132.正当な報酬
ロベールさんとダンさんは、まだ混乱しているようだった。しばらくの間、誰もが無言のまま考え込んでいる。
「ロベールさん、ポーションの数を早急に確認していただけますか?」
リズが口を開くと、ロベールさんは少しだけ顔を上げ、深いため息をついた。
「わかりました。でも、これ以上ゴルベーザ・マニュール様を追い詰めるのは少し心配です。もし何かトラブルが起きれば、私たちだけでは対処しきれないかもしれません」
その言葉に、リズはしばし考え込む。
「確かに私たちは大丈夫ですが、ロベールさんたちは心配ですね……。何か対策を考えましょう」
ロベールさんとダンさんは一瞬驚いたが、すぐに納得したように頷く。
「ありがとうございます」
ロベールさんは静かに礼を言う。
「ロベールさんの言う通り、今後の展開次第ではすべてがうまくいくとは限りません。ゴルベーザがどんな行動を取るかわからない以上、慎重に行動してください」
「……わかりました」
リズの言葉に、ロベールさんとダンさんが再び頷くのを確認しリズは、ふと話題を変えた。
「それと──
子供たちの護衛の件ですが、ロベールさん。信頼できる方を紹介していただけませんか? 護衛は慎重に選ばなければ意味がありません」
ロベールさんは少し考え込み、頷いた。
「了解しました。信頼できる者に話を通しておきます。」
「ありがとうございます、ロベールさん。助かります」
リズが満足げに笑った。
すると、ダンさんが口を開く。
「──なぁ、その護衛って兵士じゃなきゃ駄目か? ……俺じゃ駄目かな?」
場の空気が一瞬止まり、全員の視線がダンさんに集中した。
ロベールさんが目を見開く。
「でも、お前……店はどうするんだよ? ミーナたちの屋敷での仕事もまだあるだろ? ここ数日、俺に付き合ってくれたせいで、ミーナたちが屋敷の仕事を休んでるんだぞ。それに、お前、食堂の改装資金を稼がなきゃいけないって言ってたじゃないか!? 」
その言葉に、私は妙な引っかかりを覚えた。
そんな私の気持ちをよそに、ダンさんは静かに答える。
「店のことは……どうにかなる。いや、どうにかしてみせる」
ダンさんの言葉に、ロベールさんはしばらく沈黙した。
「──どうにかする、か」
静かに繰り返しながら、彼はダンの顔をじっと見つめる。その視線は、親しい友人を案じるものだった。
「お前、本気で言ってるのか?」
「本気だよ」
ダンさんは力強く頷いた。
「確かに店のこともある。でも、今ここで子供たちを守ることの方が大事だろ? それに、俺は元々傭兵みたいなもんだったんだ。護衛の仕事くらい、問題なくこなせる」
「……お前なぁ」
ロベールはため息をつきつつも、どこか呆れたような、それでいて嬉しそうな表情を浮かべた。
「エリザベス様、いかがでしょうか? 子供たちの護衛のお話。ダンに任せてもよろしいでしょうか?」
突然話を振られ、リズは少し考え込んだ。そして確認するように私を見てくる。ダンさんなら戦闘力は申し分ないだろうし、何より信頼できる。しかし──
「ダンさんが引き受けてくれるなら安心だわ。……それより気になったんだけど、ミーナたちがダンさんの代わりに店に出て、屋敷の仕事休んでることについて、どう思ってます?」
ダンさんの表情が曇る。少しの沈黙のあと、ゆっくりと口を開いた。
「俺の都合のせいで、ミーナたちに負担をかけてるし、何より、約束してた屋敷の仕事を休ませてしまってることは申し訳なく思って……ます」
「申し訳ごさいません! ダンは俺だけだと、大変だろうからと付き合ってくれたんです。ダンは悪くありません! これからは俺ひとり……っ」
ロベールさんがダンさんを庇うように言うのを、私は片手をあげて静止した。そして大きく息を吐く。
「……やっぱり。なんか勘違いしてない?」
ビクリとふたりの肩が揺れた。
「ミーナ達が休むことは全く問題ないわよ。調整なんていくらでもするわ。ここ数日、ダンさんの代わりに店に出てる分も、これからの護衛をしてくれる分も、ミーナたちの分も、もちろんダンさんの働いた分も──ちゃんと報酬は出しますからね!?」
「「……え?」」
二人が固まる。
先に復活したのはダンさんだった。
「報酬は出すって……? だってミーナたちは屋敷の仕事を休んでるんだぞ!?」
「ミーナとアンナが自己都合で休んだらダメよ。でも、ロベールさんの手伝いも、子供たちの護衛も領主の依頼よ? こちらの都合なんだから、むしろ報酬は発生するわよ。もちろんロベールさんもね!」
「え! 俺までもらえるの!?」
ロベールが驚きの声をあげる。
──いや、貴方こそ。直接頼まれたんだから、一番もらう権利があるでしょうが!
と、心の中で盛大なツッコミを入れた。
この世界の平民さんたち……搾取されることに慣れすぎてるよ!!




