121.ポーションの価値
食堂の事が心配で、話し合いは早々に終わらせ3人を帰した。
リズが用意してくれた上級ポーション10本は、その足で兵士の詰所に寄るからと、ダンさんとロベールさんが届けてくれる事になった。
……良かった。これでまた誰かがロベールさんみたいな大怪我を負っても、同じような事にはならないだろう。
「それにしても……ゴルベーザ・マニュール達には改めて厳罰が必要ですね」
「そりゃそう思うけど、どうしたの急に?」
リズがなんでこのタイミングでゴルベーザに怒りを向けたか分からず聞いた。リズが眉を釣り上げてこちらを見てきた。私に対して怒ってる訳ではない。でも、ちょっと怖い。
「ゴルベーザ達は持ってたはずです」
「何を?」
「上級ポーションですよ! 中級貴族であれば主人や護衛が大怪我をした時の為に、高ランクの冒険者のように念の為、上級ポーションを持っているはずです」
私は予想外なリズの発言に驚く。じゃあ、なんで……?
「上級ポーションを持ってたなら、なんで!? どうしてロベールさんに上級ポーションを使わなかったの!」
思わず怒鳴るように言ってしまった。
だって……何で? ロベールさんが火傷した時に上級ポーションを使ってれば、ロベールさんの脚は失くならなかった。脚が失くならなければ仕事を辞める事もスラム街に行く事も無かった。そんな事が無ければ、さっきのようにダンさんが後悔する事も無かったのに……っ!
「平民になんて、上級ポーションを使うのが惜しかった。たぶんそれだけです」
私は意味がわからず、エレーネさんを見た。その視線に気付いたエレーネさんは苦笑した。
「平民なんかに躊躇うことなく上級ポーションを使って下さるのは、ティアナ様たちくらいですよ。普通は下級でさえ、平民には使いません」
そんなの、おかしい……っ。
私は憤りを感じる中、リズが淡々と教えてくれた。
「下級でさえ1万ペル。中級だと10万、上級ポーションだと最低でも100万ペル以上はします」
平民の生活費が家族4人で10万だというのだから、確かにかなりの高額だ……。
「下級、中級なら薬屋等で金さえ出せば買えるが、上級ともなると普通の薬屋にはまず出回りません。ツテがないと入手が難しいのです」
「どうして……?」
「上級ポーションを作るには、希少な素材が必要です。ですがそれ以上に、この国には上級を作れる【錬金術師】が少ないのです」
金銭面での問題だけなら「ゴルベーザに請求しましょう」と笑顔のリズだったが、もっと多くの上級ポーションを兵団に渡したくても、お金の問題以上に入手すること自体が、困難なのだという。
「理想としてはあと何本くらい必要なの?」
「高ランクの魔獣が出れば、多くの重傷者が出ることがありますので、できれば100。少なくとも50くらいはあった方が安心でしょう。
それと下級・中級のポーションも足りてない可能性があります。確認した方が良さそうですね」
ふむ。問題は山積みのようだ。
ポーションねぇ……。
そういえば、ステラと初めて会った時にリズが「上級ポーションを飲ませた」って言ってたっけ?
あれ、100万もしてたのか。そりゃあステラが驚いてたのも納得だわ。と今更ながら思った。
あ。そういえば……1回だけ私も使ったことあったわ。一度、本を読んでた時にうっかり手を切ってしまい、リズに下級ポーションをかけてもらったのだ。患部に垂らしただけで、傷が消えたので驚いた記憶がある。
日本ではポーションなんて、ゲームの中のだけの存在だったもんなぁ。そうそう昔、『錬金術師になろう』てゲームに熱中したことあったなぁ。あのゲームでは、錬金術レベル上げる為にポーション作りまくった……あれ?
私はある事に気付いた。
「……ステータス!」
私はステータスのウィンドウを出し、スキルの一覧に視線を走らせる。私のスキル……【生産】。その文字を長押しすると──。
「……あった」
──【錬金術】の表示がそこにあった。
錬金術ってなんなのよ? って思ってたが、もしかしたら。と期待しながら【錬金術】の文字を長押しした。
----------------------------------------------------------------------
【錬金術】
・アイテム調合、アイテム品質強化や変化を行う。
(備考)
・覚えたレシピによる調合、オリジナルな調合、アイテム強化ができる。
----------------------------------------------------------------------
「…………は?」
私は思わず声を出した。そんな私をみて、リズとエレーネさんは顔を見合わせる。
「どうされたんですか?」
「いや、私……【錬金術】が出来るみたいなんだけど」
ふたりがフリーズしてしまった。
とりあえず、お茶を飲む。……まだ動かないので、次はキャラメルを口に入れた。うん、甘くて美味しい! ロベールさんにもお土産に持って帰ってもらったから、ネロくんとルトくんが喜んでくれると良いなぁ。
「ティアナ様、【錬金術】が使えるんですか!?」
やっとエレーネさんが動いた。




