0. プロローグ~目覚めた私。
長い夢を見ていた気がする。
……ここはまだ、夢の中?
ぼんやりと目を開け──ハッとした。
『いま何時!?』
やばい、遅刻!? 化粧する時間……ある!?
……いや、いいや。
有給まだ残ってるし、今日は休んじゃおう。
私がいなくても、甘え上手なあの子と頼りになる課長で何とかなるでしょ?
「君は一人でも大丈夫だろ」なんて言ったんだから。
──なのに。
……ここ、どこ?
目に映る天井は、いつもの白じゃない。精緻な彫刻が施された、まるで美術館の天井画のよう。
そしてベッドは、体が沈みこむほどふかふか。レースのカーテンに囲まれた天蓋付き──まるでお姫様の部屋。
「良かった……! 目を覚まされたのですね!」
振り向いた瞬間、息を呑んだ。
そこに立つのは、絵画から抜け出したような美女。
宝石のようなエメラルドの瞳、月光を思わせるプラチナブロンド。黒のロングドレスが彼女の美貌を際立たせていた。
(なにこの人……コスプレ? いや、レベル高すぎでしょ……)
戸惑う私に、彼女は小首を傾げて問いかけてきた。
「ジルティアーナ姫様? ご気分は大丈夫ですか?」
…………ジルティアーナ、姫様?
名前を間違えてる? それとも役に入り込んだコスプレ?
でも、私の名前はそんな立派なものじゃないのに。
困惑する間もなく、彼女は悲痛な表情を浮かべ──私を抱きしめてきた。
「ご安心くださいませ。このエリザベスが、ついております」
「……リズ?」
「はい。ジルティアーナ姫様」
自然に、その名前が口をついて出た瞬間、思考が止まった。
そして理解する。
──今の私は、ジルティアーナだ。
ヴィリスアーズ家の娘。正当な次期当主。……そのはずだった。
「……ねぇ、リズ。成人の儀のあと、お父様はなんて?」
彼女の肩が震える。涙をにじませながらも、真っすぐに私を見た。
「ローガン様は……“正当な後継はジルティアーナ様だ。自分は中継ぎにすぎない”と」
「でも……?」
緑の瞳が揺れる。
「奥様が……“上級貴族の跡継ぎが、よりによって【ロストスキル】持ちだなんてありえない。次期当主は、妹君のシャーロット様にすべきだ”と……」
──ああ、そう。
義母イザベルは、私をずっと疎ましく思っていた。
私が生まれたその日から、あの人の視線には敵意がこもっていた。
次期当主の座も、家からの居場所さえも奪いたい──そう考えている人だった。
けれど、これまでは強引に排除できなかった。
“本来の血”を継ぐ者がいなくなれば、周囲から非難を浴びるからだ。
だからイザベルは、機会を待っていたのだ。
そして──成人の儀。
その結果こそが、彼女にとって待ち望んだ好機だった。
「上級貴族の跡継ぎが、ロストスキルだなんて──ありえない」
その言葉が、私の運命を決定づけた。
……そして私は思い返す。
“私”としての記憶と、ジルティアーナとしての記憶──二つが交わり始めた今、彼女がどんな人間で、どんな立場にあったのかを。
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