16.それぞれの後悔
「ミランダ様! いつから、いらっしゃったのですか!?」
「エリザベスが『 聖獣様の言葉が解るのですか!? 』って言ったあたりからかしら?
【ロストスキル】のステータスってはじめて見たけど⋯⋯不思議なものね。こんな不思議な文字が読めるなんて驚いたわ」
驚きの声をあげるエリザベスさん。それに対し、口だけで別に驚いてなさそうなミランダさんが、ニッコリと笑い答える。
⋯⋯ほぼ、最初っからじゃないですか!!
「で、どういう事なのかしら? ここには、面白い事がいっぱい書いてあるみたいだけど?」
と、更に笑顔で迫って来た。
ううう、どうすればいいのだろう⋯⋯。と困っているとエリザベスさんが真剣な顔で私をみてきた。
「⋯⋯ジルティアーナ様。ミランダ様に貴女の事をお話しましょう。ミランダ様ならきっと力になって下さいます」
『ミランダはクリスティーナの弟子だった者だろう? 他のヴィリスアーズ家の者のような嫌な感じはしない。ついでにそこにいるエレーネも大丈夫だ』
「そうなんですか? ⋯⋯わかりました」
私は、エリザベスさんと聖獣様の言葉を受けミランダさんとエレーネさんに話した。
私は異世界からの【転生者】らしい事、私が授かった【ロストスキル】の事。
そして、本当のジルティアーナがどうなったかを──。
◆
「ジルティアーナ様が⋯⋯本当は亡くなった⋯⋯?
それに⋯⋯奥様はともかく、シャーロット様がそんな酷いことをするなんて⋯⋯信じられません」
エレーネさんがあまりの話に青ざめて言った。
あまりシャーロットと関わりの無かったエレーネさんでも、この様子。
──シャーロットの異父姉妹であるミランダさんは尚のことだろうな⋯⋯。
ミランダさんは、ジルティアーナとは血の繋がりもないし、ジルティアーナが苦手だったように、ミランダさんとジルティアーナでは性格的に合わなそうだ。
親しげにシャーロットがミランダさんに話しかけていた記憶が甦る。
ただでさえ、突拍子も無いこの話をミランダさんが信じてくれるのだろうか?
不安になりながらミランダさんをみると意外な返事が返ってきた。
「私は、信じるわよ。
さっきジルティアーナに──⋯⋯貴女に会った時から違和感があったの。むしろ中身が変わった。と言われて納得したわ。
それにシャーロットの事も。シャーロットはいつも笑顔だけど⋯⋯目の奥は笑ってなかったもの。──ジルティアーナがヴィリスアーズ家の跡取りから降ろされたのは、【ロストスキル】のせいだけじゃないですしね」
皆の視線がミランダさんに集中した。そのまま言葉を続けられた。
「今のヴィリスアーズ家にエリザベス以外、ジルティアーナの味方はいないでしょ? それにアカデミーでも殆ど友達が居なかったって聞いてるわ。それ、イザベルよりもシャーロットの影響が大きいと思うわよ」
疑問を口にしたのはエリザベスさんだった。
「どういう⋯⋯ことですか?」
「社交界では、こう言われてるわ。
『何故、ヴィリスアーズ家の次期当主はシャーロット様ではないのか。容姿も頭脳もシャーロット様の方が優れているのに、ヴィリスアーズ家の血がジルティアーナ様にしか流れていない事が悔やまれる』って」
「そういう事を、言われてる事は⋯⋯存じてます」
エリザベスさんが悔しそうに、眉間に皺を寄せながら言う。「じゃあ、これは知ってる?」と、ミランダさんが目を細め言った。
「『性格だって、ジルティアーナ様は最悪だ。ジルティアーナ様はシャーロット様に嫉妬の為か、嫌がらせをしているらしい。
血筋の事で貶されるのはもちろんの事。大切な宝飾品を捨てられたり、階段から突き落とされた事もあるらしい 』と」
「なんですか⋯⋯それ。姫様がそんな事をするはずがありません!」
「私も⋯⋯ジルティアーナの記憶にも、そんな嫌がらせをしていた記憶はありません。ジルティアーナは、あの成人の儀の⋯⋯後の事があるまで、シャーロットの事を優しい妹だと信じてました。シャーロットの事を信じ、ジルティアーナにとって大切な妹だったからこそ、あんな事を言われ⋯⋯それこそ死にたい程ショックを受けたんです」
ジルティアーナの最後の事を思い出し気分が悪くなる。以前同じように、相変わらずジルティアーナの記憶を自分の事のようには思えなかったが、ジルティアーナに対する家族とは到底思えない、両親とシャーロットの態度。何よりダイレクトに伝わったジルティアーナの絶望を思い出してしまった。
ミランダさんが大きく溜息を吐き言う。
「正直言って私、ジルティアーナが好きじゃなかったわ。クリスティーナ様の唯一の孫娘にして、由緒あるヴィリスアーズ家の次期当主。血筋故か魔力量も多い。私やシャーロット、イザベルはもちろんの事、本来は婿でしかないローガン様よりも偉い立場なのよ?
なのに、いつもオドオドしてイザベルやシャーロットに良いようにされる始末。見ててイライラしたわ」
でも⋯⋯。と、そっと私の手を握りしめ言う。
「こんな事になるなんて⋯⋯。
私はクリスティーナ様に『いつか、ジルティアーナが本当に困った時には助けてあげて』と頼まれていたのに⋯⋯。私は家族からの嫌がらせくらい自分でどうにかするだろう。とお母様やシャーロットがしてた事を報告されても放置していた。
──私も、同罪だわ」
「違います! 私こそずっとお側に居て、クリスティーナ様に姫様を託されたのに⋯⋯っ! 姫様をお護りする事が⋯⋯できませんでした。
私が──、ちゃんと【ロストスキル】の事をお話していればこんな事にはならなかったかもしれないのに⋯⋯っ!」
エリザベスさんが瞳に涙を浮かべながらミランダさんの言葉を否定し、以前私に言った後悔をまた口にする。
────違う。
ジルティアーナの記憶がある私には、そう断言できる。だってジルティアーナは最後の時、エリザベスさんに感謝してた。
ミランダさんの事だって、厳しいミランダさんの事は苦手⋯⋯ではあったけど。
義母とは違い、ちゃんと必要な事を教えてくれていると理解し、ミランダさんを恨む様な事は決してなかった。
次回、本当の原因。
ジルティアーナが単純に心が弱くて、ああなってしまった訳ではない事が分かります。
続き今日更新できるかな?(未定)