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(59)レオンの計画

挿絵(By みてみん)

 ホルガーは、そのままナタの実家、すなわち元老院のメンバーであるゴードン・スチュワートの元へと向かうことになった。


「叔父様は、もうお戻りになられたのか?」


 待たせていた馬車に乗り込んだ三人は、まずは状況の確認から始めることにした。


 ホルガーの質問に、これはシュタインが即座に答える。


「はい、ゴードン様は夕方頃に屋敷へお戻りになられました。宰相や他の元老院の方々も同時に」

「ということは、俺だけが最後まで残されていたのか……一体何故だろう?」


 ホルガーは、王城に入った途端狭い部屋に通され、それ以降全く説明もなく軟禁されていたことを伝えると、レオンが腕組みをしながら唸った。


「お前、何かやったのか?」

「思い当たる節は全く」


 ホルガーは肩をすくめた。


「結局は何だったのか、さっぱり分からないんだ」


 そして、真剣な表情に戻る。


「……でも、レオンとシュタインがここにいるということは、ナタはもう王城にいるってことだろう?」


 それに対し、レオンは不機嫌そうに頷いた。


「ああ。俺が屋敷から離れた隙にやられた。シュタインが、ナタが王国騎士団に腹を殴られて意識を失ったところまで目撃している」

「なんだって!?」


 レオンの言葉を聞いた途端、ホルガーの表情が一変した。


「ナタを……殴った……?」

「ホルガー様、申し訳ございません! 私が傍についておりながら……!」


 シュタインががっくりと肩を落とすと、レオンがシュタインの肩をぽんと叩いた。


「ホルガー、シュタインもその直後に殴られたんだ。俺が乗り込んだ時には、まだ意識も戻っていなかったから」

「……ちょっと止めてくれないか?」

「ん?」


 ホルガーが、ガタガタと揺れる馬車の中でゆらりと立ち上がると、取手に手を伸ばした。


「王国騎士団だな、分かった。片っ端から殴っていけばそいつに辿り着くかな。いや、もういっそのこと始めから全員斬り捨てて」


 ぶつぶつと呟くホルガーを、レオンが大慌てで抱きついて止めにかかった。


「ちょっと待て! 待て待て待て!」


 必死で押さえつけるレオンから、普段の様子からは信じられない程の力でホルガーは抜け出そうとする。


「離してくれレオン! ナタを殴ったなんて、あり得ない! とりあえず顔が分からなくなるまで殴って、それから首を」

「落ち着け! お前が犯罪を犯したら、ナタは本当に出て来られなくなるぞ!」


 レオンがそう言った途端、ホルガーが力を抜いた。その拍子に、レオンが反動でひっくり返る。


 馬車が左右に激しく揺れた。


「つ……!」

「ほら、しっかりしろレオン」


 呆れた様に見下ろしながら手を差し伸べたホルガーを、あり得ないものを見る様な目付きで見ていたレオンだったが、そんなことをしている場合ではないことを思い出したのだろう。ホルガーの手を素直に借りると、座席に座り直した。


「お前の父親のグレゴリー殿が再度城に抗議を入れようかと言っていたところで、ゴードン殿が戻ったとの連絡が入ったんでな、急いでナタの家に向かったんだ。てっきりお前も解放されたものだと思っていたのにお前がいないもんで、グレゴリー殿とゴードン殿のお二人から解放するように言ったら、こうしてようやく解放されたって訳だ」

「そうか……しかし本当に何故俺だけ?」


 ホルガーが不思議そうに首を傾げると、レオンが少しためらいを見せつつも、言った。


「いいかホルガー、落ち着いて聞けよ。間違っても城に戻るとか言って暴れるなよ?」

「なんだよ、勿体ぶって。俺はすこぶる平静だよ」

「よく言う……まあいい。お前を解放する様にお前のところの王太子に申し立てをしたところ、間に入った使者が言ったんだ。『忌々しいが約束だから仕方がないと仰っておられました』と。随分と口の軽い使者だったぞ。で、それからすぐお前が出て来たんだ」


 ホルガーが立ち上がったらいつでも押さえつけられる様にか、レオンは少し腰を浮かした状態で待機していた。ホルガーは、レオンの言葉を吟味しているのか、腕組みをしたまま考え込んでいる。


 ホルガーが、ゆっくりと口を開いた。


「約束……誰とのだ?」

「聞いたが分からないとの返事だったが、今この状況ではひとりしか考えられん」


 ホルガーの柔和だった顔が、恐ろしげに歪んだ。


「ナタ……」


 レオンはそれに対し頷く。


「恐らく、ナタと王太子の間で何らかの取引が為されたんだと思う。ここまでくれば、奴がナタを手に入れたがっていたのは明白だからな、ナタが何かを条件にお前達の解放を取り付けたんじゃないか?」

「条件!? 一体そもそもアルフレッドは何が目的なんだ?」


 ホルガーが声を荒げるが、レオンは静かに首を横に振るだけだ。


「分かんねえんだよ。だけど、このまま何もしていない公爵令嬢を拘束していい訳がない。だから、向こうから何らかの接触がある、とゴードン殿はみている」


 レオンの様子を見て、ホルガーが更に声を荒げる。


「レオン、君はナタが心配じゃないのか!? 何でそんな冷静に……!」

「――冷静に見えるか?」


 レオンが睨みつける様な目つきで答えた。ホルガーは、はっとしてレオンの握り締められた拳に視線を移す。あまりにも強く握られたそれは、色が白く変わっていた。


「レオン……」


 ホルガーが、頭を垂れる。


「済まない、君に酷いことを言った」


 すると、レオンがにやりと笑って答えた。


「いや、謝らなくていい」

「――え?」

「俺には俺のやり方があるんだけどな、それを押し通すと、多分俺はお前に謝らないといけなくなるからな」


 ホルガーは、何のことか分からずぽかんとしている。


「すまないレオン、言っている意味が分からないんだが……」


 ホルガーの言葉に、レオンは姿勢を正しホルガーに真っ直ぐに向き直り、言った。


「お前が戻ってくるのを待っていた。お前とゴードン殿の許可なしには、俺は動けない。さすがにそこまで人でなしにはなりたくないからな」

「人でなし……?」


 やはり分からないままのホルガーに、レオンが表情を引き締めて続ける。


「お前には酷な選択だ。だが、他に助ける方法が思いつかないんだ」

「え……」

「続きは、ナタの家に着いてからにしよう」


 レオンはそう言うと、窓の外に視線を移した。


次話は夕方頃投稿の予定です。

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