102.クリスディアの市場で
「わぁー···っ」
ステラがキラキラした目で周りを見渡す。
今日は朝からリズ、エレーネ、ステラ、レーヴェ。まぁいつもの4人と一緒にクリスディアの町に来ていた。
市場に行ってみると沢山の屋台が並んでおり、港町らしくあちらこちらから活気ある声が聞こえてくる。
「見たこともない食べ物がたくさん売ってますね。······あああっ!!」
突然大きな声をあげたエレーネさんの目線の先を追うと、そこにあったのは······うん。なんか予想した通りな、エビの焼串。
「いらっしゃい! エビ以外にも色々あるよっ」
私たちに気付いた売り子のおばさんが言う通り、色々な焼串が売られていた。エビにタコ、イカゲソ、ホタテ、それに野菜のもあった。
残念ながら魚は、例のお貴族様ルールのせいだろう、見当たらなかった。だが平民でも、肉がベーコンやソーセージという加工された物はセーフなように、海鮮も魚でも干物や練り物はセーフ。魚以外の甲殻類や貝類は食べても良いらしい。
おおお。魚以外はOKなら平民でも意外と食べれる物は多そうだ。
「どれも美味しそうね」
「おや、嬉しいことを言ってくれるね。オススメは盛合せだよ。10本のを買ってくれるなら1本オマケしちゃう!」
どうしようかしら。と後ろを見ると、ステラは目を輝かせて見てくるし、レーヴェも喉をゴクリと鳴らしていた。エレーネさんは······うん。確認するまでもなく分かってたけど、食べたい食べたい食べたい! と、顔にかいてあった。
「じゃあ、そのオススメを頂くわ」
「毎度あり!」
屋台の横にあった空いてるスペースに異動し、さっそく食べる事にした。私もさっそくエビ串を手に取る。香ばしく焼かれた殻付きのエビは鮮やかな赤色で食欲がそそられる。
「いただきまーす! ······ってこれ、どうやって食べればいいんでしょうか?」
エビ串を手に持ったエレーネさんが首を傾げた。
ふむ、これって······。と思い「解析」と呟いた。
【エビの焼串】
ソフトシェルシュリンプを串に刺して焼いた物。
海鮮・甲殻類。ソフトシェルのため頭から尾まで丸ごと食べれるので、エビ本来の旨味・甘味を余すことなく食べられる。
(効果)
良質なタンパク質、カルシウム、ミネラルが豊富
(品質)
★★★★
(状態)
焼きたて
私は、頭からエビ串にかぶりつく。うん、味付けはシンプルに塩だけのようだけど、とても美味しい!
「ティアナ様、殻を食べて大丈夫なんですか!?」
「うん。これ、ソフトシェルだもの」
驚くステラに答えたが、皆「ソフトシェル?」という様子だった。そういえば、皆エビの存在もこの前まで知らないんだった。ソフトシェルシュリンプを知ってるわけがないか。
「ソフトシェルシュリンプっていうのは脱皮直後のエビの事なの。脱皮直後だと殻が柔らかいから、頭から尻尾まで丸ごと味わえるし、殻を剥く必要もなく手が汚れないのよ」
エレーネさんが、じっとエビ串を見つめた後、勢いよくパクリっ! と食べた。もぐもぐ······ごくん。と飲み込むと顔を上げた。
「殻がパリパリとした食感でおいしいです!」
「でしょ。頭も食べれるから味噌も一緒に味わえるしね」
そんな会話をしながら、他のみんなもそれぞれの焼串を美味しそうに食べていた。
焼串を食べ終わったあとは、物販店が並ぶエリアに移動した。そこで気になるお店を見つけ足を止める。アクセサリー店だ、美しいネックレスや指輪などが並びキラキラしていた。その中から目的の物を見つけ、手に取る。
「そのブローチを買われるのですか?」
「どうしようかしら? ステラはどう思う?」
「とても綺麗だと思います!」
「そう、なら良かった」
それはリボンモチーフのブローチ。真ん中には、ステラの瞳の色に似たビジューが着いていて、その周りをいくつかの小さなパールがビジューを囲うようについていた。
私はそのブローチを、先日メイドによって切られてしまったリボンタイの代わりにステラの胸に着ける。
「······え?」
「レーヴェ、どうかしら。ステラに似合ってると思うのだけど」
「はい。似合ってるとは思いますが······」
戸惑う2人を他所に、エレーネさんが「このまま着けて行きます」と店主に伝え会計を済ませると、店を出た。
「ティアナ様! これ······」
「気に入らない訳じゃないなら受け取ってちょうだい。やっぱりそこに何も無いのはさみしいから」
私はステラの胸元を指した。ステラは戸惑うように視線を動かしたが、レーヴェが私に同意するように頷いた。それを見たステラは、ぎゅっと大切そうにブローチを握りしめる。
「ありがとうございます」
そう言って笑ってくれた。
◆
ブローチを買った後、次は飲み物でも買おうかとリズと会話をしてる時だった。「きゃあっ!」という悲鳴が聞こえ後ろを振り向くと、レーヴェに支えられたエレーネさんがいた。
「エレーネ!? 何があったの?」
リズが駆け寄る。エレーネさん達の背後には凄いスピードで走り去る青髪の子供が見えた。
「すみません、飛び出してきた子供とぶつかってしまって転びかけたのですが、レーヴェが助けてくれました。レーヴェありがとう」
「そう······、怪我はない?」
「はい、大丈夫です」
リズたちの会話を聞き、怪我がなかったことに安心しているとそれまで黙っていたレーヴェが口を開いた。
「エレーネさん、財布はありますか?」
「······え?」
思わぬことを言われたようで、戸惑いながらもポケットを漁る。そして
「あ······ありません」
エレーネさんがポツリと言った。