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101.獣人への差別



「解雇よ。そんな人、ここに必要ないわ」


魔力測定をした日から約一週間後、私のひと言でひとりのメイドが屋敷から追い出された。


この一週間、ステラの態度はどこかおかしかった。魔力測定の日のショックが影響しているのかと考えていた矢先、エレーネさんから信じがたい報告が入った。



「ステラが、メイドに怪我を負わされました」

「なんで!?」

「嫉妬が原因です。ステラが、ジルティアーナ様たちと一緒に食事をとっていることを知ったのがきっかけのようです……」


すると、横で俯いていたステラが謝罪した。


「ティアナ様……本当にごめんなさい」

「どうしてステラが謝るの? 私の『みんなと食事をしたい』というわがままが、こんな事態を招いたのよ」


私が、ひとりでの食事は味気ない。そんな理由で、いつもリズをはじめエレーネさんにレーヴェとステラ、場合によってオブシディアンとネージュと一緒にご飯を食べてた。

それがまさか、こんな事態(こと)になるなんて……。


「ティアナ様のせいではありません」


はっきりと言ったのは、リズだ。でも……と私は続ける。


「でも……私が、皆と一緒に食事をしたいなんてわがままを言わなければ、ステラが怪我をする事もなかったでしょ」

「以前もお伝えしたように、この屋敷の主はジルティアーナ様です。貴女がやりたいと仰る事を止める権利は、誰にもありません。

主が決めた事を納得できず、ステラに危害を加えるなんてありえません」


でた、笑顔だけど怖い顔。そんな笑顔でリズは「ねぇ? スティーブ」と後ろに控えていたスティーブさんを見た。執事長として問題のメイドを雇ったこと、教育が出来ていないことを追及されていたのだ。


「ステラの怪我はどうなっているの?」

「幸い出血のわりには軽傷でした。ですが……」


ステラの手には痛々しい包帯が巻かれていた。その手がしっかり握るのは、途中で切れ、所々に赤い染みが浮かぶ白いリボンだった。どこかで見たことがあるような、そのリボン……


「ごめんなさい。せっかくティアナ様に頂いたお洋服なのに、守れませんでした……っ」


ステラの赤い瞳から次々と涙が溢れた。先ほどの謝罪の理由は、このリボンにあった。リズの説明によれば、このリボンは、私がウィルソールのフェラール商会で買ったワンピースのアクセントとして付いていたリボンタイだった。


「ジルティアーナ様と一緒に食事をとるなんて新人のくせに生意気だ」


と、お決まりのようなセリフを言う為に、問題のメイドはステラの部屋へ来たという。

そこで、このワンピースを見つけてしまった。今度は──


「獣人のくせに! なんで獣人のアンタが、こんな上等な服を持ってるのよっ!」


と怒り出し、傍にあったハサミを手に取った。そして、ワンピースを切り裂こうとした瞬間、それを止めようとしたステラが怪我をしたのだという。




「なんなのよ……それ……っ」


最初、食事の話を聞いた時は、「自分より新人が美味しいものを食べてたら嫌だよね」と、少し反省した。だが、それだけではなかったらしい。

そもそもそれも根本には、「獣人のくせになんで優遇されるんだ」という差別があったようだ。

怪我が心配になり、ステラの手を確認すると「獣人は怪我の治りが早いんですよ」と私を安心させる為か、ステラが笑った。

でも……と、思いながらステラに握られたリボンタイを見る。所々に付いた赤いシミ……ステラの血だ。


軽傷だった。治りが早い。と言っても痛かったはずだ。するとそんな私の視線に気が付いたステラの表情が曇った。


「私の怪我なんて慣れてるし、すぐ治るからいいんです。でもリボンタイ(これ)は……」

「ステラ」


ステラの顔をあげさせ、また涙がこぼれ落ちそうな赤い瞳を見つめて告げる。


「私があげた服を大切にしてくれ、ありがとう」


けど、それ以上に……



「もっと自分を、ステラを大切にしてあげて。私は服が駄目になる事よりも、ステラが怪我する方が嫌よ」


傷には触れないように、そっとステラの手を握った。

私は気付いてた。この屋敷に来た日にレーヴェとステラに向けられた使用人達の蔑むような視線と言葉に。

そしてそれはひとりでは無かった。今回、ステラを傷つけたメイド以外にも同じような使用人がまだ居る可能性が高い。

そう考えているとリズが静かに尋ねる。


「ティアナ様、メイドの処分はどうされますか?」

「解雇よ。そんな人、ここに必要ないわ」


私のひと言でひとりのメイドが屋敷から追い出された。

それと───···



「この屋敷で獣人への差別は許されない。この事に納得できないならば、退職金と紹介状は用意するので出ていきなさい」


スティーブから使用人達へ周知がされた。

長年の偏見を無くす事はなかなか難しいだろう。でもそれを言動や態度に出すことはもちろん、暴力を振るうなんて許せない。

今回暴力を振るったメイドには、退職金も紹介状も出さなかった。紹介状もない突然の解雇、再就職も厳しいものになる事だろう。

ステラとレーヴェに酷い事をしたらどうなるか。メイドの解雇は、他の使用人達へ警告となっただろう。



先日、新作の短編を投稿しました。よろしくお願いします。

「若き女王と婚約者〜巨乳の秘訣を知りたかっただけなのに何でこうなった?〜」

https://ncode.syosetu.com/n5691kc/ #narou #narouN5691KC

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