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『鉄鎖のメデューサ』  作者: ふしじろ もひと
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第15章

「街中では結局成果なしか……」

 アーサーは宿舎に集まった三人の話を聞いて唸った。

「アンソニーはまだか?」

 リチャードの言葉にアーサーはうなづいた。

「でも街に情報がないということは、逆にいうと秘密裏に探してメデューサの居所を掴んだということになるんじゃないか?」

「やっぱりきな臭くありませんこと?」

 エリックの言葉にメアリも相づちを打った。

「ただ者じゃないことは確かだな。なにしろメデューサを自力で捕まえるというんだから。ひょっとしたら犯人と関係があるかもしれんぞ」

「だったら警備隊に話を持ってきた理由はなんだ?」

 リチャードに聞き返したアーサーの問いに答えられる者はいなかった。沈黙を破ったのはその場の四人の誰でもなかった。

「遅くなったでありますよ!」

「ずいぶんごゆっくりの登場ですわね、アンソニー。つまらないみやげ話だったら許しませんことよ」

 目ざとくメアリが見てとったとおり、アンソニーの息ははずみ顔は紅潮していた。

「命令の出所はノースグリーン卿の代行を勤めているホワイトクリフ卿。命令権者としては正しいのでありますが、だったら卿がメデューサを捕獲する方法なり協力者を見い出したということになるわけで、まずここが変といえば変であります。しかも、例のメデューサを街へ持ち込んだ大男兄弟が受け渡しに行ったら留守だったとかいう一軒家から、男が一人出てきたであります。後をつけていったら、確かにノースグリーン卿の館へ入っていったでありますよ」

「一体どういうことだ? それは」

 アーサーが困惑した声で唸った。


 伯爵領であるスノーフィールドには爵位を持つ者は少ない。そのスノーフィールドにおいてロッド・ホワイトクリフおよびエドワード・ノースグリーンはいずれもナイトの称号を持っていた。それはこの地における働きが伯爵の、そしてヴェルスム国の王の評価を得たことにより名乗りうる称号であった。

 だが、両者の立場は対照的だった。ロッド・ホワイトクリフは祖父や父もナイトの称号を得た旧家の出であり、代々続いた評価により世襲で名乗ることを許されてはいるものの、若い彼自身がそれに見合う働きを評価されたわけではなかった。ロッド本人は周囲以上にそのことを自覚していた。

 そんな彼にとって、エドワード・ノースグリーンは嫌でも意識せざるをえない相手だった。平民出身でありながらその実績でナイトの称号を得るところまで登りつめた彼は、ロッドにとって父や祖父がかつて通った道を辿る人物であったが、偉大な父祖に肩を並べるに至っていないという自覚に苛まれる若き当主にとっては自らを脅かす目の上のこぶであった。共にスノーフィールドの守りの要である警備隊の運営に携わる幹部の一員でありながら、ロッドはエドワードと衝突しつつも、年上で経験も豊富な相手に遅れを取っていることをかえって周囲にあからさまにする結果を招きがちだった。その焦りがさらに過激な言動につながり、彼は警備隊においてむしろ煙たがられていたのだ。


 しかし、このメデューサ騒動の起こる少し前、エドワードは長期休養を申し出ていた。ロッドはその間に実績を上げねばとの思いゆえ、警備隊の総力をあげてメデューサの消息を追っていた。だが、その熱意とは裏腹に成果はあがっていなかった。

 そんな彼がメデューサの居所を探り当てた。あまつさえ自力で捕まえると豪語しているとなれば、アーサーならずとも困惑するのが当然というほかなかった。

「そもそもノースグリーン卿はなぜ休んでいるんだ? ご病気なのか?」

「ご家族が重病だとかいう話だぞ」

「セシリアとかいうお嬢さんだそうでありますよ。十四とか」

 一瞬、沈黙が訪れた。


 その担った重責を思えば、この長きに渡る休養は異例だった。それが許されている理由は明らかだった。おそらく容易ならざる病状であろう会ったこともない少女に、五人の若者たちはしばし想いをはせていた。


「ともかく、だ」

 ややあって、アーサーは仲間たちを見渡していった。

「ホワイトクリフ卿がどうやってメデューサを捕まえるつもりかは、本部でその協力者に会えばわかる。でもノースグリーン卿とメデューサのつながりは探るしかない。打ち合わせがすめばアンソニーにはノースグリーン卿の屋敷を見張ってもらうことになりそうだな」



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「魔力を持つ存在を感知する宝玉ですって?」

 魔術師としての興味にかられて、メアリが大きく身を乗り出した。

 警備隊本部で五人の若者たちの前に現れたのは、グレゴリーというやせた老人だった。ホワイトクリフ家で長く執事を務めている魔術師とのことだった。老人が懐から取り出した玉の中には、光の点が2つ映っていた。それが魔術師である彼自身とメアリに対する反応だと告げたあと、震え声の老執事は続けた。

「つい先日これが手に入りましてな。精度はあまり高くないのでどこの家にそれがいるかまでは感知できぬが、ブロック単位ならわかるのですじゃ。それで、スラムの川に近い一角にしばらく前から魔力を帯びた者がいることが掴めたのですじゃ」

「その宝玉は、つい先日手に入れられたのでしょう?」

 思わず訊き返したアーサーに、グレゴリーは宝玉を指し示していった。

「これを譲ってくださったお方がおっしゃるには、かなり前からその光は動いていない。そしてあの一角には魔術師はおろか占いの店ひとつない。しかもその一角では、人間と思えぬ小さな影がしばしば目撃されたということなのですじゃ」

 震える声でいう魔術師を前に、五人の若者たちは当惑の視線を交し合った。

 主に対する忠誠心は疑う余地がなかった。魔力も確かにいまだ備えているようではあった。だが自分の話のあやふやさ自体に、執事の老人が気づいていないのはあまりにも明白だった。

「では、グレゴリー殿。これを譲ってくれた協力者という方は、なぜこの場に来られていないのです?」

 リチャードの問いに対する答えもあやふやの極みだった。

「メデューサを捕まえる切り札の数を揃えるのに手間取ったので来れなくなった、だから代わりに話しておいてほしいとのことでしたのじゃ。それが届き次第、お屋敷に届けやつがれに使い方も教えるとのことでしてな」

「じゃあ、作戦の打ち合わせはお預けということですのっ?」

「メデューサは若君が必ずや捕まえますですじゃ。及ばずながらやつがれも若君に力添えをばいたします所存。皆様方は安んじて容疑者の確保に全力を挙げてくだされ」

 いらだちを隠そうともしていないメアリの態度にも、忠誠心と善意の塊のような老人は気づいた様子さえなかった。エリックが嘆息し、天を仰いだ。



「安んじてなんかいられるわけないじゃないですのっ!」

 老人が帰ったあとの部屋にメアリの叫びが響き渡った。

「協力者の素性も不明。しかも情報はその協力者の話を鵜呑みにしているだけ。踊らされているのは絶対に間違いないな」

「ホワイトクリフ卿もよくもまあ、こんな話に乗る気になったもんでありますな」

「それだけ焦っているということなんだろうが……」

「それでもやはりこれは動きだ。とにかく状況を見ながら最善を尽くすしかない。メデューサにうかつに近づくわけにもいかないから、確かにここは容疑者の確保に全力を上げよう。もちろん、ご親切な協力者とやらも含めてだ。アンソニーは予定通りノースグリーン邸を見張ってくれ」

 スノーレンジャーたちはアンソニーを除く四人が夕方六時に本部前に集合すると決めて、さらなる情報集めに街へと繰り出していった。


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