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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
海の街、クリスディア

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144.詰所での話し合い


「僕もダンやロベールと同じくらいの歳なんだけど……そうは見えないかな?」


「えっ! はい、ごめんなさいっ。正直……50歳前後かと……!」



その場の空気が、一瞬凍りついた。



「……っ!」


反射的に答えたエレーネさんに、クラース団長は目を見開き、ショックの色を隠しきれない。

ダンさんは遠慮なく腹を抱えて爆笑し、ロベールさんは「……50歳って……っ!」と呟きながら、肩を震わせて笑いを堪えている。


「……最近、年齢を伝えると驚かれることが多いなぁ、とは思ってたけど。

そんなに老けて見られてたのかぁ……」


クラース団長は肩を落とし、しょんぼりと呟いた。


「い、いえっ! その……落ち着いていて、貫禄があるというか、風格が……!」


慌ててフォローしようとするエレーネさんだったが、それがフォローになっているかどうかは怪しい。

私はこっそりリズに耳打ちする。


「……フォローが逆に傷を深めてない?」


「ええ……おそらく」


リズもこっそり苦笑いしながら頷いた。


「うう……今日から髭、剃ろうかな……」


クラース団長はどこか遠い目をしながら、顎に手をやって呟いた。


なんだかんだで和やかな雰囲気になり、緊張もすっかりほぐれた。




しばらくダンさんの笑いが続いたあと、私たちは、クラース団長に誘われ、町の門に併設されている兵士の詰所にお邪魔した。

入口などには見張りの兵士がいた。その中の何人かは彼ら──クラース団長とダンさん、ロベールさんの3人を見ると嬉しそうに話しかけてきた。


「ダンさんに……ロベール副隊長!? お久しぶりです!」

「ロベール副隊長! お元気でしたか?」

「おいっ! 馬鹿……っ」


兵士たちの視線がロベールさんの右脚に注がれたのが分かった。

そこには中身がなく、だらんと垂れ下がった、膝下辺りで結ばれたズボン。

そんな視線に気付きつつ、ロベールさんは明るい声で言った。


「久しぶりだな! 元気にしてるよ。……でも、“副隊長”って呼ぶのはやめてくれ。もうその役職じゃないからな」


それを聞いた兵士たちは、嬉しさと寂しさの入り混じった複雑な表情を浮かべた。

その中の一人が、ためらいがちに「はい……ロベールさん」と答えた。


まだ話したそうではあったがダンさんが「このあと予定があって時間があまり無いんだ」と伝えそのまま、クラース団長に奥の部屋へと案内された。


「この後、スラム街に行く予定があると聞いてます。なので手短に」


そう言って、私たちが席に着くのを確認すると姿勢を正し、深々と頭をさげた。

それに驚き、顔を上げさせようと思ったが、それを遮るようにクラース団長が言った。


「まずは──ロベールたち家族を救って下さりありがとうございました」


その言葉にロベールさんが息を飲んだのが分かった。

そんなロベールさんを見て、クラース団長は続けた。


「私は、この兵団の団長なのに……何も……いや、何もしなかったわけじゃない。

脚を失ったロベールに対して、私は……

ゴルベーザ様の命令に従い、ロベールから兵士の職さえも奪ってしまいました」


「それは……っ」


ロベールさんが何かを言おうしたが、クラース団長の言葉は止まらなかった。


「ロベールは兵士たちの為に動き、結果脚を失いました。私は団長として、町の人たちはもちろん兵士たちを守る義務があります。それなのに──直属の部下であるロベールさえ守れませんでした」


顔を上げたクラース団長の琥珀色の目が、ネロくんとルトくんをまっすぐ捉えた。

彼らの前に歩み寄り口を開く。


「ロベールが奥さんを亡くし、幼い君たちを一人で支えていたことを……僕は知っていたのに……!」


ずっと穏やかだったクラース団長の言葉が少し乱れた。間を置き、2人の前にその大きな身体を縮め、顔を見ながら絞り出すように続けられた。


「ごめんな。君たちに辛い思いをさせたのは……君たちがスラム街に行ったのは──僕のせいだ」


──それはまるで、懺悔のようだった。

この人、クラース団長は……きっと、ずっと悔やんでいたんだ。


部下であるロベールさんに大けがを負わせてしまった事。

ゴルベーザの命令とはいえ、言われるがままにロベールさんをクビにした事。

その事によって、ロベールさん一家がスラム街での生活を余儀なくされた事を。


先ほどまでの門では穏やかだった空気が一変した。

重い空気の中、口を開いたのは意外にもネロくんだった。


「──ちがうよ。俺たちがスラム街に行ったのはクラースおじさんのせいじゃない」


その言葉に、クラース団長は顔を上げた。私を含め皆の視線がネロくんに集中する中、ネロが言った。


「俺は知ってたよ。おじさんが、父ちゃんがどうにか兵士を続けられないか必死に動いてくれたこと。

結果、それは叶わず俺たちはスラムで暮らすことになっちゃったけど……スラムでの生活は大変ではあったけど、でも俺たちは他のスラム街の子たちに比べたら、ずっと楽だったよ」



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