178.非常識な錬金、再び
『錬金術師になろう』システム──私がやっていたゲームでは、アイテム作成の成功は、錬金術師レベルによる成功率に、熟練度による補正がかかって、ほぼ決まる。
ちなみに、今の私の下級ポーションの成功率は100%、中級で98%だ。
「ほぼ」と言ったのは、中級の場合でいう残りの2%に入るかどうかは、多少の運と操作──『つくる』ボタンを離すタイミングで決まるからだ。
成功率が80%以上なら、多少タイミングがずれても作成は成功する。
30%以下だと、その判定はかなりシビアで、少しでもずれると失敗する。
そして、そのボタンを離すタイミングが大きく影響するのが、品質。
成功率が低いほど、色が変わった“その瞬間”に指を離さなければならない。
……でも、そこは『錬金術師になろう』をやり込んだ私。
その操作には慣れていたし、ずれたことなんてほとんどなかった。
そんなわけで、私が作るポーションは、私の熟練されたボタン操作のおかげで☆5、最高品質になったんだろう。
──と、私はその考えをリズに説明した。
リズは頭痛でもあるかのように目を閉じ、こめかみを押さえながら口を開く。
「相変わらず、その『げーむ』というものはよく分かりませんが……また非常識なことが起きた、というのは分かりました」
……非常識とは失礼だな。
リズは顔を上げると、続ける。
「すべて、ミランダ様に報告し、相談しましょう」
「えぇぇ……!?」
だって非常識なことなんでしょ?
報告しちゃって大丈夫? 大ごとになりそうなんですけど……!?
と思っていると、リズにじろりと見られた。
「ミランダ様がいらっしゃる時でよかったかもしれません。
ちゃんと確認したわけではありませんが、おそらくミランダ様は……【錬金術師】です」
「ええっ!?」
まさかの話に驚愕する。でも、それって……なおさらダメなのでは!?
【錬金術師】に、私のひじょ……いや、不本意ながら“非常識”なやり方の【錬金術】を披露しちゃったら怒られない?
……って、もう披露してたんだった。
だから、あんなに驚いてたのか?
リズは、そんな私の内心を見透かしたように微笑みながら言った。
「ご安心を。ミランダ様なら、きっとあなたの能力を正しく評価し、アドバイスをくださいます。
ただ……少し、騒がしくなるかもしれませんけどね?」
(うわああ、リズの“少し”って、絶対“少し”じゃないやつだ……!)
心の中で頭を抱える私の隣で、リズはすでに部屋の扉に手をかけていた。
「それでは、戻りましょう」
私はうなだれながら、静かに頷いた。
*
部屋に戻ると、ミランダさんとアイリスさんが、こちらをじっと見ていた。
その視線に、私はまた少し身を縮めてしまう。
リズはそんな私をかばうように前に立ち、静かに言った。
「ミランダ様。ティアナさんのポーションについて、重大な事実が判明しました」
「……ふうん。で、何?」
ミランダさんは腕を組みながら、少し興味深そうな目を向けてくる。
リズはうなずき、ゆっくりと口を開いた。
「ティアナさんが作成したポーションの大半が、☆5品質であることが分かりました。
下級、中級、そして上級でさえも、成功すればほとんどが☆5とのことです」
「…………え?」
今度はアイリスさんまで声を上げた。
さっきのミランダさんと同じように、絶句した顔だ。
「それ、本当なの?」
「……はい」
私は小さくうなずいた。
「成功率はまだ完璧じゃないけど、できたものは、ほとんど……」
ミランダさんは私をしばらく無言で見つめていたが、やがて、深く息を吐いた。
「……なるほどね。
普通ならありえないし、信じられないけど」
ミランダさんはそう言いながら、ゆっくりと私の目の前まで歩いてくる。
そのまま、まるで品定めするように私の目をのぞき込んだ。
「そもそも、“異世界から転生してきました”って話の方が、よっぽど信じられないわよね。
それに比べたら、品質なんて……些細なことに思えてきたわ」
「あはははー……」
何て返せばいいか分からなくて、とりあえず笑ってごまかす私。……ごまかせてるかは知らんけど。
けれどミランダさんは、ふっと小さく笑った。
「いいわ。ここまで来たら、いっそ堂々と見せてもらいましょう。今、ここで、実際にポーションを作ってもらえる?」
「えっ、またですか?」
「次は、できれば上級で」
「じょ、上級ぅ……!」
急にそんな高度な注文!? と思ったけど、リズがすかさず私の肩を軽く叩いた。
「大丈夫です、ティアナさん。いつも通りにやれば、きっと上手くいきます」
「う、うん……」
私は深呼吸をして、そっと呟いた。
「ステータスオープン!」




