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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
海の街、クリスディア

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132/337

131.最高の取引(一部除く)


「ゴルベーザ・マニュール?」


ロベールさんがポツリと呟いた。

思わず呼び捨てにしてしまったのだろう。ハッとした顔をして、慌てて言い直す。


「ごほん! 大変失礼致しました」

「どうしてここでゴルベーザ・マニュール様の名が出る?」


ダンさんが眉をひそめる。


「ゴルベーザが引き起こした一連の事件によって、兵団は2年間で莫大な損害を被りました。戦力の低下、物資の不足……どれも計り知れない負担です。そして被害者の救済は、行われてもいません」


リズは、僅かに目を細め、意味ありげに微笑んだ。


「だから、損害賠償として──下級・中級・上級ポーションを5年分くらいは、ゴルベーザ・マニュールに用意してもらいましょう」


ダンさんとロベールさんが、目を見開いたまま固まった。


「先ほど、ロベールさんは『上級ポーションのこともありますし、下級ポーションを大量に買う資金がありません』と言ってましたが……兵団が払うつもりでしたか?」


リズは小首をかしげる。


「上級ポーションの代金も、もちろんゴルベーザ・マニュールに払わせますよ。2割増で」


──ゾクリ。

背筋が冷えた。リズの言葉に、空気が凍りつく。私だけじゃない。周囲の誰もが、青ざめた顔でリズを見つめていた。


ゴルベーザ……南無。

心の中で「チーン」と弔いの(リン)を鳴らした。



リズの言葉に場が静まり返る。

ロベールさんとダンさんは顔を見合わせたが、どちらも言葉を発せなかった。


「で、ですが……」


少しして、ロベールさんが重い口を開く。


「ゴルベーザ・マニュール様が、この件を了承するとは思えませんが……?」

「そうでしょうね。でも、大丈夫ですよ」


リズが不敵に笑う。


「これはもう決まったことです。今さら覆せません」

「……えっ?」


ロベールさんとダンさんの表情が凍りつく。


「ちょ、待て待て! それはどういう──」

「兵団は上級ポーションをはじめ、大量のポーションを確保できる。私たちはポーションをゴルベーザに売ることで利益を得る。その利益を使って、スラム街を救済する。

ね? 素晴らしい取引でしょう? みんなが得をするわけです」


うん、最高の取引だよね。

……まぁ、マニュール家を除けば、だけど。


「そういうことなので、ロベールさん。お手数ですが、兵団が年間で必要なポーションの数を確認していただけますか?

それと、もし可能なら、子供たちの護衛をしてくれる方も紹介してくれると助かります」

「は、はい……」


ロベールさんが返答をするが、混乱を隠しきれない。

それを見ていたエレーネさんは、普段なら自分がその立場であるだけに、他人事とは思えなかったのだろう。苦笑いを浮かべながら、説明を加えた。


「今のクリスディア領の正式な領主は、私たちの主、ジルティアーナ様です。マニュール家は、あくまで代理に過ぎません。そして、その代理業務を怠っていたのなら……ジルティアーナ様はもちろんですが、その側近であるティアナ様、エリザベス様の意向に従わなければなりません」


その言葉に一番衝撃を受けたのはダンさんだったようだ。


「あんたら、そんな凄い人……て、違う。凄い方たちとは知らず、失礼な態度をとって申し訳ございませんでした」

「やめてください! 私が普通に接するように、お願いしたんだから、どうか今まで通りに接してよ」


謝罪し、頭を下げたダンさんに私は言った。

できればロベールさんにも気さくに接して欲しいと思ってたのに……まさかな展開に焦る。

せっかく仲良くなれたと思ったのに……と、泣きそうな気持ちになる。


「ダンさん、ロベールさん。あなた達はティアナ様の部下ではありません」


急に聞こえたその声に振り向くと、エレーネさんだった。彼女は優しく微笑みながら続けた。


「ティアナ様はダンさん達と気さくに交流が出来て、本当に楽しそうにされてました」


困惑するダンさんに、エレーネさんが更に続ける。


「私は平民ですが、幼い頃からエリザベス様に仕えていた為、一般の平民の常識に疎い部分がありますし、この町や海のことは知りません。

なので平民の暮らしやこの町について、これからも友人として色々教えてあげてくれませんか?」


それを聞いて困ったように「でもなぁ……」と呟くダンさん。

私は両手を組み、目で「お願いっ!」と必死に訴えかけた。

しばらく見つめ合うと、頭をガシガシと掻いてダンさんが叫ぶように言った。


「アー! もう分かったよ! 今まで通りでいいんだな?」


うんうん! その通り! と私は勢いよく頷いた。


「でも、それなら! 俺だけ普通に接するのは気まずいから、ロベールも敬語抜きだぞ!?」


急に話を振られたロベールさんは、目を大きく見開き、無言で驚きの表情を浮かべた。


「ええ、もちろん! ふたりとも敬語なしでお願いね」


私はロベールさんが無言なのをいい事に、笑顔で言った。


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