋯ってやつですか?」
RPGとかで状態異常に【魅了】って有ったな。
確か⋯⋯そのゲームでは【魅了】にかかるとハートマークが浮かんで、操作不能で勝手に味方を攻撃するようになったりするんだよね? と思い、そのイメージで良いのか聞いてみた。
『メロ⋯⋯? メロメロの意味がよく解らんが、おそらく大体そんなところだ。【魅了】を使われると、基本はその人物に好意を持つようになり、その者の事を無条件に信じてしまったりする。マナの加護が多ければあまり影響を受けないんだがな。
シャーロットが【魅了】のスキルを持っていたからこそ、『ジルティアーナに嫌がらせをされている』という虚偽の証言を周りの者達は簡単に信じてしまったのだろう』
と、聖獣様と話したところで、ミランダさんに「聖獣様が、何か仰っているの?」と聞かれた。
いけない、いけない。
聖獣様の言葉は他の人には解らなかったんだ。と、聖獣様との話を皆に伝えた。
エリザベスさんは「そんな⋯⋯っ」と悔しそうにし、それをエレーネさんが心配そうにしている。
私は──⋯⋯エリザベスさんに転生者である事を告白した時、ジルティアーナが死んだ事に、こうして悲しむエリザベスさんを見て、ジルティアーナの事を許せないと思った。
なんで? なんで、こんなに愛してくれる人が貴女には居るのに死んだの!? よりによって自分で死ぬなんてッ!!
そうやって彼女の事を、心の中で責めた。
だけど⋯⋯ジルティアーナのせいではなかったんだ。
ミランダ様は話の内容に眉をひそめたが、少し考え顔をあげ聖獣様に言う。
「でも⋯⋯その、『嫌がらせをされてる 』って話がされたのは成人前⋯⋯まだ【魅了】を授かる前のことです。シャーロットのスキルはまだ無かったはずですが⋯⋯」
その言葉を受け、聖獣様は呆れた様に首を振った。
『そもそも、その考え方が間違っているのだ。
スキルは成人の儀で授かる訳ではない。産まれ持っていたり、努力の過程で入手するものだ。
元より持っていた物を、成人の儀で天職を獲る事により初めて自分の才能を認識しているだけだ』
私はそのまま、聖獣様の言葉を通訳した。
皆、今までの常識を覆すような内容に絶句といった様子だ。
『タイミングが、悪過ぎたな』と、聖獣様が下を向く。
「⋯⋯? 何が、ですか?」
『悪影響を及ぼすスキルなら、我がクリスティーナに頼まれ用意した【聖霊の卵】で防げたはずだ』
「え!? 【聖霊の卵】って、元々は聖獣様のモノだったんですか?──あ。もしかして⋯⋯成人の儀の後に、イザベルに【聖霊の卵】を取られたから⋯⋯?」
『その通りだ。普段なら悪意ある魔法などは【聖霊の卵】が防ぐし、仮にそれが無くとも、ジルティアーナは元から人間にしては、魔力が多い。
それだけ魔法やマナに対する抵抗力も高い為、通常ならばシャーロットの【魅了】にかかる事は無かっただろう。
だがジルティアーナは、あの時──【ロストスキル】だった事に絶望し、心が弱っていた。さらには、大切にしていたクリスティーナの形見を奪われた。⋯⋯心が弱っている時には、魔術への抵抗力が低くなる。そんな時に目の前で【魅了】を使われたのだ。
その為に──『死になさい 』と言われ、言われるままの行動をとってしまったんだろう』
そうだったんだ⋯⋯。だから、ジルティアーナは──。
『先程、記憶が経験値となる事は教えただろう?
自分のスキルを知らずにいるのと、自分のスキルを意識して使うのでは、効力が全く違う。
成人の儀を行う前までは、シャーロットも無意識にしか使っていなかったのだろうが、あの時は、ジルティアーナにはしっかり意識して【魅了】をかけたのだろう。
──むしろ、あの状況下で最後に己のした事を後悔した事の方が驚きだ』
私がここまでの話をまた三人に伝えると、エリザベスさんは耐えきれなくなったようで嗚咽を漏らした。
ミランダ様とエレーネさんが、エリザベスさんを慰める中⋯⋯おそらく、と前置きをして聖獣様が私にしか聴こえない声で言った。
『【魅了】のスキルは後天的より、産まれ持ったもの⋯⋯先天的に授かる事の多い希少スキルだ。そして、【魅了】は其れを持つ術者の周りの者が受けるはずだった好意を、自分に向ける効力もある。
──幼い時から、無意識だったかもしれないがシャーロットが周りの人間に【魅了】をかけていた為に、ジルティアーナに向けられるはずだった愛情や好意をシャーロットに奪われていた可能性が高い』
⋯⋯⋯⋯は?
⋯⋯なによ、それ。
私が自分がジルティアーナになってしまって、ジルティアーナの記憶をみて、ジルティアーナに抱いた第一印象。
(随分、自己評価が低い子だな)
たぶん本来の──日本で生きた私はミランダ様に考え方が似てる。ミランダ様が先程言っていた言葉⋯⋯
『正直言って私、ジルティアーナが好きじゃなかったわ』
──うん、私も同感。
『いつもオドオドしてイザベルやシャーロットに良いようにされる始末。見ててイライラしたわ』
──私もイラついた。
自分の短所ばかり気にして、自分の長所を見つけたり、短所を改善しようともしない。そんなんだから⋯⋯
馬鹿にされても、しょうがなかったんじゃない?
心のどこかで、私はそう思っていたんだ──。
元日本人のジルティアーナは、最後の時に本来のジルティアーナが死ぬ事を後悔してた事を思い出した時に、多少は見直したものの、嫌ってました。
性格的に合わない。というよりはジルティアーナになってしまったせいで、本来は他人には分からない心の内をみてしまい、自己評価が低過ぎるところにドン引きしてました。
ジルティアーナが、そうなってしまったやむを得ない状況を知り、自分が冷たく思ってた事にたいして今度はショックを受けました。
次回、新しい家族。
死んだジルティアーナの過去を思い返します。
ちょっと、暗いかも・・・