133.適正報酬
「なんでそんなに驚くのよ……。むしろ今まで払われてなかったことの方が驚きなんだけど」
呆れたように言うと、ロベールさんとダンさんは顔を見合わせた。
「いや、だって……」
「領主様からお金をもらうなんて、普通はありえないというか……」
……マジか。もしかして、今までも領主代理のマニュール家から無報酬で無茶振りされたりしてた? そんな嫌な予感がした。
「もう、いいから! これは正当な報酬よ。具体的な金額とかはあとでちゃんと決めるから、しっかり受け取ってね!?」
ぴしゃりと言い切ると、ロベールさんとダンさんはまだ困惑しながらも、しぶしぶ頷いた。
そもそも、ふたりに色々頼む前に、ちゃんと報酬を決めとくべきだった。私は反省する。
さて、報酬か……。どうしよう。
私、この世界の適正報酬が分からない!
「ちょっと、失礼します」
私は立ち上がると、リズとエレーネさんの肩を叩き、壁側へ連れて行く。……狭い部屋だからあんまりダンさんたちと離れられてないけど。
だから、できるだけ小声で尋ねた。
「ねぇ、今回の報酬ってどれくらい払えばいいの?」
「うーん、そうですねぇ……。一般の兵士が1ヶ月30万ペルですから、最低賃金なら日割り計算で1万ペルもあれば十分かと」
エレーネさんがにこりと笑い言った。
私は頷き、さらに質問を続けた。
「……ふむ。じゃ、これからの護衛の仕事は?」
「本来、兵士に頼むとしたら通常の町から支払われる給金内の仕事なので、最低で同じく1万ペルですね。
ただ、冒険者に依頼する場合……ギルドで募集すると考えると、最低でも1万5000ペルくらいでしょうか。
護衛として見守るだけなら、低ランクの冒険者でもできる簡単な依頼ですが、子供の人数が多い場合や、中ランク以上の冒険者に頼むなら、さらに報酬を上げる必要がありますね。
採取の指導もお願いするなら、なおさらです」
「ティアナ様は採取の指導もお願いしたいんですよね?」
リズが説明してくれたあと、エレーネさんがそう尋ねてきたので、私は頷く。
「だったらダンさん1人では大変ですよ。ダンさんが居れば安心ではあるので、低ランクで構わないので、あと何人か補助で雇った方がいいかもしれませんね」
「なるほどね……分かったわ、ありがとう。その辺のことはダンさんたちに相談してみましょう」
そんな会話をしてから席に戻り、ダンさんとロベールさんに早速、報告と相談をする。
「とりあえず、ダンさんがスラム街を案内してくれたのと、おふたりが兵団へ行ってくれた日当は2万ペルお支払いします。なのでとりあえずダンさんに2日分の4万ペル、ロベールさんに1日分の2万ペルですね。今後……」
「4万ペル!?」
「2万ペル!?」
ふたりの驚きの声が重なった。
……先ほどの会話をしてなければ、「え、1日2万ペルって少な過ぎた?」と思ってしまうが、もうそうでは無いことが分かる。
「……ええ。その通りよ」
「いやいや、多すぎだろ! 2日間とも半日くらいしか動いてないし、スラム街の案内なんて午後からはルトの誕生日会だったじゃないか! 美味いもん食わせて貰って、俺が金を払わなきゃいけないくらい……」
「いや、俺だってそれは同じだし……。
さらに俺は、脚がコレなせいで移動だけでも時間がかかってる。まともに仕事ができない分、減らされるのが普通なのに、相場より多く貰うなんて……っ」
はぁぁぁ。
……やっぱり、そうなるか。
私は心の中で盛大なため息を吐き、説明をする。
「確かに、実働は半日くらいかもしれないけど……ダンさん。貴方、お店を休んで私たちの手伝いをしてくれたんですよね? ミーナたちが代わりに食堂で働いてくれたからまだ良かったけど、本来なら1日の休業分の補償をしなきゃいけないと思うの。それを考えれば、安いくらいよ」
そう、本当はもっと払いたかったくらいだ。でも2万ペルでもこの反応。多ければ拒否されるかもと思い、2万ペルにしたのだ。
「ルトくんのお誕生日会も、私がお願いして準備をしてもらったし、参加だってダンさんたち家族が参加してくれると、ルトくんが喜ぶと思って私がお願いしたことよ」
そう、だからあの日は食堂は昼営業のみで、昼営業後はミーナとアンナも誕生日会に参加してくれたので夜は臨時休業にしてもらった。
それについては今はもう話さないが、夜の分の休業補償とミーナとアンナにも報酬を払うつもりだ。
「……ロベールさん」
「は、はい!」
次はロベールさんに説明をする為に、彼の名前を呼ぶと、緊張ぎみ返事をし、椅子に座りながら姿勢を正した。
「『脚のせいで』と言ってましたが、松葉杖のおかげでかなりスムーズに動けるようになりましたよね? 脚のせいで多少時間がかかるのなんて、些細な問題です。そして兵団への調査は、元兵士だったロベールさんだからこそ、確認できることです。そんなロベールさんの報酬が、通常より少ないはずがありません!」
ロベールさんが松葉杖で歩く姿を見て、それを確信していた私がはっきりと言うと、ロベールさんはハッとした後、少し泣きそうな顔をした。
「わかりました。……ありがとうございます」
そう言って、私の提案を受け入れてくれた。




