13.義姉ミランダ
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今日はクリスディア領へ移動する日。
ジルティアーナの記憶によると馬車の乗り心地はあまり良くないようだ。馬車の椅子は硬いし、街の中ならまだマシだが街を一歩出ると道が舗装されていないため、ガタガタ揺れお尻が痛くなった記憶があった。
だからちゃんと寝て、長旅に備えなきゃいけなかったのに───全然、寝れなかった。
エリザベスさんが居なくなると聞いただけで寝れないなんて⋯⋯。
もうすぐ出発の時間だ。先が思いやられるが、彼女と別れる時には笑顔で、ちゃんとお礼を言わねば。
考えていると扉が叩かれた。返事をすると同時に、珍しく慌てた様子のエリザベスさんが入ってきた。
「ジルティアーナ様! 急なことですが⋯⋯」
「失礼するわよ」
エリザベスさんが何かを言おうとしたのを待たず、たった今エリザベスさんが入ってきた扉が再び開き女性が入ってきた。
彼女は──⋯⋯?
と、ジルティアーナの記憶を探ると「ミランダ様!
勝手に入られたら困ります!!」と、エリザベスさんが女性に注意をしたが、それを無視しズカズカと私の前へ寄ってきた。
そうだ。彼女はミランダ・フェラール。ジルティアーナの義理の姉だ。
イザベルがヴィリスアーズ家に嫁いできた時に連れ子として一緒にヴィリスアーズ家に入ったが、一年もしない内に今度は彼女が嫁いでしまった為、あまり一緒に過ごしたことが無い。
義母イザベルに似た切れ長でアメジストの様な紫色の瞳に薄い唇。紺色のような暗い青色の豊かな髪を高く結い上げている。
座っている私を見下し、フッと鼻で笑うと言った。
「ジルティアーナ、貴女【ロストスキル】だったそうね。で?【聖女】になったシャーロットに次期当主の座を奪われ、のこのことクリスディア領へ逃げるらしいわね。クリスティーナ様の唯一の孫娘だというのに⋯⋯情けない事」
おおう、いきなり挨拶もなしに言ってきた。
いつもジルティアーナにきつい口調で、この様な物言いが多かった為に、ジルティアーナはミランダに対して良い印象を持ってなかったようだ。
「エリザベス、貴女も気の毒ね。エルフの血を引き優秀な貴女が、こんな子の子守りをしてるなんて⋯⋯。
よかったら私の元にいらっしゃいな。私の元に居た方が、貴女の能力を生かせるわよ」
ミランダは、ヴィリスアーズ家の遠縁にあたるフェラール家に嫁いだらしい。が、ジルティアーナは苦手なミランダと極力関わらない様にしてたようで、あまり彼女やその嫁ぎ先について情報がなかった。
そんな事を考えているとエリザベスさんが、庇うように私の前に立った。
「有難いお言葉ですが、お断りします。何度お誘い頂いても、ミランダ様の元へは行きません。」
「あら、残念ね」
はっきりと告げるエリザベスさんに、ミランダはさほど残念そうでも無さそうに笑いながら言った。どうやら誘いはしたものの、答えが解りきっていながら声をかけたようだ。
美人で目も切れ長の為、どこか冷たい印象を受けていたが、笑うとその雰囲気が払拭され空気が和らいだ。
そんな事を思いながらミランダを見ていると目があった。
笑顔を消し、軽く溜息を吐くと私に向かって言う。
「目の前でこんな会話をされても黙りなのね⋯⋯。エリザベスが自分の側から居なくなるわけが無いと思ってるの? 貴女、イザベルにクリスティーナ様から頂いた【 聖霊の卵 】をとられたでしょ?
黙っているだけだと、また大事な物を失うわよ。それでもいいなら一生逃げ続ければいいわ」
ジルティアーナはいつもミランダが苦手で会話も最低限。なるべく関わらないようにしていた。オドオドするジルティアーナに対して、ミランダが苦言を言うと、更にジルティアーナは萎縮し何も言えなくなる。
というやり取りを毎度繰り返していたようだ。でも、今の私は違う。
エリザベスが自分の側から居なくなるわけが無い。
⋯⋯なんて思ってるはずがないじゃない!
こっちは既に昨日、フラれてんのよ!?
勢いよく立ち上がるとエリザベスさんの横に立ち、ミランダの目を見て言う。
「エリザベスさ·····がどうするかは私が決める事ではないです。エリザベスの自由です。クリスディアへは逃げる為に行くのではありません。私が私である為に。邪魔されず、自由に生きる為に行くんです!」
あっぶね。危うく癖でさん付けするとこだった。
本当は、「エリザベスはあげません!」と言いたいところだったが、そんな事を言えるわけが無いのが悲しいところだ。
私に言い返されるのは予想外だったようで驚いたような顔をしたあと、目を細め口角をあげた。
「ふーん。【ロストスキル】なんて更に卑屈になるかと思ったら⋯⋯珍しく反論? 自由に生きる為、ね。これからどうするのか見物だわ」
こちらとしても予想外。言い返した事に対し、怒ったり不快そうにするかと思いきや、面白い者を見るような目で見てくる。イザベルに似ているが、義母とは違いミランダから嫌な感じはしない。
コトリ。と小さな音をたて片手に収まる程度の小さな箱を置いた。
「コレ。どうしようかと思ってたけど⋯⋯その言葉に期待して、餞別にあげるわ」
なんだろう? と思っているとその箱をエリザベスさんが受け取り蓋を開けた。
「これは⋯⋯っ!」
エリザベスさんが声を上げる。
そこには、ジルティアーナがイザベルにとられた【 聖霊の卵 】があった。
「ローガンの部屋に行ったら、【聖霊の卵】があったから何があったかは想像出来たわ。
どうせイザベルに、お前には相応しくない。とか言われて無理矢理とられたんでしょ?」
そんなミランダの言葉を聞いていると、そっとエリザベスさんが私に渡してくれた。
虹色に光輝く【 聖霊の卵 】
それを見ていると、私には何も思い入れがないはずなのに、ジルティアーナの最後の時を思い出してしまい自然に口から言葉が零れた。
「ありがとうございます」
「【聖霊の卵】は、クリスティーナ様が貴女の為に遺した物でしょ? 大切にしなさい。今度手放したら知りませんからね」
ミランダも【聖霊の卵】を見つめ微笑んでいるが、何故か泣きそうに見えた。そんなミランダにエリザベスさんが言う。
「本当にありがとうございます、ミランダ様。よく⋯⋯取り戻せましたね」
「【聖霊の卵】を、ジルティアーナがいつも持っていたのは有名だもの」
そう言ってニヤリと笑った後、急に憂い気な表情を浮かべ心配そうに言う。
「『それを、シャーロットが持ってたら周りからどう思われるでしょうか。要らぬ噂をたてられないか、シャーロットが心配ですわ⋯⋯っ。』
と、言ったら世間体を気にされるお義父様が渡してくださったの」
コロッとまた表情を戻し、ニッコリと笑い言った。エリザベスさんは呆れ顔でこめかみを叩いていたが、私は思わず【聖霊の卵】を抱きしめ思った。
カッコイイー!! お姉様って呼んでもいいかしら!?
⋯⋯て、すでにお義姉様だったわ。
次回、誤解