表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
海の街、クリスディア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

144/336

143.新たな出会い


──ルナの姿が森の中に消えてから、もう数日が過ぎた。


それ以来、ステラは毎日のように、あの場所を訪れていた。

手にはルナの好みそうな、小さな果実と柔らかな草の束を携えて。


「……今日も、いないか」


茂みの前に腰を下ろしながら、ステラは小さくため息を漏らした。

あの日、ルナの小さな背中が茂みの奥へと消えていった光景が、今でも瞼に焼きついて離れない。


「でも……どこかで元気にしてるよね。きっと」


そう呟く彼女の声は、無理に笑顔を作ってはいても、どこか心細げだった。

──ルナが、どこかでこれを見つけて、食べてくれるかもしれない。


そんな願いを込めて、ステラは今日も果実と草をそっと地面に置いた。


私たちは少し離れた場所から、その背中を見守っていた。

並んでいたのは、いつものメンバー。私とリズ、レーヴェにエレーネさん。

誰も声をかけずにいたが、ため息混じりに思いを口にしたのは私だった。


「『きっと、また来てくれるわ』なんて……無責任だったかな、私」


「採取がない日まで、こうして探しに来てますからね。あの子……本当にルナのこと、大切に思ってたんですね」


リズの声も、どこか切なげだった。


すると、エレーネさんがそっと歩み出て、ステラの元へ駆け寄った。

ステラはその気配に気づき、くるりと振り返ると、いつものように笑顔を浮かべた。

けれど、その目には、わずかな寂しさが滲んでいた。


「今日も……会えませんでした」


「そっか。でも……私も、ルナに会いたいな」


エレーネさんのやわらかな言葉に、ステラは少しだけ目を伏せてうなずいた。


──“きっとまた会える”と信じてはいる。

けれど、それが“いつ”になるのかは誰にもわからない。


それでも、ステラは待ち続けていた。


さらりと風が森を通り抜け、木々の葉を優しく揺らしていく。

その音の中、ステラの赤い瞳は静かに、ルナが消えていった茂みの奥をじっと見つめていた。


「……また、会えるよね?」


ぽつりとこぼれたその声は、誰に届くともなく、風に乗って森の奥へと溶けていった。


けれどその瞬間、ふわりと漂った葉の香りに、私はなぜだか、ルナがすぐそばにいるような気がして──ふと空を見上げた。


「──よし」


ステラがふいに立ち上がり、こちらを振り返る。

その顔にはまだ少し寂しさが残っていたけれど、きゅっと結ばれた唇は、いつもの前向きな彼女らしかった。


「私のために森へ寄ってくれて、ありがとうございました。……さあ、行きましょう。スラム街へ」


その言葉に私たちはうなずき、ステラのあとを静かに追った。

彼女の後ろ姿は、どこか儚くも、確かに前を向いていた。





森をあとにして、私たちは町へと戻った。

町の入口──門の前で、目的の人たちを見つけて声をかける。


「おはようございます、ダンさん、ロベールさん! ……あれ?」


ダンさんたちの姿を見つけて名前を呼んだところで、ふと見知らぬ人物の存在に気づき、思わず言葉を止めた。

もしかして、話の邪魔をしてしまったかも。少し気まずさを感じていると──


ロベールさんの隣にいたルトくんが、ぱあっと笑顔になって駆け寄ってきた。


「お姉ちゃん!! おはよう!」


そう言ってルトくんは私の横をすり抜けて……まっすぐエレーネさんのもとへ。

まるで、私の姿なんて目に入っていないかのように。


「おはよう、ルトくん!」


エレーネさんは膝を曲げて、優しく笑いながら彼を迎え入れる。

ルトくんはとびきり嬉しそうに、その胸へと飛び込んだ。


人懐っこい子だけれど、エレーネさんにはとくに懐いている。


……ちょっと寂しい。


「ティアナさん! それに、みんなも。おはよう」


そんな私の気持ちを打ち消すように、ネロくんが元気に挨拶してくれた。


「おはよう、ネロくん」


私も笑顔で返し、それに続いてダンさん、ロベールさんとも挨拶を交わした。


そして──さっきから気になっていた、初めて見る人物に目を向けた。


ダンさんより背が高く、ひょろりとした体格。

白髪混じりの焦げ茶の髪はやや長めで、無精ヒゲに切れ長の目。

革鎧をまとってはいるが、どこか兵士っぽくない雰囲気だ。

年の頃は40代くらいだろうか──ダンさんたちより一回り上に見える。


(この人、門番じゃないよね……?)


そう思っていると、ロベールさんが一歩前に出て、私たちに紹介してくれた。


「皆さん、ご紹介します。

こちらがクリスディアの兵団長、クラース団長です」


「えっ……!?」


思わず声が漏れた。

兵士っぽくないと思っていたのに、まさかの“団長”だなんて──予想外すぎる。


するとダンさんが口を開いた。


「ほら、やっぱりそうだろ? お前は団長に見えないんだよ」

「えー……そうかな? 最近は前と違って、若く見られなくなったのになぁ」

「……クラース、逆に老け込み過ぎだよ。その髭や白髪のせいで30代には見えなくなってるよ」


「ええっ! 30代!?」


今回、声を上げたのは私じゃなくて、エレーネさん。

私はというと……驚きすぎて、逆に声が出なかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ