113.ルトが抱えてた思い
「「ルト、お誕生日おめでとう!」」
ルトくんが部屋に入ってきた瞬間、ロベールさんとネロくんが声をかけ、私達は拍手をした。
大きなテーブルの中央には、私が作ったナポルケーキがあり、他にもミーナとアンナが作った数種類のピザとフライドポテト、骨付きチキン等が並んでいた。
実は、私が朝から厨房でナポルケーキを作ってた時、ミーナとアンナもピザなどの料理を作ってくれてたのだ。そんな料理達と共にお祝いする為、ミーナとアンナ、それにステラも来てくれた。
そんな皆を見てポカンとするルトくんは、エレーネさんによって白いシャツにサスペンダー付きのズボンというキッズフォーマルな格好に着替えており、とてもかわいい。
「これ⋯⋯ぼくのおたんじょうびのお祝い?」
「うん、そうだよ。それにこの料理だけじゃなくて、今日はここにお泊まりするんだよ」
隣にいたエレーネさんの発言に目を輝かせ、ルトくんは椅子に座るロベールさんに駆け寄る。近くにいたネロくんもロベールさんの顔をみると「ああ、そうだよ」と頷いて見せ、ふたりの手を引き寄せた。
「ネロ、色々ありがとう。ネロだってまだ親に甘えていい歳のはずなのに、母ちゃんが居なくなったのと俺の脚のせいで⋯⋯。ルトをいつもみてくれてるのはもちろん、俺の手伝いやダンのところで働いてくれて、その金だって全部家族の為に使ってくれた事に感謝してる。でも、もういいからな。これからは、もっと遊んで、働くのはいいが金は自分の為に使いなさい」
「何言ってんだよ。兄貴なんだし、元気なんだから俺が頑張るのは当たり前だろ? これからだって⋯⋯っ」
ロベールさんが首を振った。
「本当にもう大丈夫なんだ。ジルティアーナ様が家を用意して下さるそうだ。この立派な宿に泊まるのは今日一日だけだが、新たな家が見つかるまでの間は、この近くの宿に泊まれる。もう、スラム街には住まなくていいんだ」
ネロくんが私達を見てきたので、頷いた。視線を前に戻し「ほんとに⋯⋯?」と聞かれたロベールさんも笑顔で頷くと、今度はルトくんの目を見て告げた。
「改めて、お誕生日おめでとう。
ごめんな、幼いお前にとってスラム街で生きた記憶しかないだろうけど、これからは違うから。
ルト。お父さんもネロも、お前の事が大好きだよ。今はもうそばには居ないけどお母さんも⋯⋯ルトのことが大好きだよ。生まれてきてくれてありがとう」
ロベールさんを見ていたルトくんの目にみるみる涙の粒が溢れた。そんなルトくんの頭にロベールさんが手を置くと、瞳に溜まっていた涙が次々にこぼれ落ちていく。
「ぼく⋯⋯ぼくのせいでお母さんはっ。ぼくがいなければ兄ちゃんだって遊べるのに⋯⋯っ」
そう言って泣き出した。言いたいことは色々あるようだが、まだ幼いために思った事を、複雑な感情を、伝えるのが難しいのだろう。
私も事前知識がなければなんの事か解らなかったかもしれない。でも私達は昨日食堂で、ルトくんがエレーネさんに話した内容の事を相談されてたので、何を言いたいのかがわかった。
昨日──ネロくんが謝罪し泣いてしまった後、エレーネさんが食堂の裏口でルトくんを見ててくれた。その時ルトくんが言ったらしい。
お母さんはぼくを産んだせいで死んでしまった。ぼくを産まなければお母さんは死ななかった。
お母さんが死ななければ父ちゃんが兵士になることも、脚が失くなることもなかった。
ぼくがいなければ、兄ちゃんがこんなに頑張る必要もなかった。
ぼくがごはんを食べたいなんて言わなければ、エレーネの財布を盗ることもなかった。
ぜんぶ、ぼくがいなければこんなことにならなかったんだ。
と、もちろんエレーネさんはそんな事はない。と否定したが、ルトくんはずっと「ぼくのせい」と言っていたらしい。
家族に起きた不幸を、全て自分が原因なのだと、そんな不安を小さな身体に抱えていたんだ。
その話しをネロくんとルトくんが帰した後の食堂で教えてくれたエレーネさんは、お酒を飲み言った。
『ルトくんが悪い訳がないのに⋯⋯それが解っているのに、私は上手く言葉をかけてあげれませんでした』
泣きそうな顔で俯いたかと思うと、ぐすっ⋯ううぅ⋯⋯。と啜り泣く声が聞こえた。が、それは随分低い声だった。
『ちょっと! お父さんがそんなに泣かないでよ!』
『だってよぉ⋯⋯。あんなに小さいルトがそんな事をずっと考えてたなんて⋯⋯っ! 気付けなかった自分が情けねぇよっ』
アンナがハンカチを渡すと、ズビーッ! と鼻をかんだ。伏せたはずの顔を思わずあげ、それを見るエレーネさん。溢れそうだった涙は引っ込んだようだ。
⋯⋯うん。怒ったり泣いたりしそうな時、更に凄い人みると冷静になるよね。
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「匂い ~1分で読めるショートショート~」
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ファンタジーとかではないので、スキル~とは違いますが、300文字くらいなので気が向いたら読んでくれると嬉しいです。
よろしくお願いします。




