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『鉄鎖のメデューサ』  作者: ふしじろ もひと
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第16章

 夕方ロビンが最後の仕事を終えて帰ってくると、戸口に花瓶の首が置かれていた。いわれたとおりに花瓶の胴と置きかえると、半時ほどでラルダがやってきた。

「旅装束だ。私とそろえてある。巡礼の旅と答えればいい」

 ゆるい草色の長衣と茶色のフードは妖魔のシルエットを包み、ロビンと並んでも区別がつかなかった。

 ロビンは店主が餞別にくれた一篭の林檎を分けた。餞別というだけあって、今までもらっていた売れ残りよりかなりましな味がした。クルルがもらした切なる喉声に、ラルダがなるほどと低く呟いた。

 ラルダは机の上に地図を広げた。小さな一人と一匹はどちらも初めて見る地図を物珍しげに覗き込んだ。そんな彼らにラルダは地図をなぞりながら旅の道筋を説明した。ラルダは訪ねた村々で薬草の知識や治癒呪文で人々を癒し、その報酬を路銀としてこの二年間ずっと大陸各地を旅してきたというのだ。

 いつしかロビンはラルダにこれまでの旅の話をせがんでいた。ラルダはクルルがなるべく退屈しないよう、ときどき地図を指しながらゆっくりと話した。黒髪の尼僧のゆるやかな声につれて、夜もゆっくりと更けていった。


 最初に異変に気づいたのは小柄な妖魔だった。机に広げられた地図に向いていた顔が突然中空に向けられ、触手の束がざあっと戦慄した。顔に脅えが走った。

「どうしたの、クルル!」「静かに!」

 ロビンを制し、耳をそばだてたラルダの顔色が変わった!

 ロビンの耳にも届いた。遠くから、だがはっきりと。ごりっという音、重い音。ごりっという音、重い音。

「しまった!」

 険しい表情でラルダが戸口に目を走らせた。

「裏口はないのか? ロビン!」

「壁の向こうはよその部屋なんだ。どこの部屋も戸や窓は通りに向いたのしかないんだ」

 ロビンの声に被さるように、別の方角からも同じ音が聞こえてきた。

「くっ、油断した! 裏通りにも手が回ったかっ」

「ニンギョウ! イシノニンギョウ!」

「落ち着け! こうなったらやり過ごすしかない。ベッドの下にでも」

 その言葉を同じ並びの離れた場所から響く轟音が圧倒した! 驚いたクルルが跳び上がり、ロビンもラルダも絶句した。


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