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『鉄鎖のメデューサ』  作者: ふしじろ もひと
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第19章

 乗せられた舟が動き出したとたん、大きな水音と叫びが聞こえた。投網に巻かれ身動きもならぬラルダに起きたことを確かめるすべはなかったが、背を向けたまま舟を漕ぐ男の落ち着き払った様子から、おのずと事情は察しがついた。

「なにもかも計算のうちということか? 警備隊員に化けているようだが、さてはきさまが黒幕か!」

「詮索は無用だ。ついでにいっておくが、俺を石にしようなどと考えぬことだ。その網は自力では抜けられん。漕ぐ者がいなくなれば、この舟は大河を流れ下ってどこかで沈むしかない。やっと雪溶けが始まったこの地の水は冷たい。助かるなどと思うな」

 そのさびた声に、ラルダはかすかな訛りを聞き取った。

「きさま、この地の者ではないな。もしやメデューサの棲む地にゆかりの者か。だからメデューサを怖れないのか。どんな性質の種族か知っているから。それで中原からこの地まで持ち込めたんだな。なにをたくらんでいる!」

 すると男が、肩越しに視線を投げかけてきた。

「……ほう。やはり俺が張っていた方へやってきただけのことはある」

「なんだと?」

「あの状況でとっさに人垣を破り河をめざす判断が下せるなら、部下だけに任せるには荷が重いかもしれぬと思った。それだけのことだ」

「それもきさまの掌の上ということか……」

 容易ならざる相手のようだった。こちらに顔を向けないせいではっきりした人相は把握できなかったが、たとえ勝手のわからぬ種族でなくともメデューサと対峙して動じぬ胆力、かいま見えた眼光、およそただ者とは思えなかった。そう思ったラルダが身を硬くしたとき、男がいった。

「しかしどんな神を奉じているかは知らぬが、そいつをそこまで手なづけるとはただ者ではあるまい。おまえもこの街に義理などなくば、妙な信心で嘴など挟まぬことだな」

 どうやらこの男でさえ、クルルと心を通わせたのが少年ロビンであるとは思いもしていないようだった。ならば決してこの男に気取られてはならない。ラルダが黙っていると、さびた声は最後に告げた。

「話すのは俺の役目ではない。お屋敷に着けば、どうせおまえは詮議を受ける。訊きたいことがあればその場で好きなだけ訊くがいい」


 いったん大河を下った舟は、やがて向きを変え流れを遡り始めたようだった。だが、舟底に転がされたラルダにはどこへ向かうのか見当もつかなかった。背中合わせに巻き付けられたクルルを落ち着かせるため、小声で話しかけることくらいしかできることはなかった。

 やがて舟は停まった。男がもやい綱を結びつけると、上から石の腕が綱を下ろしてきた。男はその綱に網を結びつけると舟から下りて姿を消した。どこかに出入り口があるような様子だった。やがて彼らはゴーレムに再び宙吊りにされ、大きな屋敷の二階の窓から部屋へとそのまま押し込まれた。

 部屋にいた者たちもメデューサの扱いには慣れている様子だった。先が二つに分かれた長い棒のようなものでうつぶせになったクルルの首を押さえたまま、彼らはラルダだけを網からほどくと後手に縛り上げて部屋から出した。そして小柄な妖魔は網を身にからめたまま部屋に残され、黒髪の尼僧も同じ階の離れた部屋に手を縛られたまま閉じ込められた。


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