134.私の事業計画
ロベールさんが報酬を受け取ることを受け入れ、場が少し落ち着いたところで、私は次の話題へと移る。
「それと、今後の護衛についてなんだけど……ダンさん一人では負担が大きいから、補助で何人か雇おうと思うの」
「えっ、俺の補助を? いやいや、そこまでしなくても……」
「ダンさんって、スラムのことも詳しいし、護衛もできるし、子供の面倒も見れるでしょ? でも、一人で全部やるのは大変だと思うの。採取の指導もお願いすることになるし、補助がいた方がいいと思うわ」
「……まぁ、確かに護衛と採取指導を兼任は、ちょっと手が回らないかもしれないな」
ダンさんは腕を組んで考え込む。
ロベールさんも「確かに、それなら増員したほうがいいかもな」と納得したように頷いた。
「だから、ギルド経由で冒険者を募集するか、それとも信頼できる人に直接頼むか……。どっちがいいと思う?」
私が問いかけると、リズとエレーネさんが顔を見合わせた後、リズが口を開く。
「ギルド経由なら手続きが楽ですが、条件によっては高くつくかもしれませんね。直接頼むなら、知り合いの冒険者や元兵士に声をかけるのがいいかと」
「ふむ……」
考え込んでいると、ダンさんがぼそっと言った。
「そういや、スラムにいる元兵士や元冒険者で、今仕事がなくて困ってるやつらもいるぞ」
「えっ、そうなの?」
「ロベールみたいに、手足を失うような酷いものじゃなくても、怪我や病気で兵団や冒険者を辞めたやつは結構いるんだよ。みんながみんな、次の仕事を見つけられてるわけじゃないからな。腕の立つやつもいるし、子供の面倒を見られるようなやつもいる。そいつらに声をかければ、護衛も採取指導も頼めるんじゃねぇか?」
「それ、いいかも……!」
私は思わず身を乗り出した。
元兵士たちなら、土地勘もあるし、ダンさんとも面識がある人が多いはず。
子供たちが絡む仕事だからこそ、信頼できる人を選びたい。
「近くの森に行くだけなら、そうそう危険はない。何よりダンがいるなら安心だしな! 強さよりも面倒見がいいやつや、スラム街のことを知ってるやつが良さそうだな」
ロベールさんがそう言うと、ずっと黙っていたレーヴェが口を開いた。
「……強くなくて良いなら、ステラやネロにやらせればいいんじゃないですか?」
「……え」
思わぬ提案にシーンとなった。
しばらくの沈黙のあと、私は呟く。
「……確かに。それ、悪くないわね!」
「ああ、兵士や冒険者ばかり候補で考えてたが、ダンの補助ならネロで十分だ。ネロならスラム街のことはもちろん、子供たちと面識もあるしな!」
「ステラなら、仕事は丁寧ですし、面倒見がいいのは保証できますね。何より知らない大人より、ネロくんとステラの方が子供同士でいいかもしれません」
ロベールさんとエレーネさんがそう言い、他の人も同意するように頷いた。
「では、補助はネロとステラちゃんに頼むということで、もう兵士や冒険者に声はかけなくて大丈夫だな?」
「──いえ、もし腕のいい元兵士や冒険者が何人かいるなら声をかけて欲しいわ。あと、戦う能力がなくても、ちゃんと働いてくれる人がいるなら歓迎するわ」
ロベールさんが言った言葉を私は否定した。
みんなの視線が私に集中する。
「手伝ってくれる、腕のいい冒険者が何人もいるなら採取チームを複数作りましょう。
ダンさんをリーダーに、ネロくんとステラ、スラム街の子供たちは、近くの森で下級ポーションの材料集めをするの」
「──ああ、それは分かってるが……それ以外に人を集めて何をさせるつもりなんだ?」
ダンさんの質問に、私はにっこりと笑う。
「強い人が集まったら、中級・上級ポーションの材料も集めてポーションを作り、下級ポーションと同じく2割増しでゴルベーザ・マニュールに買ってもらうわ。これで、さらに大儲けよ!」
「あら、それは素敵ですね」
私の発言に、リズも笑顔で同意した。
……ダンさんとロベールさんの顔が引き攣ってるように見えるのは、きっと気のせいだ。
「冒険者とかではない、戦闘は出来ない者はどうするおつもりですか?」
にこりと笑いながら、じっと私を見つめエレーネさんが聞いてくる。
私は彼女の目を見返しながら思う。
エレーネさん、貴女……私が何をしようとしてるか分かってながら聞いてるでしょ?
私は、答える。
「人が多く集められるなら……その人たちには──」
私は一呼吸置き、皆をゆっくり見回してから、はっきりと言った。
「お米を作ってもらいます」




